2017 Fiscal Year Research-status Report
JAK-STAT経路を不活化するため,ウイルスが採用する様々な戦略の分子機構解析
Project/Area Number |
17K07296
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
尾瀬 農之 北海道大学, 大学院先端生命科学研究院, 准教授 (80380525)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 転写 |
Outline of Annual Research Achievements |
狂犬病は、狂犬病ウイルス (RABV)が引き起こす人獣共通感染症である。RABVは、ラブドウイルス科リッサウイルス属に分類される(-)一本鎖RNAウイルスである。すべての食肉目に感染する非常に広い宿主域を持つうえ、発症後の治療法は確立されておらず、発症すればほぼ100%が死に至る。そのため、すべての大陸に渡って年間55,000人の死者を出している。RABVの感染を感知した宿主細胞は、JAK-STAT経路を活性化させ、RABVの排除を試みる。一方、RABVゲノム中にコードされるP蛋白質は、STAT分子との相互作用によりJAK-STAT経路を不活化し、免疫逃避により自らの増殖に有利な環境へと誘導する。しかし、STAT分子とP蛋白質の詳細な結合構造は明らかになっておらず、STAT分子をP蛋白質が認識、不活化する機構は不明である。私達はRABVが宿主のJAK-STAT経路を阻害する仕組みを解明するため、STAT分子やP蛋白質を高純度で精製し、相互作用解析を始めとした分子レベルでの研究をおこなってきた。蛍光偏向解消法を用いて相互作用解析を行った結果、DNAに結合したpYSTAT1にRVP-CTDが結合しない可能性を見いだし、pYSTAT1二量体におけるRVP-CTD結合部位はDNA結合部位とオーバーラップしているモデルが考えられた。同法を用いてpYSTAT1の推定結合部位であるRVP-CTDの疎水ポケットの変異体を用いて解析を行った結果、pYSTAT1との相互作用が低下した。これらの結果はウイルス因子特異的な抗ウイルス薬開発を考える上でも重要な情報を提供する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の実現には,高純度の対象蛋白質を調製する事が不可欠である。これまで,大腸菌及びHEK293T細胞を使用して多くの分子調製系が確立できた。ゲル濾過クロマトグラフィと多角度光散乱(MALS)を組合せた測定から,リン酸化pY-STAT1は正しい活性化ホモ二量体を形成することがわかった。また,STAT2-IRF9やSTAT1-STAT2-IRF9のホモオリゴマーに関しても,調製条件の検討をすすめることができ,実際にウイルス蛋白質との相互作用解析に供することが可能となっている。相互作用解析においては,一部に熱収支が観測できないものがあるため,等温滴定型熱量計の使用ができなかった。また,表面プラズモン共鳴を利用した相互作用測定(biacore 3000使用)においては,チップとの非特異的相互作用が無視できないものもあり,そのようなものは表面プラズモン共鳴法の使用を控えた。蛍光標識を分子に導入し,蛍光偏光解消法による相互作用解析は,再現的に相互作用を定量化することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
確立したpY-STAT二量体(ホモ・ヘテロ)とウイルス蛋白質の相互作用定量系を使用し,STAT側,ウイルス蛋白質側の相互作用必要最小領域を絞る。相互作用最小領域としてイーストツーハイブリッド法を用いて報告されている麻疹V-NTD由来11merのペプチドだけでは相互作用が観測できなかった(SPR使用)ので,この領域は必要であるが充分では無いのであろう。変異に関しては,この領域を中心に点変異を導入し,相互作用に必須の残基を同定する。安定な刈り込み型のコンストラクトができれば,複合体結晶化を試行する。結晶ができたサンプルに関しては,随時放射光施設(PF, SPring8)で評価する。凍結結晶を送付すれば自動測定するサービスもあるので積極的に利用し,コンストラクト・結晶性の改善をおこない,構造解析して原子レベルでの相互作用情報を得る。複合体構造から明らかになった相互作用残基を変異し,溶液での相互作用解析にフィードバックする。 結晶化できなかった標品に対しては,放射光でのX線小角散乱により外形構造の構造解析をおこなう。また,NMR分光法により相互作用残基を特定することも考えられる。実際,狂犬病P-CTDは非常に分散の良い1H-15N HSQCスペクトルが得られている。したがって,化学シフト摂動法や交差飽和法によりウイルス蛋白質側の相互作用残基を同定することは,充分可能である。
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Causes of Carryover |
予定より少ない回数の培養で,予定通りの蛋白質標品を調製することができたため,試薬代を次年度に繰り越した。 2018年度においては,予定通りの蛋白質の調製と共に,新しく設計する必要の生じた蛋白質の調製・相互作用実験に使用する。
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Research Products
(3 results)