2019 Fiscal Year Research-status Report
筋分化過程に必須な小胞体カルシウム枯渇の分子基盤と細胞内情報伝達における役割
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17K07398
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
森島 信裕 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 特別嘱託研究員 (40182232)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 骨格筋分化 / 小胞体ストレス / 小胞体カルシウム枯渇 / STIM1 |
Outline of Annual Research Achievements |
骨格筋前駆細胞である筋芽細胞の融合過程において小胞体からカルシウムが漏出してカルシウム枯渇が起こることを私たちは以前見出した。本研究は、筋芽細胞株を用い、カルシウム枯渇が引き起こされるメカニズムや小胞体内から細胞質ゾルへ出たカルシウムが起動するシグナル伝達系を調べ、それが筋分化過程において果たす役割を示すことを目指している。これにより、筋分化過程におけるカルシウムシグナル系起動の仕組みや意義を明らかにすることを目的としている。 小胞体カルシウム枯渇を詳細に調べるため、GFP(緑色蛍光タンパク質)を利用した小胞体カルシウムセンサータンパク質STIMの凝集可視化プローブを用いて枯渇時期の特定を行なってきた。STIM1は小胞体内腔のカルシウム濃度低下に応答して凝集する。STIM1-GFP融合タンパク質を筋芽細胞で安定的に発現させたものを作製し、分化過程におけるGFPシグナルの変化について調べている。これまで用いていた改良型GFPは単量体型と言われているが、GFP間の相互作用によってSTIM1-GFPプローブが小胞体カルシウム濃度非依存的に凝集しやすく、解析を複雑にするという難点があった。そこで、真性の単量体であることが示されているAzami-Greenタンパク質(mAG1)の使用に切り替えた。その結果、小胞体カルシウム枯渇のない状態での凝集がなくなり、分化誘導開始後のプローブ凝集時間帯が正確に捉えられるようになった。凝集は細胞間で同調的に起こっていることが明確となり、さらに、凝集の程度が増して蛍光シグナルが特に強くなる時期に小胞体ストレス応答が起きていることをストレス応答タンパク質の発現上昇によって確認した。小胞体ストレス応答の時期とほぼ同時にSTIM1の発現低下及びカルパインの活性化による細胞骨格タンパク質の切断が起こることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
STIM1の凝集、小胞体ストレス応答を指標として小胞体カルシウム枯渇時期が特定できるようになった。小胞体カルシウム枯渇の時期にはSTIM1が減少し、カルシウム枯渇を引き起こしやすい状態になっていることが示唆された。これは小胞体カルシウム枯渇の分子基盤の一つとなっている可能性がある。一方、小胞体カルシウム枯渇とはコインの裏表の関係にある細胞質ゾルにおけるカルシウム濃度上昇を示唆するデータとして、カルシウム依存性プロテアーゼ、カルパインの活性化を示すデータが得られた。カルパインによるタンパク質切断は分化過程にある筋芽細胞の構造や生理を変化させている可能性がある。これは小胞体カルシウム枯渇が細胞内情報伝達を制御するメカニズムの一つかもしれない。
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Strategy for Future Research Activity |
小胞体カルシウム枯渇が起こるメカニズムに関して、STIM1の発現量調節及びSTIM1と相互作用して小胞体カルシウム濃度調節に関わる細胞膜局在性カルシウムポンプの活性調節の観点から調べていく。筋分化過程におけるカルパイン活性化の検出は重要な発見である可能性があると考え、この活性化が筋分化過程の進行にどのように寄与しているかを探ることを集中的に行う。小胞体から放出されたカルシウムが細胞質ゾル中のカルパインの活性をどのように調節しているかを調べるとともに、分化過程にある筋芽細胞中でカルパインによって切断される基質の同定やその切断の意義について明らかにすることを目指す。
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Causes of Carryover |
本研究の性格上、小胞体カルシウム枯渇やその影響に関わる因子を新たに同定する作業が重要である。これを実行するに当たり、特異性が高く、高感度の検出を可能とする抗体を使用する必要があり、そのような抗体が比較的高価なため予算の有効活用を念頭に購入抗体の選別は慎重に行ってきた。メーカーに希望を出してから輸入する無料サンプル品の試用を行ったり、新たに入手した抗体を用いるのに適した実験試料の作製に時間をかけているため、購入した抗体の種類が限られた。その結果、抗体の購入費が予定額を下回った。研究の進展に伴い、解析対象タンパク質が絞られてきたため、次年度は優良な抗体を確実に入手し、助成金を適正に使用する。
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