2018 Fiscal Year Research-status Report
HIV-1の遺伝子発現を保証するための転写とRNA核外輸送との連携
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17K07283
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
谷口 一郎 京都大学, ウイルス・再生医科学研究所, 助教 (00467432)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | RNA |
Outline of Annual Research Achievements |
HIV-1の遺伝子発現では、細胞の機構に加えてふたつのウイルスタンパク質の転写伸長因子TatとRNA核外輸送因子Revが必要である。感染初期では完全にスプライシングされたウイルスRNAのみが核外輸送されてTatとRevが翻訳される。Tatは転写伸長を促進することでウイルスRNAの発現を増強する。後期ではイントロンを含んだRNAがRev依存的に核外輸送されて構造タンパク質が発現する。 これまでに、TatとRevがウイルスRNAの共通の領域に結合することと、TatとRevが互いに直接結合することを見出していた。これらの発見から、TatとRevが協調的にウイルスRNA上で複合体を形成してHIV-1遺伝子の転写とRNA核外輸送を連携させると考えた。しかし平成29年度において、ウイルスRNAを模擬するモデルRNAを用いた試験管内反応系の実験から、TatとRevのモデルRNAへの結合は協調的ではなく相互排他的であることがわかった。このことは、ウイルス感染時期に応じて、TatとRevは相互排他的にウイルス遺伝子の発現パターンを調節している可能性が考えられた。つまり、初期ではTatがスプライシング反応を促進する活性によってTat自身とRevの発現を誘導し、後期になってRevがスプライシング反応を抑制して構造タンパク質の発現を誘導する、という仮説を立てた。 新たな仮説を検証するため、精製したTatを試験管内スプライシング反応系に添加した結果、モデルRNAのスプライシング産物量が増加した。一方、Revを反応系に添加すると減少した。さらに、両者が存在するときには量比に応じて増減が切り替わった。これらの結果は、TatはHIV-1 RNAのスプライシング反応を促進し、Revは抑制する活性をそれぞれ有すること、さらに、TatとRevは競合的にスプライシング反応を制御していることを示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
HIV-1の転写伸長因子TatとRNA核外輸送因子RevがウイルスRNAの共通の領域に結合することと、TatとRevが互いに直接結合することを見出していた。このことから、TatとRevが協調的にウイルスRNAに結合することにより、ウイルス遺伝子の転写とRNA核外輸送が連携し、両過程が促進されていると想定した。しかし、ウイルスRNAを模擬するモデルRNAへのTatとRevの結合は相互排他的であった。したがって、ウイルスの遺伝子発現において、転写とRNA核外輸送が互いの進行を促進するという当初の仮説を修正する必要に迫られた。 そこで以下のように仮説を修正した。感染初期においてTatは転写だけではなくスプライシング反応を促進することによってTat自身とRevの発現を誘導し、感染後期ではRevはRNA核外輸送だけではなくTat活性を阻害する活性によってスプライシング反応を抑制して構造タンパク質の発現を誘導する。 この仮説を検証するため、モデルRNAを用いた試験管内スプライシング反応実験によって、Tatはスプライシング反応を促進し、一方、Revは抑制することがわかった。この結果は上記仮説を支持している。 当初の仮説の修正を余儀なくされたが、新しい仮説に対して肯定的な結果が得られたので上記の自己評価を行った。これを証明できれば、HIV-1遺伝子発現が従来考えられていたものよりも複雑で精緻な機構であることの証明につながると期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
ウイルスRNAを模擬したモデルRNAを用いた試験管内スプライシング反応系によって、Tatにスプライシング反応を促進する活性があること、Revには抑制する活性があることを示すことができた。これらの因子による促進・抑制の詳細な分子機構を明らかにするため、Tatが宿主細胞のどのようなスプライシング因子をRNA上へリクルートしてくるのか、Revがスプライシング反応のどの段階を阻害しているのかを検証する。具体的には、GSTタグ付きのTatをヒト培養細胞の核抽出液と混合してプルダウン実験を行い、Tatと相互作用する因子を質量分析によって同定する。また、非変性ゲル電気泳動によって試験管内反応系におけるモデルRNAとタンパク質複合体を分離することで、スプライシング反応の進行に伴ってRNA-タンパク質複合体がリモデリングされていくどの過程をRevが阻害するかを調べる。試験管内の実験だけではなく、HIV-1のRNAが発現する培養細胞を用いて、Tatがスプライシング反応を促進するか、Revが抑制するかを調査する。
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Research Products
(4 results)