2018 Fiscal Year Research-status Report
Structural dynamics and cooperativity of axonemal dyneins
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17K07376
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Research Institution | National Institute of Information and Communications Technology |
Principal Investigator |
大岩 和弘 国立研究開発法人情報通信研究機構, 未来ICT研究所, 主管研究員 (10211096)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 鞭毛 / 軸糸 / ダイニン / 原子間力顕微鏡 / X線繊維回折 |
Outline of Annual Research Achievements |
真核生物の鞭毛・繊毛は様々な生理機能に関与する重要な細胞小器官である。この鞭毛・繊毛は、9本の周辺微小管が1対の中心小管を取り囲む「9+2構造・軸糸」を基本構造としている。周辺微小管上に規則的に配列したタンパク質モータ・ダイニンの複合体、ダイニン腕が隣接する周辺微小管との間で滑り運動を引き起こし、これが時間的・空間的に制御されることで、繊毛・鞭毛は規則的な波打ち運動を行なう。本研究では、協調された波打ち運動創出のメカニズムを理解するために、9+2構造という立体的拘束条件の中で起きる構成要素間での協調ダイナミクスを分子レベルで観察することを目指している。 生理学的条件下の軸糸内で、周辺微小管が滑り運動を行う際のダイニン腕の協動を観察するために、高い空間分解能でダイニン腕を実像として可視化できる液中高速原子間力顕微鏡(AFM)とX線繊維回折を用いている。実験材料は、鞭毛構成要素の変異株が豊富に得られるクラミドモナスの鞭毛軸糸である。 マイカ表面に吸着させた蛍光標識鞭毛試料を新たに構築した蛍光顕微鏡下で観察しながらAFM探針に接近させ、タッピングモードで微細構造の映像化を行った。昨年度の課題であった試料の発見頻度の低さは、蛍光同時観察で解消、鞭毛軸糸の位置を容易かつ的確に特定できるようになった。 また、X線繊維回折では流動配向を用いて配向させた鞭毛軸糸の解析を進めた。クラミドモナス鞭毛では、低Ca2+濃度と高Ca2+濃度とで、1/24nm-1と1/32nm-1の反射は強度プロファイルをミラーイメージで変化させた。これらの結果は、周辺微小管上のコンポーネントはその周期を変えないが、軸糸全体として周辺微小管のらせん対称性がCa2+濃度に応じて変化したことを示している。このらせん対称性の変化は協働性の変化につながるものであるとして数理モデル化を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、蛍光標識鞭毛軸糸の可視化システムを既設のAFMシステムに追加構築したことで、容易かつ的確にAFM探針を試料にアプローチさせることを可能とした。加えて、位相イメージングによりダイニン腕の可視化に成功するなど研究計画に沿っておおむね順調に進んでいると判断する。一方で、昨年度以来課題となっているマイカ基板表面への試料の吸着の制御に関しては、試行錯誤を続けている。シランカップラや脂質膜を利用してマイカ基板表面の状態を調製したり、PLL-PEGを用いたマイクロパターニングを検討している。 また、ダイニンの活性化には光開裂ATPアナログを用いた。これまでは、低濃度ATP存在下での観測を行ってきた。しかし、試料への探針のアプローチ、これに続くイメージング、最適試料の探索といった基本操作が煩雑で時間がかかり鞭毛試料の状態が変化してしまうために、観察された構造変化がATPに依存するものかどうか判別しにくいなどの課題が生じた。そこで、光開裂ATPアナログを導入して、観察のためのすべての条件が整ったところでのダイニンの活性化を行うこととした。これは観察上大きな進展である。一方、X線繊維回折実験では、微少量の粘稠な試料を扱うために、試料濃度を高い精度で同一にすることが困難である。そこで、caged-EGTAを活用することで、試料交換なしにCaの有無に対する散乱信号を比較することができるようにした。この系を用いて、軸糸のらせん対称性の変化を時系列信号として獲得、解析した。以上のように、目的とするダイニン腕の協働性の可視化に関して、着実に問題解決が進み、目標達成に向かっているものと判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
鞭毛軸糸の蛍光標識とAFM装置下での蛍光同時観察システムの導入によって、軸糸の発見効率が格段に向上した。これによって、軸糸内ダイニン腕の構造変化を再現性良く観察する。これまでの観察から、AFM探針の掃引によってダイニン腕が大きなひずみを受けることがわかってきた。その結果、観察されるダイニン腕の構造変化が、探針の掃引によるアーティファクトである可能性を排除しなければならない。そこで、ダイニン腕の活性化に光開裂ATPアナログを使用する。これによって、ATP依存的構造変化とアーティファクトの判別を進める。一方、X線繊維回折の実験で得られた子午線反射のプロファイル変化を説明する軸糸のらせん対称性モデルを構築し、さらに、このらせん対称性によって生じるダイニン腕と微小管上の結合部位の相対位置の変化を見積もることで、滑り運動特性に与える軸糸構造変化の影響を評価する数理モデルを構築する。このAFM観察とX線繊維回折の結果による数理モデルから、鞭毛屈曲形成と伝播におけるダイニン腕の協働性の実態を明らかにする。
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Causes of Carryover |
【次年度使用額が生じた理由】実験の過程の中で壊れやすいAFM探針を購入するために消耗品費を見積もっていたが、当初予想していたものより消耗が少なかった。このため消耗品購入の経費が予定より抑えられたことによる。
【次年度の使用計画】 使用頻度が上がると予想されるAFM探針の購入と光開裂型ATPアナログの購入に充てる。論文掲載に至った場合には掲載料への支出も見込む。
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