2018 Fiscal Year Research-status Report
筋分化過程に必須な小胞体カルシウム枯渇の分子基盤と細胞内情報伝達における役割
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17K07398
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
森島 信裕 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 特別嘱託研究員 (40182232)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 骨格筋分化 / 小胞体ストレス / 小胞体カルシウム枯渇 / STIM1 |
Outline of Annual Research Achievements |
骨格筋前駆細胞である筋芽細胞の融合過程において小胞体からカルシウムが漏出してカルシウム枯渇が起こることを私たちは以前見出した。本研究は、筋芽細胞株を用い、カルシウム枯渇が引き起こされるメカニズムを分子レベルで明らかにすることと、小胞体内から細胞質ゾルへ出たカルシウムが起動するシグナル伝達系を同定し、それが筋分化過程において果たす役割を示すことを目指している。これにより、生理的な小胞体ストレスが生じるメカニズムの分子基盤の解明と筋分化過程におけるカルシウムシグナル系起動の仕組みや意義を明らかにすることを目的としている。 小胞体カルシウム枯渇を詳細に調べるため、前年度に作製した小胞体カルシウムセンサータンパク質の可視化モデルを用いて枯渇時期の特定を行なっている。これは小胞体カルシウムセンサーSTIM1が小胞体内腔のカルシウム濃度低下に応答して凝集することを利用し、STIM1-GFP(緑色蛍光タンパク質)を筋芽細胞で安定的に発現させてカルシウム枯渇モニターとしたものである。分化誘導開始後、22から24時間頃に凝集が検出され始め、その後、50%以上の細胞中で凝集が起こる。凝集は少なくとも32時間後まで継続した後、徐々に解消されていく様子が観察された。小胞体カルシウム枯渇は一方で細胞質ゾルでのカルシウム濃度上昇を起こすことが期待される。細胞質ゾルのカルシウム依存性プロテアーゼ(カルパイン)の良い基質である細胞骨格タンパク質をウエスタンブロット法で解析すると、カルシウム枯渇の時期を通して細胞骨格タンパク質の切断が起こっていることが分かった。興味深いことに、特に切断が活発になる時期が少なくとも二回検出された。小胞体においてはカルシウム枯渇が継続して起こっているように見えるが、カルパイン活性化の観点から見た細胞質ゾルカルシウムの効果には強弱が生じることを示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
STIM1の凝集を指標とした小胞体カルシウム枯渇開始時期がかなり特定できるようになった一方で、小胞体カルシウム枯渇とはコインの裏表の関係にある細胞質ゾルにおけるカルシウム濃度上昇を裏付けるデータを得ることができた。筋分化過程におけるカルパインの重要性については以前から少数ながらも研究報告がなされていたが、その証拠として挙げられていたのは主にカルパイン阻害タンパク質の強制発現による分化阻害の観察であった。本研究のように筋芽細胞融合の初期段階においてカルパイン活性化の時期を時間(hour)のオーダーで特定した点はこれまでに例がなく、筋分化におけるカルシウムシグナル系起動を明らかにしていく上で大きな足がかりとなることが期待される。また、カルパインによる細胞内タンパク質切断に関する解析の多くが病理的な状況においてなされているのに対して、本研究では正常な筋分化過程でのタンパク質切断を検出している点で新規性が高い。また、当初予期していなかったカルパイン研究における価値も得られる可能性が出てきた。
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Strategy for Future Research Activity |
筋分化過程におけるカルシウムシグナル系起動の観点から見てカルパイン活性化の検出は重要な発見である可能性があると考えて、この活性化が筋分化過程の進行にどのように寄与しているかを探ることに注力する。小胞体から放出されたカルシウムが細胞質ゾル中のカルパインの活性をどのように調節しているかを調べるとともに、分化過程にある筋芽細胞中でカルパインによって切断される基質の同定やその切断の意義について明らかにすることを目指す。また、カルパイン以外の細胞質ゾル内カルシウムシグナル系についての解析も進めるほか、小胞体カルシウム枯渇が起こるメカニズムに関しても小胞体カルシウム動態調節の観点から調べていく。
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Causes of Carryover |
物品費使途の中で割合が大きい抗体の購入を慎重に行った結果、購入額が予定額を下回ったため。本研究の性格上、特異性が高く、高感度の検出を可能とする抗体を使用する必要があり、また、多くの抗体が比較的高価なため予算の有効活用を図るためにも選別は慎重に行う必要がある。無料サンプル品を海外から輸入して試用の上で購入を検討したり、抗体を用いるのに適した実験試料の作製などに時間をかけて検討を進めてきた。研究の進展に伴い、解析対象タンパク質が増えているため、次年度は優良な抗体を確実に入手していく予定であり、助成金は適正に使用される。
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Research Products
(3 results)