2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K07410
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
本多 久夫 神戸大学, 医学研究科, 非常勤講師 (10289118)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | らせんループ / 初期心臓 / 数理的細胞モデル / vertex dynamics / コンピュータ・シミュレーション / convergent extension / キラリティー |
Outline of Annual Research Achievements |
多細胞生物の形態形成は、生物体を構成している細胞の振舞いによってなされる。細胞の振舞いを数理的に記述する方法があれば、数理的手法が形態形成を理解するうえで役立つ。組織を構成する細胞を多角形または多面体と考えて、そこでの多角形/多面体の頂点の動きを記述する運動方程式をつかった数理モデル、Vertex dynamics作成した。これにより細胞の振る舞いが数理的にあらわすことができ、この方法で多細胞生物の形態形成を調べることができる。この研究プロジェクトは、未だに謎である多細胞生物の器官の左右非対称形成をこの数理的方法を使って研究することが目的である。とくに非対称形成が顕著な心臓の形成についてしらべた。 哺乳類や鳥の初期発生において心臓は左ネジ方向にねじれたヘリックスループを形成している。これははじめまっすぐだったチューブ状の原始心臓から形成される。Vertex dynamicsをつかったコンピュータ・シミュレーションで、心臓を構成している細胞のどの性質が左巻きヘリックスをつくるのかを調べた。これまで観察に基づく現象論的な仮定を取り入れるとチューブは左ネジ方向にねじれる事をしめした(Biophysical Journal 2020)。しかし、最近心臓を構成する心筋細胞が並び変わってconvergent extension (CE)を起こすことがトリについての実験で示された。そこで心筋細胞について異方性のある収縮を仮定すると、シミュレーションによりCEが起こることが示せた。これによって心臓の左巻きヘリックスは再現できた。したがって、心臓のねじれは心筋細胞のキラルな性質(異方的な収縮)に基づくであろうと言えるようになった。この結果を論文として発表した(Biophysical Journal 2021)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
内臓器官が示す非対称の代表的なものである心臓について、非対称形成の原因が心臓を構成している心筋細胞のキラルな性質による可能性を明らかにした。ここに至るまでの中間的な報告と共に2編の論文として発表することができた。 本プロジェクトの目的は、生物の形はゲノムが大きく関わってできるのだが、そこでみられるゲノムから形の形成に至る過程を具体的に知ることである。このためにはこれまでの分子生物学や細胞生物学で使われている研究手法だけでは不十分で、数理的モデルを使った手法が必須だと考えてきたのだが、この考えを裏付けする研究ができた。
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Strategy for Future Research Activity |
この研究を行う過程で、CEにより細胞集団が一方向に伸長することが重要であった。この方向がチューブの長軸方向とほぼ平行の場合と大きくそれた場合で、チューブの形態形成が大きく異なることを明らかにした。平行に近い場合、はチューブそのものが大きく変形してねじれが起こる。心臓がその例だった。平行から外れた場合は、チューブ自体は大して変形せず、チューブ表面の細胞がチューブ表面を列をなして動き、理髪店のサインポールのような渦巻きができる。この事実は体内の他の臓器たとえば消化管などの形態形成に大きく関わっていると考える。研究をこの方向に進める。
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Causes of Carryover |
・研究成果発表を予定していた国際会議が延期になったので、その発表のための経費が次年度に生じる。 ・研究推進の過程で、チューブの変形の様態がconvergent extension (CE)による伸長方向によって大きく異なることがわかった。この事実をさらに詳しく解明し、現在のデータを補強するとともに、さらに他の内臓器官の非対称形成との関わりを確認する。
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