2017 Fiscal Year Research-status Report
オルガノイドを用いた胃がん幹細胞の可視化と効果的な治療法の探索
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17K07161
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
村上 和弘 金沢大学, がん進展制御研究所, 助教 (60455368)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | がん幹細胞 / 胃がん / オルガノイド / LGR5 |
Outline of Annual Research Achievements |
現在、我が国においてがんは死亡率トップの病気であり、中でも胃がんは肺がんと並び、がんによる死因の多くを占めている。本研究課題においては、胃がん幹細胞の増殖性・可塑性・分化能を制御する機構を生体外で迅速かつ詳細に解析を行い、それらの知見を基盤にして生体内で胃がんを根絶する真に効果的な治療法を確立することを目的としている。 (1) オルガノイドを用いた胃がん幹細胞の可視化と特性の理解; 本研究計画においては、胃特異的にがんを発症するマウスモデル(Ganマウス)と、胃の幹細胞特異的に緑色蛍光タンパク質(EGFP)を発現するLgr5DTR-EGFPマウスを交配し、得られたマウスの胃よりオルガノイドを樹立することで胃がん幹細胞を可視化し、その存在を明らかにする。また、ヒト胃がん組織より樹立したオルガノイドにおいて、LGR5遺伝子座にEGFPを挿入することでヒト胃がん幹細胞を可視化する。これらの胃がん幹細胞を単離し、分子生物学的解析を通してその特性を理解する。 (2) 遺伝子編集技術を用いた胃がん幹細胞制御機構の解明; これまでに、Ganマウスおよびヒト胃がんより安定的にオルガノイドを樹立し、遺伝子編集を行うことに成功している。本研究では、悪性化胃がんにおいて高発現し、高頻度で変異が見られる遺伝子をマウス/ヒトオルガノイドで発現誘導もしくはノックアウトし、機能的な検証を通して胃がんの悪性化を導く機構を明らかにする。 (3) マウス生体を用いた胃がんの効果的な治療法および抗がん剤の探索; 幹細胞を可視化したヒト胃がんオルガノイドをマウスの生体内に移植し、(1)、(2)で明らかとなる知見をもとに、悪性化を導く機構を標的として生体内においてがん幹細胞を攻撃し、がんの再発・転移を防ぐ新規治療法の開発し、既存の抗がん剤を組み合わせることで、胃がん全体を撲滅できる効果的な治療法の開発に貢献する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1. オルガノイドを用いた胃がん幹細胞の可視化と特性の理解; 胃がん幹細胞を可視化するために、胃特異的にCOX-2/PGE2遺伝子およびWnt-1遺伝子が発現し、炎症とWntパスウェイの亢進を引き起こす結果、胃がんを発症するGanマウスとLgr5遺伝子座にEGFP遺伝子が挿入された結果、胃幹細胞を可視化できるLgr5DTR-EGFPマウスを交配し、得られたマウスより胃正常および胃がんオルガノイドを樹立した。また、胃がん患者より摘出した胃がん組織と周囲の正常組織より、ヒト胃正常および胃がんオルガノイドを樹立した。続いて、CRISPR/Cas9遺伝子編集技術を用いてLGR5遺伝子座の下流にEGFP遺伝子を挿入した。 2. 遺伝子編集技術を用いた胃がん幹細胞制御機構の解明; ヒト胃がんで高発現する遺伝子群および高頻度に変異が見られる遺伝子群を比較し、ヒト胃がん幹細胞の増殖・維持に重要な候補因子を抽出した。悪性化がんは未分化な細胞特性を獲得することが示唆されているため、特に細胞の未分化性維持に関連する遺伝子に着目して検証を進めている。具体的には、トランスポゾン由来の配列を持ち、転移因子の仲介によって効率良くゲノムに挿入されるPiggyBac発現誘導型ベクターおよびCRISPR/Cas9遺伝子編集技術を用いて、1.で樹立したマウス・ヒトの正常・胃がんオルガノイドで候補因子の時期特異的強制発現およびノックアウトを行い、オルガノイドにコロニー形成能・増殖能・形態の変化を引き起こす因子を選定した。続いて、これらの遺伝子改変オルガノイドを用いて、細胞浸潤アッセイやコロニー形成アッセイを行うことでさらに候補因子を絞り込み、最終的には、それらのオルガノイドを免疫不全マウスの生体内に移植し、がん細胞の増殖能や転移能を確認することで、胃がんの悪性化を導く因子を同定した。
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Strategy for Future Research Activity |
1. オルガノイドを用いた胃がん幹細胞の可視化と特性の理解; コロニー形成アッセイ、浸潤・遊走アッセイなどの生体外実験および生体内移植実験を通して、LGR5陽性細胞がヒト胃がん幹細胞である可能性を検証する。続いてFACSを用いてヒト胃がんオルガノイドよりLGR5-EGFP陽性細胞を回収し、包括的遺伝子発現解析を行い、LGR5陽性胃正常組織幹細胞および他組織のがん幹細胞の遺伝子発現パターンと比較することで、ヒト胃がん幹細胞で特異的に発現する遺伝子を抽出し、胃がん幹細胞の増殖・維持・分化に関わる候補因子を明らかにする。これまでに知られていなかった胃がん幹細胞の特性を理解する。 2. 遺伝子編集技術を用いた胃がん幹細胞制御機構の解明; 引き続き、胃がんオルガノイドと分子生物学的手法を用いて、候補因子の下流調節機構を詳細に解析し、胃がん幹細胞の増殖・維持・分化を制御する分子機構の全容を解明する。一方で、レンチウイルス発現系を用いたCRISPR/Cas9遺伝子欠損スクリーニングと浸潤アッセイおよびコロニー形成アッセイなどの生体外実験と免疫不全マウスへの移植などの生体内を組み合わせ、網羅的な責任遺伝子の探索を行う。 3. マウス生体を用いた効果的な治療法および抗がん剤の探索; 1.で明らかになった胃がん幹細胞の増殖能・転移能を制御する機構を標的として、悪性化がんに対する効果的な治療法をマウス生体内において検証する。具体的には、CRISPR/Cas9技術を用いてがん幹細胞を可視化したヒト胃がんオルガノイドで候補遺伝子に条件的欠損変異を導入し、免疫不全マウスの胃に接種する。がん細胞の増殖と他臓器への転移頻度を指標に、候補因子の条件的欠損がマウス生体内においてがん幹細胞の増殖能・転移能を抑制することを確認する。併せて、これらの移植マウスを用いて、既存の抗がん剤との効果的な組み合わせを探索する。
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