2017 Fiscal Year Research-status Report
哺乳動物ミトコンドリアDNAの塩基修飾の解明~その生物学的意義の理解にむけて
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17K07504
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
安川 武宏 九州大学, 医学研究院, 助教 (90646720)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ミトコンドリアDNA / DNAメチル化修飾 |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞小器官ミトコンドリアは独自のゲノム、ミトコンドリアDNA(mtDNA)を持つ。哺乳動物mtDNAは約16キロ塩基対で環状構造をとり、一細胞に数百から数千コピー存在する。mtDNAの正常な機能発現はエネルギー産生や代謝に必須であり、mtDNAに生じる塩基置換変異やコピー数低下などの異常はミトコンドリア病をはじめとする様々な疾患に関与している。哺乳動物細胞において核ゲノムDNAの構成塩基の一つであるシトシンのメチル化はエピジェネティックな遺伝子発現制御において重要な役割を果たしている。一方で、mtDNAのメチル化の研究は核DNAのそれに比べ大きくたち遅れていたが、最近、mtDNAはメチル化されているという報告が相次いでなされ、また、DNAメチル化酵素が核だけでなくミトコンドリアにも存在することを示唆する報告もされている。しかしながら一方ではmtDNAはメチル化を受けていないとする報告もあり、mtDNAがメチル化を受けているのかはいまだに結論が出ていない状況である。mtDNAがメチル化修飾を受けるか否かはmtDNAのコピー数維持や遺伝子発現メカニズムを考える上で極めて重要な生物学的課題であり、さらにはその異常が疾患に関連する可能性も秘めている。そこで、mtDNAのメチル化修飾の有無を明らかにするため、mtDNAをできるだけ高純度に精製する方法を確立し、バイサルファイトシーケンシング法、メチル化シトシン特異的制限酵素、核酸質量分析という検出原理の異なる3種類の解析方法を駆使してこれまでにない徹底的なmtDNAの解析を行った。これらの解析結果から、マウス組織やES細胞のmtDNAにおいては、生理的役割を持つようなレベルでの5‐メチルシトシンは認められないことを示唆する結果を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
我々は正常マウスの肝臓と脳、そしてE14 ES細胞のmtDNAを徹底的に解析した。まず、これらの材料からミトコンドリアを高純度に調製する方法を確立し、ミトコンドリアに含まれる核酸を精製した。そして、mtDNAをバイサルファイトシーケンシングにより解析した。加えて、バイサルファイトシーケンシングにおいては、PCRで合成したmtDNAをネガティブコントロールとして用いることで、より正確な結果を得られるように解析の系を工夫した。そして、次世代シーケンサーを用いて解析を行ったところ、mtDNA内の特定の領域に5‐メチルシトシンが存在しているようなことはないということを強く示唆する結果を得た。次に、メチル化シトシン特異的制限酵素によって切断されるかどうかを基準としたmtDNA切断アッセイの系をミトコンドリア核酸を用いて確立し、mtDNAをサザンハイブリダイゼーションで検出することで切断を評価したところ、mtDNAは有意に切断されなかった。さらに、できる限り高純度に精製したマウス組織由来のmtDNAを全分解して核酸質量分析を行ったところ、未修飾のシトシンに対して5‐メチルシトシンはわずか0.4%程度と見積もられる結果を得た。これらの結果を総合的に解釈して、mtDNAの特定の位置に5‐メチルシトシンが存在しているようなことはなく、また、たとえ仮にメチル化が起きていたとしても、mtDNA内の5‐メチルシトシンの存在量は非常に低レベルであると結論した。これらの結果から、少なくとも解析を行った組織や細胞のmtDNAに関しては、生理的役割を持つようなレベルでの5‐メチルシトシンは認められないことを示唆することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
上述のように、マウスの正常組織やES細胞においてmtDNAに生理的作用が期待されるレベルの5‐メチルシトシンが存在していることはないことが強く示唆されたことから、通常の組織や細胞のmtDNAに対してはメチル化修飾というものは機能していない(存在していない)とみなしてよいと考えることができるようになった。しかしながら一方で、他のグループの報告の中には、核内でDNAをメチル化するDNAメチル化酵素が一部ミトコンドリアにも局在していることを支持する報告もあり、特殊な状況下等ではmtDNAが有意にメチル化される可能性はある。そこで今後は、通常の組織や細胞とは異なった細胞等を用いてmtDNAメチル化の解析を進めていく予定である。そして、mtDNAがメチル化されるような事象をとらえることができたら、その生理的意義や機能を追求していく予定である。
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Causes of Carryover |
(理由)研究遂行に必要な物品購入、その他、にかかった費用が予定よりも下回ったため。 (使用計画)研究を遂行するための物品費、旅費、あるいは必要と認められればその他の費用として使用させていただく計画である。
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