Outline of Annual Research Achievements |
ヨーロッパモノアラガイは, 産卵行動に明瞭な光周性を示す(産卵は長日で促進され, 短日で抑制される)。本種では, 産卵を誘導するホルモンcaudo-dorsal cell hormone (CDCH) が同定されており, CDCHは脳神経節にある神経分泌細胞CDCから分泌される。1年目は, ガラス管微小電極を用いた単一CDCからの細胞内電位記録法と細胞内染色法を確立した。2年目は, CDCの電気生理学的特性を長日と短日条件間で比較することで, CDCHの分泌を制御する生理機構を解析した。CDCは記録を行った時間帯には自発発火を示さず, 電流注入に応じて活動電位を発生させた。そこで, 1) 静止膜電位, 2) 閾値電流(活動電位を発生させるのに必要な最小の電流量), 3) 閾値電位(活動電位を発生し始めた際の膜電位から静止膜電位を引いた値)に着目し, これらを長日と短日条件間で比較した。その結果, 長日ではCDCの静止膜電位は浅く, 閾値電流が小さいこと, さらに閾値電位も小さいことがわかった。これは, CDCの興奮性が短日よりも長日で高いことを示す。3年目は, CDCに光周期情報を送る前ニューロンを解析した。本種の産卵行動は, CDCに加えて, lateral lobeと呼ばれる脳領域によっても制御される。Lateral lobeには, 光周期依存的に分泌活性を切り替えるCanopy cellがあり, 私はCDCの前ニューロンとしてCanopy cellに着目した。両者の神経結合を免疫組織化学と細胞内染色で調べた結果, 直接的な結合関係は無いことがわかった。
本研究から, CDCは光周期に応じて興奮性を切り変え, 長日でCDCHの放出(つまり, 産卵)を促進していることがわかった。今後は, 引き続きCDC前ニューロンの解析を進め, 本種の光周性の神経基盤の解明を目指す。
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