2018 Fiscal Year Research-status Report
高速で回転する細菌べん毛モータの分子軸受け構造と形成機構
Project/Area Number |
17K07318
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Research Institution | Okinawa Institute of Science and Technology Graduate University |
Principal Investigator |
松波 秀行 沖縄科学技術大学院大学, 生体分子電子顕微鏡解析ユニット, 研究員 (80444511)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 細菌べん毛 / シャペロン / 分子軸受け |
Outline of Annual Research Achievements |
細菌べん毛のPリングは、シャペロンタンパク質FlgAの補助を受けてペリプラズム領域で形成される。Pリングは細菌べん毛が回転する際にロッドを支える分子軸受けとして機能するサブ複合体である。これまで、Pリングを構成するタンパク質FlgIのX線結晶構造等の報告はなく、Pリングの詳細な分子機構についての理解は進んでいない。また、ペリプラズム領域でFlgAがFlgIと結合して、Pリングの形成を巧みにコントロールする仕組みについても不明な点も多い。そこで、べん毛を支える分子軸受けの仕組みを明らかにするためには、Pリングの構造情報は必要不可欠であると考えた。本研究ではPリングの構造基盤に基づいて、細菌べん毛が高速で回転する分子機構を明らかにすることである。初年度に引き続き、X線結晶構造解析による構造決定のためにサルモネラ菌のFlgIの結晶化と機能ドメイン構造の解析およびFlgAの機能ドメイン構造の解析を行った。これまでに、サルモネラ菌FlgI 単独での結晶化には至っておらず、同定した機能ドメイン単位での結晶化にも成功していない。一方、サルモネラ菌FlgI とFlgAを共発現させて複合体として精製することには成功したが、これまでのところFlgI/FlgA複合体での結晶は得られていない。しかしながら、当初から計画していた好熱菌FlgIの発現系を構築して大腸菌内で発現させたところ、サルモネラ菌FlgIの場合に比べて、タンパク質の発現が良好であり結晶化に向けて十分に精製することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
初年度に引き続き、サルモネラ菌FlgIの結晶化条件のスクリーニングを試みたが、これまでのところ結晶化の成功には至っていない。原因として、サルモネラ菌FlgIの発現量は限られており、最適なタンパク質発現条件であっても収量がそれほど期待できなかった点があげられる。これは、サルモネラ菌FlgI単独での結晶化を継続する上では問題であると思われる。また、精製したサルモネラ菌FlgIの溶解度はそれほど高くなく、結晶化が難しいことが予測されたので、今後さらに結晶を得るまでには相当の結晶化条件のスクリーニングが必要であると予想される。これまでの結果から、サルモネラ菌FlgIは単独では結晶化は難しいと判断し、サルモネラ菌FlgI のタンパク質構造の安定化を期待してFlgI/FlgAの複合体としての共結晶化を試みた。結晶化条件のスクリーニングを進めてきたが、これまでのところX線回折実験ができるような結晶は得られていない。サルモネラ菌FlgI単独の場合と同じように、FlgI/FlgAの複合体の溶解度もそれほど高くないことが本質的に結晶化を妨げている可能性があると思われる。FlgAがシャペロンタンパク質としてFlgIのタンパク質間相互作用を抑制する以外にも、FlgI自身の溶液状態の構造がPリングの形成を抑制していることも予想される。そこで、サルモネラ菌FlgIの結晶化が進まない場合として準備してきた好熱菌FlgIの結晶化を開始した。好熱菌FlgIは、精製用のアフィニティータグをN末端に融合させて大腸菌内で発現させたところ、サルモネラ菌FlgIのように大腸菌内で封入体を形成することもなく、可溶性のタンパク質して精製することができた。タンパク質の発現量もサルモネラ菌FlgIに比べて良好であり、好熱菌FlgIは結晶化用のタンパク質試料として、サルモネラ菌FlgIよりも適していることが期待される
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに、サルモネラ菌FlgI単独やFlgI/FlgAの複合体として結晶化を試みた成功に至っていない。解決策として、機能解析によって明らかにしたFlgIのドメイン構造を参考にして、FlgIの結晶化を妨げる領域はできるだけ除きかつFlgAとの結合領域は含むような複合体としてFlgIの部分構造の結晶化を進める。同時に、好熱菌FlgIについても、サルモネラ菌と同様にFlgAとの複合体で結晶構造解析を進めるが、サルモネラ菌のFlgIの機能ドメイン解析で得られた情報から、FlgAとの結合には関与しない領域を除いた複合体を調製して結晶化を行う。さらに、好熱菌やサルモネラ菌FlgI/FlgAの複合体であっても結晶が得られない場合の手段として、好熱菌やサルモネラ菌のFlgIのPリングを形成する条件を検索してクライオ電子顕微鏡法による単粒子解析によってタンパク質構造決定の可能性を探る。X線結晶構造解析法のようにタンパク質結晶を必要とせずに、タンパク質の高分解構造をを可能とするクライオ電子顕微鏡法では、観察試料の調製は極めて重要な割合を占めが、これまで結晶化に向けて精製した好熱菌やサルモネラ菌FlgIのタンパク質試料は十分な純度もあることから、Pリング形成が可能であればクライオ電子顕微鏡法による構造決定が最適な手段であると言える。FlgI単量体での分子量は、クライオ電子顕微鏡法による構造が決定できるほど大きくはないが、理想的にFlgIがPリングを形成した場合には1 M Daを超すサブ複合体となることから、クライオ電子顕微鏡で撮影した画像での単粒子解析は十分可能であると思われる。早期に、サルモネラ菌や好熱菌FlgIがPリングを自発的に形成する条件を検索し、クライオ電子顕微鏡法による構造決定に取り組む。
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Causes of Carryover |
初年度に設備備品として購入を予定していた計算機の支出を繰り越したため差額が生じている。また、前年度までに予定していた旅費とその他の支出での支払いが予定より少なかったため差額が生じている。
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