2018 Fiscal Year Research-status Report
社会性昆虫におけるモノアミンを介した脳と末梢器官の相互情報伝達機構に関する研究
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17K07491
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Research Institution | Tamagawa University |
Principal Investigator |
佐々木 謙 玉川大学, 農学部, 教授 (40387353)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 生体アミン / 末梢器官 / 毒液 / 毒腺 / 合成酵素 / 受容体 / カテコール系アミン |
Outline of Annual Research Achievements |
社会性ハチ類で見られる繁殖分業には、その行動様式に特化した外分泌腺や生殖器官などの発達が伴う。これらの末梢器官の発達を促進する生理活性物質の一つとしてモノアミン類が考えられる。本研究では、セイヨウミツバチを用いて、末梢器官におけるモノアミン類の作用過程を明らかにする。さらに、末梢器官の発達が行動と同期することから、脳と末梢器官との相互情報伝達が予想され、その機構を実験的に証明する。脳が複数の末梢器官を個体の行動に合わせて調節する機構と、末梢器官がその状態を脳に伝える機構の解明に取り組み、体全体を統制していく統合システムの解明を目指す。
前年度は末梢器官におけるモノアミン定量系を確立し、器官におけるモノアミン受容体遺伝子発現やセカンドメッセンジャー(cAMP)量を定量する分析系を確立した。そこで、今年度はそれらの分析系を活かして、ミツバチワーカーの毒液・毒腺におけるモノアミン合成系について実験を行った。毒嚢中の毒液成分にはモノアミン類が含まれており、まずは日齢に応じてモノアミン合成がどのように進行していくかを調査した。その結果、毒液中にカテコール系アミン類やセロトニンの存在が確認され、日齢に応じて前駆物質量の減少と代謝物質量の増加が確認できた。次に、毒液を生産する毒腺におけるモノアミン合成酵素遺伝子の発現を調査した。カテコール系アミン類を合成する遺伝子(Amth, Amddc)の発現が確認された他、オクトパミンを合成する水酸化酵素遺伝子(Amtbh)の発現も確認され、ノルアドレナリンの合成に関与している可能性が示唆された。これらの結果から末梢器官である毒腺において、カテコール系アミン類やセロトニンを独自に合成することが遺伝子レベルで証明され、脳や血中のアミン濃度との相関やその相互調節機構、さらにカースト間比較について研究を進められるようになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、ミツバチワーカーにおいて、(1)日齢に応じた毒液中のモノアミン量の動態、(2)日齢に依存した毒腺におけるカテコール系アミン類の合成に関わる合成酵素遺伝子の発現、について調査した。また、ワーカーの飛翔筋や女王の生殖器官(卵巣、輸卵管、受精嚢)でのモノアミン受容体遺伝子発現についても調査を開始した。各実験の詳細は以下の通りである。
1.日齢に応じた毒液中のモノアミン量の動態: 毒嚢中に存在する毒液を一定量採取し、モノアミン量を定量したところ、ドーパミンやノルアドレナリンなどのカテコール系アミン類とセロトニンが検出された。カテコール系アミン類の前駆物質・代謝物質について日齢毎に定量したところ、若齢ワーカーの毒液中には前駆物質のDOPAが多く存在し、次第にドーパミン濃度が増加し、外勤ワーカーではノルアドレナリン濃度が高くなった。外勤ワーカーは脊椎動物の生理活性物質であるノルアドレナリンを捕食者(特に哺乳動物)に対する防衛のために生産していると考えられる。
2.毒腺におけるカテコール系アミン類の合成酵素遺伝子の発現: 毒液中に高濃度のノルアドレナリンが検出されたことから、毒腺でカテコール系アミン類を生産していることが推測されるが、合成酵素の存在が未だ証明されていない。特にノルアドレナリンは昆虫の中枢神経系では低濃度でしか存在せず、脊椎動物でノルアドレナリンを合成する酵素(ドーパミンβ水酸化酵素)の遺伝子が見つかっていない。そこで、まずDOPAを合成する酵素遺伝子Amthとドーパミンを合成する遺伝子Amddcの相対発現量を毒腺中の組織から定量した。さらに、ドーパミンβ水酸化酵素に機能的に近いチラミンβ水酸化酵素の遺伝子Amtbhの相対発現量を定量したところ、その発現が確認できた。したがって、毒腺中でのノルアドレナリン合成に関わる酵素として、Amtbhが候補として考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度はセイヨウミツバチのワーカーの毒液・毒腺におけるモノアミン合成系についてアミン濃度や合成酵素遺伝子の発現量の調査を行った。毒腺でのアミン合成が日齢で変わる結果が得られたが、それらが脳内や血中アミン濃度の影響を受けるのか、あるいは毒腺でのアミン合成が中枢神経系でのアミン合成に影響を与えるのか、について今後調べる必要がある。さらに、ワーカーの毒液が捕食者に対する防衛で使われるのに対し、女王の毒液は巣内のライバル女王への攻撃に使われることから、毒液生産の目的が両者で大きく異なる。このような観点からカースト間で毒液のモノアミン組成が異なることが予想され、カースト間のアミン濃度比較や合成酵素遺伝子発現パターンの比較、その制御機構の比較を行う予定である。
他の末梢器官においても、モノアミンの作用可能性について調査を開始した。まずは受容体の遺伝子発現量を調査し、作用する可能性のあるモノアミン候補を見つける。さらにそのアミンに対してセカンドメッセンジャーの増加・減少が見られるのかを調べ、特定の受容体が機能し得るかを確認する。また、末梢器官でのモノアミン合成の可能性についても調査を進める。毒腺と同様に、カースト間での機能の違いや発達の程度を比較し、モノアミンによる末梢器官への関与について調べていく。
これらの実験より、(1)末梢器官自身によるモノアミン合成と脳内アミン合成との関係、(2)血中モノアミンに対する組織の反応性、(3)反応を介在する受容体サブタイプの決定、について追究する。これらの生理的な機構が社会性昆虫のカースト特異的な末梢器官の発達や維持に寄与すると考えられ、この考えを支持する結果を蓄積するとともに、モノアミンによる脳-末梢器官制御モデルを構築する。
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Causes of Carryover |
今年度末に開催された学会の旅費の精算が次年度になったことや、年度末に行っていた実験で補充する予定であった試薬の購入が1-2か月遅れたために残額が生じた。残額は翌年度に旅費の精算や物品費として速やかに使用する予定である。
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Research Products
(19 results)