2017 Fiscal Year Research-status Report
社会性昆虫におけるモノアミンを介した脳と末梢器官の相互情報伝達機構に関する研究
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17K07491
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Research Institution | Tamagawa University |
Principal Investigator |
佐々木 謙 玉川大学, 農学部, 教授 (40387353)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 生体アミン / ドーパミン / 生殖器官 / cAMP / 受容体 / 末梢器官 / カースト / 性 |
Outline of Annual Research Achievements |
社会性昆虫で見られる労働分業には、その行動様式に特化した外分泌腺や生殖器官などの発達が伴う。これらの末梢器官の発達を促進する生理活性物質の一つとしてモノアミン類が考えられる。本研究では、セイヨウミツバチを用いて、末梢器官におけるモノアミン類の作用過程を明らかにする。さらに、末梢器官の発達が行動と同期することから、脳と末梢器官との相互情報伝達が予想され、その機構を実験的に証明する。脳が複数の末梢器官を分業に合わせて調節する機構と、末梢器官がその状態を脳に伝える機構の解明に取り組み、体全体を統制していく統合システムの解明を目指す。 今年度は、まずモノアミンに対する末梢器官の潜在的な反応を検出するために、組織中のセカンドメッセンジャー(cAMP)量を定量する測定系をHPLC-UVで確立した。次にその測定系を用いて、雄の生殖器官の各部位(精巣、貯精嚢、付属腺)におけるドーパミンに対する反応をcAMP量の増減によって調査した。その結果、貯精嚢においてドーパミン濃度に依存したcAMP量の増加を検出した。さらに生殖器官の各部位における4種類のドーパミン受容体遺伝子(Amdop1, Amdop2, Amdop3, Amgpcr19)の発現量を比較した。その結果、貯精嚢において4種類すべてのドーパミン受容体遺伝子の高い発現が確認された。雄では血中ドーパミン濃度が脳内ドーパミン量と並行して変化することが知られており、生殖器官は血中ドーパミンに曝されている。雄の生殖器官(特に貯精嚢)ではドーパミン受容体が発現し、血中ドーパミンに反応して、cAMP量を高める可能性が示唆された。血中ドーパミンの大部分は脳由来であると考えられることから、脳-体液-生殖器官の作用経路が示唆され、脳-行動の作用経路と並行して生殖器官の発達が促進されると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、(1)末梢組織中のセカンドメッセンジャー(cAMP)量の測定系を確立し、その測定系を用いて、(2)ドーパミンによる雄生殖器官中のcAMP量の増減を調査し、さらに(3)雄生殖器官におけるドーパミン受容体遺伝子の発現量を定量し、cAMP量の変化と照合した。各実験の詳細は以下の通りである。 (1) HPLCを用いて末梢組織からのcAMP量を測定する分析系を確立した。HPLCの移動相にはモノクロロ酢酸-アセトニトリル、リン酸-メタノール、クエン酸-酢酸メタノール、リン酸二水素アンモニウム-メタノール等を試した結果、リン酸二水素アンモニウム-メタノールの移動相にC8カラムを組み合わせた分析系で組織からcAMPが分離できた。検出器にUV検出器を用いることで組織抽出液からcAMP量を定量することができるようになった。 (2) 雄の腹部から生殖器官を摘出し、濃度の異なるドーパミン溶液に一定時間浸すことにより、ドーパミンに対する生殖器官の反応を調べた。ドーパミンとの反応後、生殖器官を精巣、貯精嚢、付属腺の3部位に分け、前処理をしたサンプルをHPLC-UVで分析し、cAMP量を定量した。その結果、貯精嚢においてドーパミン濃度に依存したcAMP量の上昇が見られ、D1タイプの受容体を介した反応が推測された。 (3) (2)と同様に雄の腹部から生殖器官を摘出し、精巣、貯精嚢、付属腺におけるドーパミン受容体遺伝子の発現量を比較した。ドーパミン受容体遺伝子として、D1タイプ(Amdop1とAmdop2)、D2タイプ(Amdop3)、ドーパミン-エクジステロイド受容体(Amgpcr19)の4遺伝子の発現量をqPCRで定量した。その結果、貯精嚢において全ての受容体遺伝子の発現量が他の部位よりも多かった。この結果は(2)の実験結果とも矛盾しないものであった。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度はセイヨウミツバチの雄の生殖器官を中心に実験を行い、生体アミン処理を施した末梢器官からcAMP量の測定が可能になった。また、従来、脳組織で行ってきたRNA抽出から逆転写反応、qPCRまでの方法が雄生殖器官で適用できたことから、他の組織においてもこの方法が適用できると考えられる。そこで、次年度以降はこれらの測定系を用いて、ワーカーと女王の末梢器官について主要な生体アミン(ドーパミン、オクトパミン、チラミン、セロトニン)に対する反応性を調べる。cAMP量の大きな増減を示す組織とそれを引き起こす生体アミン類に絞って、その受容体遺伝子発現を測定し、介在する受容体サブタイプ候補を決定する。雌ではカースト特異的な器官である下咽頭腺や受精嚢、受精嚢付属腺について、またカースト間では生殖器官、大顎腺、デュフォール腺、脂肪体について、雌雄間では飛翔筋について調査を行う。 また、末梢組織における生体アミン合成の可能性を調べるために、組織からの生体アミン量の定量と組織間比較を行う。組織間あるいは組織内の各部位間で生体アミン量を比較し、その組織・部位で濃度の高い生体アミンに着目し、そのアミン代謝系の合成酵素遺伝子の発現を定量し、組織自身によるアミン合成の可能性について検討する。さらにアミン合成能を持つ組織に関しては、日齢間で合成遺伝子発現を比較することにより、アミン合成活性の高くなる時期を特定し、脳内量や血中濃度との比較も行う。さらに、末梢組織の外科的な除去による脳内アミン合成への影響についても実験を行う。 これらの結果から、(1)組織自身による生体アミン合成と脳内アミン合成との関係、(2)血中あるいは組織由来の生体アミンに対する組織の反応性、(3)反応を介在する受容体サブタイプの決定、について追究する。
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Causes of Carryover |
年度末に出席した学会旅費や英文校閲代の請求・精算が翌年度の4-5月になったために残額が生じたが、これらの残額は翌年度の早期に執行する予定である。また、翌年度分として請求した額に関しては、物品費で備品となるHPLC用ポンプを購入する予定である。これは、現在、生体アミンの測定系とcAMPの測定系を1台のHPLC用ポンプで交替で使用しており、効率の良い分析を行うために、もう1台のHPLC用ポンプが必要になったためである。それ以外に実験試薬や器具等を物品費から支出する。また学会旅費や英文校閲代等を必要とするため、それらを旅費およびその他から支出する予定である。
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