2019 Fiscal Year Research-status Report
Development of a new anticancer agent derived from palmitic acid for the treatment of colon cancer
Project/Area Number |
17K07223
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Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
酒々井 眞澄 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 教授 (30347158)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 天然物 / 抗がん物質 / 大腸がん / 転写因子 / STAT3 / 腫瘍選択性 / 構造活性相関 / インシリコ |
Outline of Annual Research Achievements |
パルミトイルピペリジノピペリジン(PPI)は私たちの研究グループが独自に開発した新規抗がん物質である(特許第5597427号, 2014年登録)。これは、天然物にはがん細胞だけを殺し正常細胞への毒性が少ないという特性(腫瘍選択性)をもつ物質が含まれるとの私たちの研究成果にもとづいている(Oncol Rep 2: 349, 2009)。これまでのPPIについての研究(科研費H22~24, H25~28)では、コンピュータ解析(インシリコ)において、PPIは転写因子STAT3の2量体形成を阻害することで転写活性を抑制することが予測された。リポーター遺伝子を用いた解析では、PPIは実際にSTAT3転写活性を抑制することを見いだした。その他の所見として、PPIはSTAT3を標的分子として(i)ヒト大腸がん細胞に対する高い腫瘍選択性、(ii)STAT3リン酸化抑制、(iii)アポトーシス誘導、(iv)血管新生抑制、(v)移植腫瘍の縮小、(vi)大腸発がんプロモーション抑制がわかった。PPIの優れた特性は高い腫瘍選択性と個体レベルでの低毒性である。しかし、PPIがどのようにして腫瘍選択性を発揮するのかはわからなかった。科研費H29~32ではこの課題に取り組み、腫瘍選択性に必須の構造(ファルマコフォア)を同定した。さらに、腫瘍選択性には、N(窒素)原子がもつプロトンをひきつける特性(求核性)が重要な役割を担っていることを突き止め、PPIのピペリジン構造を開環する(求核性を上げる)ことで腫瘍選択性と抗がん効果がPPIより高い独自のプロトタイプ化合物(プロトA)の開発に成功した(特許第6532730号, 2019年登録, プロトA: N, N-bis(3-(dimethylamino)propyl)hexadecanamide)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
昨年度までの研究成果により、PPIはヒト大腸がんにおいて転写因子STAT3のSH2ドメインに結合することで転写活性抑制により、アポトーシス誘導、血管新生、細胞周期の停止を引き起こすことを明らかにした。さらに、PPIの腫瘍選択性に必須の構造(ファルマコフォア)を突き止め腫瘍選択性と抗がん効果がPPIより高い物質(プロトA)の開発に成功した(特許第6532730号, 2019年登録)。今年度ではプロトAの効果および作用機序を解析した。インシリコ解析にてプロトAは転写因子STAT3のSH2ドメインに結合することが予測された。ドッキングスコアはプロトA >PPI>STA21(SH2ドメイン特異的阻害物質)であった。ヒト大腸がん細胞株HT29が92%死滅した時のプロトAの濃度は0.3 μMであり、この濃度における大腸正常上皮細胞株FHCの細胞生存率は92%であった。プロトAはヒト大腸がん細胞株SW837およびSW480に対してSTAT3の転写活性を抑制し、HT29細胞株に対してSTAT3の発現に影響を与えることなくpSTAT3の発現を抑制した。ヒト大腸がん細胞株への増殖抑制の強さはプロトA >PPI>Cryptotanshinone>5FUであった。FACS解析にてプロトAはsubG1 fractionを誘導した。プロトAはpro-PARP、Bcl-2、pro-caspase9のタンパク発現を減少させた。鶏卵漿尿膜(CAM)アッセイにおいてプロトAは血管数を抑制した。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)リガンドであるPPIとプロトAを比較することで腫瘍選択性の詳しい機序を明らかにする。リガンド分子のN(窒素)原子の求核性がどのようにSTAT3分子上のgroove(くぼみ)との親和性(結合力)に影響するか(インシリコ)、STAT3の2量体形成をどのようにして抑制するか。(インシリコ、細胞実験)、STAT3リン酸化に対してどのように影響するか。(インシリコ、細胞実験)、STAT3が制御する分子(下流経路)へはどのように影響するか、PPIとプロトAの違いをみることで腫瘍選択性を決める機序を明らかにする。(2)動物実験でプロトAの特性(抗がん効果と毒性発現の程度)を検証する。抗がん効果(腫瘍縮小効果、発がんプロモーション抑制効果、発がん抑制効果)を検証する。(動物実験、プロトA)、上記aで毒性影響(生存率、体重、臓器重量、組織像)がどの程度あるかをしらべる。(動物実験、プロトA)、腫瘍組織でSTAT3リン酸化への影響をしらべる。(動物実験、プロトA)、腫瘍組織でSTAT3が制御する分子機能への影響をしらべる。(動物実験、プロトA)、これまでのPPIに関する動物実験データとプロトAのデータを比較することで個体レベルでのプロトAの特性(抗がん効果と毒性発現の程度)を明らかにする、製剤形(遊離型、塩酸塩)に有利な投与方法(経口、注射)を検討する。pKa(酸解離定数)、cLogD(分配係数)、治療域(安全域)=LD50/ED50をもとめる。(動物モデル、計算、プロトA)
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