2018 Fiscal Year Research-status Report
核内輸送蛋白質インポーチンに着眼した成人T細胞白血病の発症機構の解明と治療戦略
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17K07175
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
石川 千恵 琉球大学, 亜熱帯島嶼科学超域研究推進機構, 助教 (90542358)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 成人T細胞白血病 / HTLV-1 / インポーチン / Importazole / Ivermectin |
Outline of Annual Research Achievements |
転写因子NF-κBやAP-1は細胞増殖や生存に重要な遺伝子の発現を制御し、ATLの治療標的分子である。本研究の目的は、HTLV-1感染により発症する成人T細胞白血病(ATL)の治療戦略の再構築である。 転写因子の核局在信号に結合して、核内に輸送する役割を担うインポーチン(IPO)の二つのサブユニットαとβのうち、βファミリーの一つIPOβ1の発現が感染により誘導されること、IPOβ1の遺伝子ノックダウン(K/D)やIPOβ1阻害剤Importazole(IPZ)やIPOα/β1阻害剤であり、感染者が合併感染する糞線虫の駆虫薬Ivermectin(IVM)が細胞増殖や生存を抑制することを昨年度は見出した。両阻害剤の特異性について検討すると、非感染T細胞株や健常人PBMCに比べて、感染T細胞株のIC50は有意に低値であった。IPZやIVMはアポトーシスを誘導したが、広域スペクトルのカスパーゼ(CASP)阻害剤により細胞死が部分的に抑制されたことからもCASP依存性細胞死の誘導が確認された。昨年度はSCIDマウスを用いたIVMの抗腫瘍効果を検討したが、サロゲートマーカーである血清可溶型IL-2RやCD30を測定したところ、治療群で低下していた。 本年度は、ATLと同様に難治性で、カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(KSHV)感染により発症する原発性体腔液性リンパ腫(PEL)の治療標的としてのIPOβ1の可能性についても検討した。IPOβ1のK/DやIPZ、IVM処理はKSHV感染PEL細胞株にG1期での細胞周期停止やCASP依存性アポトーシスを誘導し、細胞株移植後SCIDマウスに発生する腹水の貯留をIVMは有意に抑制した。IPOβ1はATLのみならず、PELの治療標的でもあり、IVMの抗腫瘍効果の発見は、既存薬を別の疾患薬として利用する「ドラッグ・リポジショニング」の成果とも言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの解析の結果、(1)HTLV-1感染T細胞株に選択的にIPOβ1が高発現しており、HTLV-1感染によってウイルストランスフォーミング蛋白質Taxの発現と並行してPBMCに発現誘導されること、(2)IPOβ1をK/Dすることで感染T細胞株の増殖が抑制され、細胞周期のG1期からS期の移行に重要なc-myc、cyclin D1/D2の発現が抑制されること、(3)試験管内実験及び動物実験において、IPOβ1阻害剤(IPZやIVM)がNF-κBやAP-1の核内移行やDNA結合を阻害し、両転写因子制御下の細胞周期関連蛋白質(c-Myc、cyclin D1/D2/E、CDK2/4/6)やアポトーシス阻害蛋白質(survivin、c-IAP1/2、XIAP、Bcl-xL)の発現を抑制し、アポトーシス誘導蛋白質(Bak)の発現を増強させ、pRbの脱リン酸化を誘導すること、その結果、G1期での細胞周期停止とCASP依存性アポトーシスが誘導され、抗ATL効果を発揮することを証明した。以上の結果、IPOβ1を標的としたATL治療の可能性が示された。IVMの抗腫瘍効果の発見は、今後、感染者のウイルス量低減効果といった臨床試験を開始する理論的根拠ともなりうる。現在、これらの成果をまとめ、国際的学術誌に論文を投稿中である。 さらに、KSHV感染PEL細胞株においても、IPOβ1のK/Dは細胞増殖を抑制し、IPZやIVMは細胞増殖や生存を特異的に抑制し、G1期での細胞周期の停止とCASP依存性アポトーシスを誘導した。また、PELモデルマウスにおいてもIVMの腹腔内投与は治療効果を認めた。すなわち、IPOを標的とした治療は、他のウイルス関連悪性腫瘍でも有効である可能性が示唆され、対象疾患はさらに増加する可能性も期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
ATLにおけるIPOβ1阻害剤のNF-κBやAP-1経路に関しての解析は、ほぼ終了したが、他の転写因子であるSTATの経路に関しても解析を実施する。また、広域CASP阻害剤の作用が、限定的だったことから、IPZやIVMにより誘導される細胞死は、CASP非依存性の経路も解析する必要があり、ネクロプトーシスやフェロプトーシスの誘導についても検討を開始している。またこれらの細胞死と関連するROSの関与についても検討する予定である。 KSHV感染PEL細胞株に対するIPZやIVMの作用機序に関しては、上記転写因子の核内移行、DNA結合に対する影響や下流の細胞遺伝子発現に及ぼす影響、さらにウイルス遺伝子の発現に及ぼす影響を解析する。また、KSHV感染とIPOβ1発現の関係についても解析し、これらの成果をまとめて、来年度は学会発表を予定しており、論文投稿を目指す。さらに、その他のウイルス関連悪性リンパ腫(バーキットリンパ腫、ホジキンリンパ腫)についても治療標的としてのIPOβ1の可能性について検討していく。 HTLV-1、KSHV、EBVのトランスフォーミング遺伝子によるIPOβ1発現誘導を検討し、発現制御機構を解明する。またIPOβ1を過剰発現、もしくは発現を抑制することで変化する遺伝子を網羅的に解析する。IPOβ1以外のIPOβファミリーやαファミリー遺伝子に関しても感染による発現変化の検討を進める。さらに、臨床検体を用いて、疾患発症危険群予測因子や予後因子としてのIPOの可能性について検討する。そして、総合的にウイルス関連悪性腫瘍におけるIPOの役割を検証する。
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Research Products
(8 results)