2017 Fiscal Year Research-status Report
高分解能構造解析によるシトクロムb5還元酵素反応系における電子伝達分子機構の解明
Project/Area Number |
17K07325
|
Research Institution | National Institutes for Quantum and Radiological Science and Technology |
Principal Investigator |
平野 優 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 東海量子ビーム応用研究センター, 主幹研究員(定常) (80710772)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 蛋白質 / 中性子構造 / X線構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
タンパク質分子間における電子伝達反応機構を理解するためには、それぞれのタンパク質における酸化還元状態調節機構とタンパク質間の電子伝達経路を明らかにすることが重要な課題となっている。酸化還元状態間の構造変化を追跡するためには、タンパク質表面の水分子を含めた全原子構造情報を取得するが必要不可欠であり、電子伝達経路の解明には反応の起こる状態である複合体での構造情報が重要となる。本研究では、哺乳類の肝臓代謝系において脂質合成などに関与するNADHシトクロムb5還元酵素(b5R)とシトクロムb5(b5)の酸化還元反応系全体について、X線と中性子それぞれの特長を生かした構造解析を行うことで、水素原子を含めた全原子構造とb5R-b5複合体構造を明らかにし、電子伝達反応において重要な酸化還元状態調節と電子伝達経路の構造基盤を解明することを目的とする。 平成29年度は酸化型b5Rの中性子構造解析および二電子還元型b5RのX線構造解析を実施した。酸化型b5Rの中性子構造解析の結果、タンパク質表面の多数の水分子について水素原子を含めた構造を明らかにすることができた。その結果、水分子の水素原子を含めた水素結合ネットワークの詳細が明らかとなり、酸化還元反応に伴うプロトン移動経路の理解に重要な立体構造情報を取得することができた。また、二電子還元型b5Rについては、高分解能X線構造解析を目指し、タンパク質調製方法および結晶化条件の検索を行い、従来より高分解能の回折データを取得することが可能となった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度は酸化型b5Rの中性子構造解析および二電子還元型b5RのX線構造解析を実施した。酸化型b5Rについては、ドイツの研究用原子炉(FRM-II)に設置された生体高分子用回折装置(BioDiff)を利用して取得した中性子回折データを用い、水素原子を含めた立体構造解析を行った。これまで酸化型b5Rの高分解能X線構造解析において約20分子の水分子について水素原子を含めた立体構造が報告されているが、中性子構造解析により約300分子の水分子について水素原子を含めた立体構造を明らかにすることが可能となった。その結果、b5Rの酸化還元反応の中心である補酵素FAD周囲の水分子の水素原子を含めた水素結合ネットワークの詳細が明らかとなり、酸化還元反応に伴うプロトン移動経路の理解につながる立体構造情報を取得することができた。二電子還元型b5Rについては、良質な結晶を作製するため試料調製方法の検討を行った。従来の二電子還元型b5R調製条件に加えて再結晶化を行うことで純度向上を計った。さらに、結晶化条件のスクリーニングを行うことでこれまでと異なる条件で結晶を取得することができた。得られた結晶を用い放射光施設Photon FactoryのBL5AビームラインにおいてX線回折実験を行った結果、高分解能(1.3オングストローム)の回折データを取得することができた。分解能毎の回折点強度平均値を計算した結果、高分解能側での強度の減衰がこれまでの二電子還元型結晶から取得した回折データに比べ抑えられていることがわかり、さらに高分解能での回折データ収集の実現可能性が高くなった。また立体構造解析を行ったところ、報告されている二電子還元型b5Rと比べて全体構造に大きな差は見られなかった。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は、b5R一電子還元型、再酸化型の高分解能X線構造解析およびb5の高分解能中性子構造解析を行う。b5R一電子還元型は、T66V変異体を用い酸素存在下で大量発現および精製により酸化型を調製し、その後無酸素チャンバー内で還元試薬(NADH)を用い調製する。b5R一電子還元型および再酸化型の結晶は、まず無酸素チャンバー内で二電子還元型結晶を作製し、酸化剤の添加もしくは酸素暴露により調製する。b5R一電子還元型および再酸化型の結晶は、液体窒素中もしくは低温窒素気流下で凍結する。b5R一電子還元型および再酸化型が結晶中で保持されているかの確認は、顕微分光装置を利用し吸収スペクトル測定により行う。X線回折実験は、放射光施設(Photon FactoryおよびSPring-8)において行う。1オングストローム分解能を超える高分解能X線回折データ収集ができれば、水素原子を含めた立体構造精密化を行う。b5の高分解能中性子回折データを取得するため、良質な大型結晶は種結晶を成長させるシーディング法により行う。中性子回折実験は、高分解能の回折点強度に影響する結晶内での原子の揺らぎを抑えるため、100 Kの低温で行う。中性子回折実験は、大強度陽子加速器施設J-PARCのiBIXまたは、より強度の強い中性子や単色中性子を利用できる海外の中性子回折装置(アメリカSNS MANDI、ドイツFRM-II BioDiff)において行う。
|
Causes of Carryover |
平成29年度は、タンパク質試料調製、結晶化、回折実験に用いる物品および消耗品を購入し、放射光における回折実験を行うための旅費(Photon Factoryに5回、SPring-8に1回)として予算を使用した。このように実験に必要な物品および消耗品の購入を行い、複数回の放射光回折実験を行うための旅費として使用する中で、わずかに残額が生じた。平成30年度は繰越金額と合わせて、タンパク質試料調製、結晶化、回折実験に用いる物品および消耗品の購入と、放射光における回折実験を行うための旅費、学会に参加するための旅費として予算を使用する計画である。
|