2018 Fiscal Year Research-status Report
EGF受容体下流アダプタータンパク質GAREM及びCLPABPの生理機能の解明
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17K07341
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Research Institution | Prefectural University of Hiroshima |
Principal Investigator |
小西 博昭 県立広島大学, 生命環境学部, 教授 (40252811)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | シグナル伝達 / ノックアウトマウス / アダプタータンパク質 / 遺伝疾患 / 脳機能 |
Outline of Annual Research Achievements |
GAREMは2種類の分子種(GAREM1及び2)が存在し、どちらも細胞増殖因子刺激によるErk活性化制御因子として機能することを明らかにしているが、これまで疾患との直接の因果関係は不明であった。近年の次世代シークエンサーの普及により、ゲノム全体の配列決定が容易になり、疾患原因遺伝子などの検索が広く行われている。GAREM1については肺がんや肝芽腫の患者において、その遺伝子変異が見出され、新たな疾患マーカーとしての応用が期待されている。また、エクソーム解析により突発性低身長の原因として見出された遺伝子群の中にGAREM1が含まれ、その変異はアミノ酸置換を伴い、291番目のリジン残基が、アルギニンに変化するものであった。さらにGAREM2はアルツハイマー病や、ハンチントン病などの神経変性疾患の原因遺伝子として同定されている。現在、それぞれの分子種のノックアウト(KO)マウスの解析の結果、野生型に比較し、GAREM1KOマウスにおける体重の減少を確認している。GAREM2KOについては行動解析の結果、野生型よりも不安度低下や高活動量を示すことを見出した。現在、どちらの内容も論文投稿予定である。 CLPABPはこれまでの解析からCLPABPはミトコンドリア近傍に局在し、HuR(human antigen R)を含む様々なRNA代謝関連タンパク質と複合体を形成していることを明らかにした。さらに、そのノックアウト(KO)マウスの解析から、少なくとも摂食量調節ホルモンであるレプチンmRNAの安定性に関与することで、高齢オスマウスの体重制御に寄与していることも明らかにしている。しかし、レプチンの他に、どのような遺伝子転写産物の安定性が、CLPABPの発現により影響を受けるかについては不明である。そこで、CLPABPの発現の有無により転写量が変化する遺伝子の種類を網羅的に解析した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
それぞれのGAREM分子のKOマウス解析結果より、GAREM1の欠損は体重の減少、GAREM2の欠損は行動や感情の変化が見られることを明らかにした。現在その原因について、分子レベルでの精査を行っている。それぞれのGAREMKOマウスを交配することにより、両GAREM分子の発現を欠失させたダブルKOマウスも樹立している。ダブルKOマウスも基本的には正常に発生・成長した。しかし、単独KOマウスには見られなかった表現型も確認できている。現在はそちらの解析を精力的に行っている。 GAREM2の脳における機能について、その分子機構を明らかにする目的で特異的結合タンパク質の同定を行った。現在までにGrb2、SHP2、14‐3‐3がGAREMの結合タンパク質として同定したが、新たにIntersectinが結合することを見出した。また、この過程において神経芽線維腫細胞におけるGAREM2安定発現株を樹立することができた。現在、新たなGAREM2結合タンパク質の同定も進めている。 CLPABPについては、RNA-seqの結果から、野生型とCLPABP・KO細胞由来の総RNA間(約15000種)で発現量が2倍以上増減する種類は約1500以上であった。その内訳として、野生型に比較し、CLPABPを発現しない細胞で2倍以上転写量が増加するRNAが736種類に対し、800種類は2倍以上減少した。CLPABP依存的に発現量が変化する転写物を数多く同定できたので、それぞれのRNAの構造、特に3’非翻訳領域の配列に着目し、CLPABPとの関連性について精査している。 その結果から、CLPABP依存的なRNA安定性の関与における特異的認識配列などの法則性を見出したいと考えている。 以上のように、独自で見出した新規アダプタータンパク質の新たな側面が徐々にではあるが解明できつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
ヒト、マウスにおけるGAREM分子種はそれぞれの発現部位が大きく異なる。しかし、脳特異的に発現するGAREM2に対し、GAREM1は広範な臓器で発現が見られる。そのため、GAREM2KOマウスにおいてGAREM1がその役割を相補している可能性がある。ダブルKOマウスを樹立・解析することで、GAREM分子全体としての生体内での役割に関する研究を、行動解析を中心に進めていく予定である。 それぞれのGAREMの生体内(特に脳内)における生理的役割を明らかにするためには、それぞれの発現部位を詳細に決定する必要性がある。現在、独自に作製した分子種特異的抗体は、生化学的研究には充分なクオリティーを有するが、組織染色においてはさらに特異性の高い抗体が必要となる。そのために、それぞれの分子種のモノクローナル抗体を作製する。その抗体を用いた染色結果から、GAREM分子種及び、これまで見出したGAREM結合タンパク質の各脳部位における局在を調べ、それぞれのKOマウスにおける表現型を比較して、生理的な関係性を見出だす。また、神経成長因子受容体やErkなどとの関係性についてもアプローチする予定である。 GAREM2結合タンパク質の同定については、発現しているGAREMにFLAGタグ配列が付加されているため、免疫沈降によりGAREM2を精製し、それに共沈してくるタンパク質を質量分析解析し、新たな結合タンパク質同定を目指す。 前述したように、近年様々な遺伝的疾患におけるGAREMやCLPABP遺伝子の変異が見出されている。それに基づきそれらの変異タンパク質を遺伝子工学的に発現・精製し、野生型タンパク質との性質の違いを明らかにする。それから得られた知見をもとに、それぞれの分子の機能異常により起こる遺伝疾患の治療薬開発研究への発展を目指す。
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Research Products
(2 results)