2017 Fiscal Year Research-status Report
癌・幹細胞増殖性維持に関わる翻訳抑制複合体の形成原理と創薬に向けた分子基盤の構築
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17K07307
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
永田 崇 京都大学, エネルギー理工学研究所, 准教授 (10415250)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | Musashi / NMR / RNA結合 / AFM |
Outline of Annual Research Achievements |
癌・幹細胞増殖性維持に関わるRNA結合タンパク質Musashi1 (Msi1)が標的RNA配列を認識する機構について研究を行い 、3つの論文として報告した。 Msi1は2つのRNA結合ドメイン(RBD)を有する。N端側RBD(RBD1)については、以前、標的RNA配列(GUAGU)との複合体の溶液構造をNMRにより解明し、RBD1はGUAG部分を特異的に認識することを明らかにしていた。今年度は更に、分子動力学計算法及び、水和の統計熱力学理論を用いた解析を行い、結合に関する種々の熱力学パラメータを得た。そして、RBD1が標的RNA配列を高い特異性で認識するための原動力に関する新たな知見を得た(Phys Chem Chem Phys, 2018)。原動力は、基本的には、RBD1とRNAの形がピッタリ合うことにより水の並進エントロピーが得をするということ、それからRBD1の正電荷と核酸の負電荷が相補することにより、脱水和エネルギーの損失が保障されるということである。 また今回、C端側RBD(RBD2)についても、単独及びRNAとの複合体のNMR構造を決定した。これにより、RBD2がUAGを特異的に認識することが明らかとなった(Molecules, 2017)。更に、Msi1 RBD1-RBD2と最短標的RNA配列(UAGGUAG)との結合様式について複合体モデリングによる解析を行った。その結果、Msi1は翻訳制御するべき遺伝子のmRNA中に含まれる(UAGnGUAG), n=0-50に立体障害なく結合出来ることが強く示唆された(Molecules, 2017)。他方、RBD2について、単独及び複合体における化学シフト値を報告した(Biomol NMR Assign, 2017)。以上の化学シフト及び構造の情報は、Msi1を標的とする抗癌剤開発に利用することが出来る。 以上の様に、今年度は主に原子レベル分解能のミクロな視点の知見を得た。これらの情報は、RNAと複数のタンパク質の結合を見るという、次年度以降のマクロな視点の解析にそのまま活用することが出来る
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず、研究実績の概要に述べたとおり、これまでの研究を発展させ、Msi1のRBD1が標的RNA配列(GUAGU)を高い特異性で認識するための原動力に関する新たな知見を得た。また、Msi1 RBD2についても標的RNA配列との複合体構造を決定するとともに、Msi1 RBD1-RBD2:最短標的RNA配列(UAGGUAG)複合体の結合様式を分子モデリングにより示すことに成功した。これにより、Msi1 RBD1-RBD2がmRNAの3’非翻訳領域に含まれる(UAGnGUAG), n=0-50を立体障害なく認識出来ることが示された。以上の成果を論文として報告した。今年度得られた原子レベルのミクロな視点からの情報は、次年度行うマクロな視点の解析にそのまま活用することが出来る。マクロな視点の解析の準備としては、今年度は長いRNAを固定化するためのフレームの調製を行った。種々の条件検討を行い、安定的にフレームを供給することが出来るようになった。また、準備実験として、このフレームに長い一本鎖DNAを固定化した。これらの生成効率が高いことを、AFM観察により確認した。
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Strategy for Future Research Activity |
フレームに固定化するRNA配列の調製を行う。また、タンパク質試料を調製する。そして、フレームに結合したRNAとタンパク質の結合解析を行う。一方、SELEXによりMsi1に対するRNAアプタマーを取得する。
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Causes of Carryover |
マクロな視点の解析を行うために、フレームの調製の条件検討を行ってきた。また、予備的な実験として一本鎖DNAの固定化を行った。これらの生成効率が高いことはAFM観察により確認した。次は、実際にRNAを固定化する。そのために、RNA合成をする必要がある。また、各種タンパク質を調製する必要がある。以上を次年度に行うため使用額が生じた。
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