2018 Fiscal Year Research-status Report
癌幹細胞によるニッチ構築の分子細胞基盤とその制御-鉄欠乏応答からのアプローチ
Project/Area Number |
17K07156
|
Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
椨 康一 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 助教 (10466469)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | がん / 癌幹細胞 / 微小環境 / ニッチ形成 / 死細胞 / ネクローシス / マクロファージ / 貪食 |
Outline of Annual Research Achievements |
癌幹細胞による新たな微小環境(ニッチ)形成機構の解明を目指して、今年度は癌幹細胞の死骸とマクロファージ(Mφ)の相互作用に着目した研究を実施した。ネクローシスを起こしたグリオーマ癌幹細胞の表面上にホスファチジルセリンの高い発現が確認された。また以前に癌幹細胞由来のCSF2がMφ分化を誘導することを明らかにしたことから、CSF2を用いて誘導したマウス骨髄単球由来のヘテロなMφ/樹状細胞集団に癌幹細胞由来の死骸を添加したところ、F4/80陽性のMφ、中でもCD204陽性およびCD11c陽性の腫瘍随伴Mφ(TAM)サブセット特異的に死骸が貪食されることが明らかとなった。さらに非癌幹細胞由来の死産物と比較して、癌幹細胞由来の死骸がそれらTAMの発生を促すことや、死産物を貪食したMφにおいてIL-12bサブユニット遺伝子の発現が増加することが明らかとなった。そこで膠芽腫患者由来細胞の培養系において、サイトカインIL-12およびIL-23の癌幹細胞維持作用を検証したところ、IL-12添加時にスフィア形成数が有意に増加することが明らかとなった。また、グリオーマ患者の遺伝子発現データベースを用いた解析で、膠芽腫患者の再発例においてIL-12bを高発現する群で有意に予後の悪いことが明らかとなり、死細胞貪食Mφのグリオーマ悪性化への関与が示唆された。以上の結果は自らの細胞死を介してニッチを構築する癌幹細胞の巧みな生存戦略の一端を示すものであり、癌幹細胞の生死の棲み分けを司るメカニズムの解明が癌-微小環境間の相互維持を阻害する新たな治療戦略の開発に繋がると考察された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
がん幹細胞による新規のニッチ形成メカニズムとして細胞死を介する経路を明らかにできた。一方、当初計画していたCCL2陽性単球動員細胞の薬剤耐性・再発への寄与について、ゲノム編集によるセルノックアウト系の構築を試みたが、CCL2を低く発現する大部分の非癌幹細胞もまた高感度に死滅してしまい、がん幹細胞特異的な排除を達成することができなかった。そこで現在はケミカルバイオロジーの手法を用いたアプローチへとシフトし、CCL2陽性細胞を制御する機能性化合物を探索中である。
|
Strategy for Future Research Activity |
樹立済みのCCL2レポーター細胞を用いて、単球動員細胞に自己複製抑制、あるいは分化促進をもたらす機能性化合物の探索を行う。Mφ誘導因子CSF2などCCL2以外のニッチ構築分子を指標とするレポーター細胞も作製し、機能性化合物の探索を進める。得られたヒット化合物の作用点を明らかにし、ニッチ構築がん幹細胞の制御に関わる分子経路を明らかにする。化合物のニッチ形成阻害効果をマウス個体レベルで検証し、現行のグリオーマ第一選択薬テモゾロミドとの併用による新たなグリオーマ治療法の確立を目指す。
|
Causes of Carryover |
特異性の高いセルノックアウト系の構築が達成できなかったため当初予定していたin vivoでの機能解析には至らず、未使用分が発生した。一方速やかに化学的アプローチへとシフトし既に候補化合物の抽出も終えたことから、最終年度はそれらをツールとして標的分子経路の解析、マウス個体での機能解析と治療効果の検証を同時に遂行可能な状況となっている。そのほかの細胞培養器具、組織解析用試薬、質量分析の委託費用、および学会参加費に使用する計画に関しては、当初の予定通りである。
|