2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K07471
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
竹内 栄 岡山大学, 自然科学研究科, 教授 (20226989)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 羽形成 / メラノコルチン系 / 性差 / メラノサイト / 甲状腺ホルモン系 / 体色 |
Outline of Annual Research Achievements |
鳥類の羽は哺乳類の毛と同様に,ケラチンを産生・蓄積した表皮細胞の死細胞で構成された皮膚付属器である。ニワトリでは,鞍部に生じる羽(鞍羽)に顕著な性差が見られ,雌では褐色(ユーメラニン色)を呈する丸型の覆羽であるのに対し,雄の羽は光沢のある赤褐色(フェオメラニン色)の尖形飾り羽であり,その先端部には小羽枝を欠くフリンジ構造がみられる。本研究はこの鞍羽をモデル系として用い,皮膚付属器の性差形成の分子機構の解明を目的とした。 我々のこれまでの研究により,雌雄共通なデフォルトとしての雄型羽形成には,3型脱ヨウ素酵素(DIO3)とアグーチシグナルタンパク(ASIP)の高発現が関与し,雌型羽は卵巣由来のエストラジオール17β(E2)が,これらの発現を抑制することで形成されることが示唆されている。平成29年度の研究では,DIO3の発現により想定される雄鞍羽形成時の活性型甲状腺ホルモン(TH)の局所的濃度低下を打ち消すため,高用量THを皮下投与し,羽形態や羽色,羽包メラノサイトの変化,及び関連遺伝子群の発現変化を解析した。その結果,雌型羽形成における小羽枝形成とメラノコルチンの発現亢進は, E2によるDIO3の発現抑制を介して起こり,E2によるASIP発現の抑制はこの系(E2-TH系)を介さずに起こることが示唆された。また,このTH処理した羽包の組織標本,組織切片の観察から,フェオメラニンとユーメラニンが1つのメラノサイトによって産生されるという従来の説とは異なり,異なる2種類のメラノサイトによってそれぞれ産生される可能性が示唆された。このことは,体色発現の進化を考える上で重要な知見となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初は培養系を用いてE2や甲状腺ホルモンの効果を解析する予定であった。ところが,その前段階として行ったホルモン投与によるin vivo解析で,E2によるメラノコルチンの発現亢進とASIPの発現低下が異なるメカニズムによって起こるという予期せぬ結果が得られ,より正確な解析の手がかりが得られたこと,鳥類メラノサイトによるメラニン産生について,これまでの定説を覆す可能性のある現象を見つけたことなどを総合的に判断し,当初の計画以上に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では,ニワトリ鞍羽の雌雄差で対象とする羽色の発現については,従来の仮説である羽包メラノサイトによるメラニン合成のスイッチングを前提としていた。しかし,上述のように平成29年度の研究において,鳥類の羽包メラノサイトは産生するメラニンタイプを変えるスイッチングは行えず,ユーメラニンとフェオメラニンは,それぞれ異なるメラノサイトによって産生される可能性が示唆された。この違いは極めて大きく,本研究課題の基盤となるところであるため,平成30年度はまず,ニワトリメラノサイトにおける産生メラニンタイプのスイッチング能について解析を行うこととする。具体的には,メラノコルチンやASIPの受容体であるメラノコルチン受容体1(MC1R)の変異により,ユーメラニンのみを産生するメラノサイトとフェオメラニンのみを産生するメラノサイトの純粋培養を行い,試薬投与による産生メラニンタイプの変化の有無を解析する。また,雄型羽から雌型羽に変化する際のフェオメラニンからユーメラニン産生への変化におけるメラノコルチンとASIPの寄与を調べるため,メラノコルチンに対する応答性を欠くMC1R対立遺伝子(eb)ホモ個体の解析,ならびにその受容体のASIP感受性解析を進める。
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Causes of Carryover |
研究において予想外の結果が得られたため,当初予定していた実験の一部を実施しなかったことによる。この次年度使用額は,この予想外の結果から新たに実施することになった研究において,物品費として使用する。
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