2017 Fiscal Year Research-status Report
がん細胞の浸潤・転移におけるシスチン・グルタミン酸トランスポーターの機能の解明
Project/Area Number |
17K07158
|
Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
佐藤 英世 新潟大学, 医歯学系, 教授 (60235380)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岡田 太 鳥取大学, 医学部, 教授 (00250423)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | xCT / シスチン / 転移 / メラノーマ / 浸潤 |
Outline of Annual Research Achievements |
アミノ酸輸送系の一つであるシスチン・グルタミン酸トランスポーター(xCT)は、多くのがん細胞において強く発現しており、がんの増殖や浸潤、転移能、抗がん剤耐性、また、がん幹細胞の特性維持などに深く関与することが報告されるようになってきた。本研究では、xCTの機能のうち、特に細胞外環境形成に関わる機能に注目して、がんの浸潤や転移等の病態成立におけるxCTの役割を解明することを目的として、29年度は、以下の研究を行った。マウスへ移植することにより、高頻度で特定臓器に転移することが知られているマウスB16メラノーマ(F-10株)に対し、CRISPR/Cas9システム(Life technologies社)を用いてxCT遺伝子の欠損株を樹立した。また、このxCT欠損細胞にxCTを強制発現するベクターを安定的に導入した細胞(3ライン)を樹立した。これらの細胞と親株であるB16F10の浸潤能をマトリゲルを用いてin vitroで調べたところxCT欠損細胞で著しい浸潤能の低下が認められた。また、xCT導入株では浸潤能が回復した。遊走能についても同様の結果が得られた。この時、グルタチオンの合成阻害剤を添加すると浸潤能や遊走能の低下が見られ、xCTの誘導剤を添加すると浸潤能や遊走能が上昇した。次に、これらの細胞を用いてマウスに移植し、転移能について検討を行った。その結果、尾静脈内移植による肺への転移を調べる実験的転移モデルにおいて、xCT欠損株は、親株やxCT導入株に比べて著しい転移能の低下が見られた。足蹠にこれらの細胞を移植したのち原発巣を切除し、その後の遠隔臓器転移を比較する自然転移モデルに置いてもxCT欠損細胞は他の細胞に比べて有意に転移能が低下することが明らかとなった。これらの研究と並行して、xCTの特異的阻害剤であるエラスチンについて、その阻害特性の解析を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
高頻度で特定臓器に転移することが知られているマウスB16F10メラノーマのxCT遺伝子を特異的にノックアウトしたxCT欠損細胞、さらにこのxCT欠損細胞にxCTを強制発現するベクターを導入した細胞を樹立した。これらの細胞と親株であるB16F10細胞をマウス(C57BL/6J)の尾静脈から移植し、一定期間(4-8週)後、肺への転移の程度を親株のがん細胞を投与した場合と比較検討した。次に自然転移モデルとしてこれらの細胞を皮下移植でxCT欠損の影響を検討した。移植部位での腫瘍の体積変化を経時的に観察するとともに、他の組織への転移の有無も調べた。さらに、足蹠にこれらの細胞を移植し、25日目に原発巣を摘出して一定期間後、膝下リンパ節や腹腔内の各リンパ節ならびに肺、肝などの遠隔転移の程度を比較検討した。in vitroの実験系として、スクラッチアッセイにより、これらの細胞の遊走能を検討した。また、マトリゲルを用いて、浸潤能についても検討した。一連の実験系にグルタチオン合成阻害剤やxCTの誘導剤で処理した細胞について、遊走能や浸潤能がどのように変化するか検討した。さらに、xCTの特異的阻害剤であるエラスチンの阻害特性を他のxCT阻害剤と比較検討し、エラスチンが他のxCT阻害剤とは異なり、不可逆的阻害をすることを示した。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでにin vitro及びin vivoの実験系において、B16F10メラノーマとそのxCT欠損細胞、さらにxCT欠損細胞にxCTを強制発現させるベクターを導入したxCT回復細胞を用いて、がん細胞の増殖・浸潤・転移におけるxCTの重要性を明らかにしてきた。in vivoの系においては、いくつかの原理の異なる転移モデル系において、同様の結果が得られたことから、in vivoにおいてxCTががんの転移に重要な役割を演じていることが概ね証明された。今後は、さらにn数を増やすことにより、この結果を完全に証明することを目指す。一方、xCTががんの転移にどのように関わるか、そのメカニズムの解明は進んでいない。今後は、in vitroの系を有効に活用して、xCTが欠損することにより転移能が低下するメカニズムを解明することを目指す。
|
Causes of Carryover |
本研究で利用した動物飼育施設は、動物を一定期間飼育するため、平成29年度末から30年度初めにかけて継続的に利用している。施設利用費は、月末締めで次月以降に請求されるため、見かけ上次年度使用額が生じた。
|