2017 Fiscal Year Research-status Report
The study of adaptation mechanisms of insect circadian clocks to the soil temperature environment
Project/Area Number |
17K07489
|
Research Institution | Ashiya University |
Principal Investigator |
宮崎 洋祐 芦屋大学, 経営教育学部, 非常勤講師 (40576039)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
後藤 慎介 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 教授 (70347483)
渡 康彦 芦屋大学, 臨床教育学部, 教授 (80240539)
田中 一裕 宮城学院女子大学, 一般教育部, 教授 (00316415)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | タマネギバエ / 羽化 / 温度較差 / 概日リズム / 矩形波状温度サイクル / 正弦波状温度サイクル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,タマネギバエの羽化のタイミングを制御する概日時計と温度変化の関係に注目した。このハエは,地下2~20 cmで羽化し,概日時計を地温の変化に同調させる。土中では深くなるほど温度変化の時刻は遅れてゆくが,同時に1日の温度較差(最高温度と最低温度の差)も小さくなる。タマネギバエは,温度較差が小さくなるほど温度変化に対する羽化時刻を早めることで,どの深さにいても早朝に羽化できる。 従来,概日時計の温度変化に対する反応は,高温一定条件と低温一定条件を組み合わせた矩形波状24時間温度サイクルの下で調べられる。しかし,このような自然界にはない条件で得られた結果がどこまで概日時計の生態的意義を反映しているか,詳細な検討はなされていない。そこで,恒温器の温度設定を1時間おきに変化するようプログラムして温度を正弦波状に変化させる環境(12℃の温度較差の場合,1時間に1.2℃,最高温度と最低温度付近で0.6℃変化する)を作った。その上で,さまざまな温度較差の下で羽化時刻を記録し,矩形波状温度サイクルで得られる結果と比較した。温度サイクルが矩形波状か正弦波状かにかかわらず,温度較差が小さくなるほど温度変化に対する羽化時刻は早まった。同じ温度較差の条件どうしで比較すると,正弦波状温度サイクルでの羽化は,矩形波状温度サイクルでの羽化より1~2時間早かった。このことから,少なくともタマネギバエでは,温度較差に対する応答性の生態的意義の検討には矩形波状温度サイクルで得られた結果を用いることができるが,羽化時刻の生態的意義の検討に関しては正弦波状温度サイクルで得られた結果も用いる必要があることが示唆された。実際の野外でのさまざまな時期(4月~9月)にさまざまな土深(5~20cm)で得られた羽化時刻の生態的意義の検討や概日時計の振動パターンの推察において,これらのデータは重要な知見となると考えられる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究で用いるのはタマネギバエの休眠蛹に3か月以上の低温処理をしたもののため,データを取り始める時期が遅れたものの、導入したインキュベーターを駆使することで遅れを取り戻すことができた。また,一部は来年度予定している実験の予備実験も行っている。しかし,平均温度を低くした場合の結果は出るまで時間がかかるため後々行うことにしており,全体として見ればおおむね順調に進展しているといえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は,温度較差が小さくなるほどタマネギバエが温度変化に対する羽化時刻を早めるしくみの解析を中心として進める予定である。このしくみに関してはすでに仮説を立てている。タマネギバエの羽化のタイミングを制御する概日時計の周期は24時間よりも短いことがわかっており,24時間周期への同調の際,温度変化で時計を遅らせていると考えられる。そして,この時計の後退反応は温度の変化量に依存し,較差が大きいほどこの反応はより顕著になると考えられる。これらのことから,「深いところでは小さな較差のために小さな後退が,浅いところでは大きな較差のために大きな後退が起こり,その結果,較差が小さいほど温度変化の時刻に対して羽化のタイミングが早くなる」という仮説が考えられた。 概日時計の周期より短い温度サイクルの下では概日時計の後退反応が起こらないことが予想できる。温度較差に対する反応が仮説通り概日時計の後退反応に由来するものであれば,このような条件下では較差に対する反応の消失が期待される。解析のしやすい矩形波状,自然に近い正弦波状の温度変化で調査し, 不明な点の多かった較差に対する反応の実態を明らかにする。仮説に従わない結果が得られた場合,仮説を棄却するか,もしくは部分的な修正を加えた仮説を立て,検証するための実験をそれまで得られた結果をもとにデザインし,実験する。
|
Causes of Carryover |
当該年度末に行われた第62回日本応用動物昆虫学会大会に参加するためにかかった費用が、当該年度の研究費として処理することが間に合わず、次年度に回されたこと、低温恒温器(1台686,664円)を1台購入予定であったが必要部品であるコネクターの不足により次年度に回されたこと、分子生物学的実験で使用予定であった費用(100,000円)を、研究計画の変更で次年度に回して次年度使用予定の研究費と合わせて人件費・謝金として使用し、神経生理学的研究も視野に入れた実験を行うことにしたことなどが挙げられる。神経生理学的研究では、タマネギバエの体内にある複数の概日振動体に該当する組織・細胞の特定、その他の昆虫との比較などを行う予定である。また、新しいデータロガーを複数購入し、環境要因のより正確なデータを取ることを計画している。
|