2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K07270
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
佐伯 いく代 筑波大学, 生命環境系, 准教授 (70706837)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
日浦 勉 北海道大学, 北方生物圏フィールド科学センター, 教授 (70250496)
長田 典之 名城大学, 農学部, 准教授 (80400307)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | カタツムリ / 森林 / 林冠 / 都市化 / 保全 / 生物多様性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、樹上性の希少カタツムリであるサッポロマイマイ(Euhadra brandtii sapporo)を対象に、森林の分断化が与える影響を定量化することである。そのため、本研究では北海道苫小牧市において、(1)本種の密度の把握、(2)操作実験による捕食圧の定量化、(3)捕食者相の把握、の3つを実施した。また、比較のために、地表性のカタツムリであるエゾマイマイ(Ezohelix gainesi)についても同様の調査を実施した。私達はまず都市域の孤立林から連続性の高い自然林まで、面積と周囲の開発の状況が異なる9地点に3か所ずつ調査区を設置し、両種の生息密度を比較した。するとエゾマイマイは都市域の孤立した森林ほど高い密度で生息していた。一方、サッポロマイマイは、森林の連続性の高い地点ほど高密度で生息し、都市孤立林では出現しなかった。また調査地点に糸を結びつけた個体を設置したところ、エゾマイマイは、自然林の林床ではタヌキによる捕食がみられたが、都市孤立林ではそれが見られず調査期間中ほぼ100%の生存率を保っていた。地表に固定したサッポロマイマイも自然林で生存率が低下したが、樹上に固定した個体は都市孤立林と自然林ともに生存率が高かった。。これらの結果から、地上性のエゾマイマイは都市域において捕食圧が緩和され個体数が増加するが、樹上性のサッポロマイマイにはその現象がみられず、都市化による森林の分断化によって個体数が減少している可能性が示された。動物センサーカメラとピットフォールトラップによる調査から、都市化によって捕食者相の個体数が増加する傾向はみられなかった。サッポロマイマイとエゾマイマイは、分布域を共にする陸産貝類であるが、都市化に対する応答は反対の傾向を示することが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は順調に進展している。開始時の計画では、樹上性のサッポロマイマイ1種のみを調査対象とする予定であったが、同所的に分布する地表性エゾマイマイも解析に加えることができたこと、またこの種が、サッポロマイマイとは正反対の都市化応答をしていたことなど、予期していなかった新しい知見を得ることができた。本研究の独創的な点の一つに、操作実験によって、樹上と地表でのカタツムリに対する捕食圧力を定量化することがある。この作業は、カタツムリに糸をつけて、生存率を調べたり、捕食の状況をビデオで記録するといったものであるが、安全かつ順調に作業を実施することができ、良質なデータを得ることができた。さらに、季節を変えて2回実験を実施できたこと、苫小牧市内では記録のなかった外来生物を発見することができたことなどの成果があった。本研究の成果は、現在、学術論文としてまとめているところである。また、今夏に開催される国際学会においても発表の予定である。 上記の調査を行った際、私たちの研究チームでは、補足データとしてカタツムリの捕食者と考えられるオサムシ亜科と哺乳類・鳥類の分布データを採集した。これらは、都市化の進度によって生息状況が異なっており、それがカタツムリ2種に対してどのような影響を与えているのかについて考察をすることができた。複数の捕食者グループを対象として、捕食圧や都市化への影響を把握しようとした研究はこれまであまり例がなく、本研究の独創性を高める成果が得ることができた。さらに、都市域において外来生物の出現確率が高いことがわかり、調査対象地域である苫小牧市の生物多様性の保全管理を考えていく上でも有用な情報が得られた。このように、当初の研究計画に対する直接的な答えに加え、予想していなかった事象についても情報を得られた点で研究は順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
ここまで得られたデータを論文にまとめ、学術雑誌に投稿することが当面の目標となる。これについては順調に進められているので、できるだけ早く発表できるようにしたい。地域の生物多様性保全上の課題についてもリンクさせ、アウトリーチ活動も充実させたい。
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Research Products
(2 results)