2018 Fiscal Year Research-status Report
雌雄二極化に伴う異性間コミュニケーション戦略進化の分子基盤解明
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17K07510
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
豊岡 博子 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 特任研究員 (00442997)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 異型配偶化 / 有性生殖進化 / ボルボックス系列 / 配偶子進化 / 性フェロモン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、雌がつくる「卵」と雄がつくる「精子」が、それぞれ配偶子として分化した後に出会い、受精に至るまでに必須な「異性間コミュニケーション」が、雌雄の配偶子形態が未分化な同型配偶段階から進化した過程を、同型配偶・異型配偶・卵生殖という配偶子の雌雄二極化の各段階を包含する緑藻・ボルボックス系列を用いて解明することを目的とする。 2018年度は主に、同系列の配偶子誘導要因の進化についての研究を展開した。同系列の同型配偶クラミドモナス等では窒素飢餓によって配偶子が誘導されるのに対し、卵生殖ボルボックスでは雌雄配偶子(精子束および卵)共に雄由来の性フェロモンによって誘導される。そのため同系列では配偶子誘導を、栄養飢餓という環境要因を引き金とする戦略から、性フェロモンを介した同性・異性間コミュニケーションを必要とする戦略へと転換したと考えられる。当研究課題ではこの転換の過程を明らかにするため、同系列の雌雄二極化の初期段階にある異型配偶ユードリナにおける配偶子誘導要因の解析を行った。まず、ユードリナを同調的に増殖させる培養系を確立し、この系に雄由来の調整培地を作用させることで、精子束を誘導する系を確立した。この精子束誘導効果はタンパク質分解酵素プロナーゼによって阻害されたことから、ユードリナでも雄由来のタンパク質性の性フェロモンが精子束形成を誘導することが明らかになった。一方、ユードリナ雌性配偶子は栄養群体細胞と形態的に区別できないため、遺伝子発現に基づく配偶子誘導要因解析も行なった。その結果、雌性配偶子は、雄由来の性フェロモンによって直接的に誘導されることはなく、窒素欠乏状態での長時間培養が誘導に必要であることが示唆された。以上の結果によりユードリナは、性フェロモンと窒素飢餓の両方を配偶子誘導の引き金として用いていることが推察された(豊岡ら、日本植物学会第82回大会にて発表)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当研究課題にて集中的に取り組んでいる「異性間コミュニケーション」を担う配偶子誘導要因の「性フェロモン」については、2018年度に、異型配偶ユードリナの同調培養系・雄由来調整培地による精子束誘導系の改良を重ね、安定して高頻度に精子束が形成される条件を見出した。この系を利用して、これまで雄由来調整培地内に存在することが示唆されていた精子束誘導因子 (Szostak et al. 1973 J. Phycol.)が、タンパク質性の性フェロモンであることを実証できた。現在、この性フェロモンの分子同定を目指し、雄由来調整培地内のタンパク質解析を行なっている。 また2018年度、当初の研究実施計画の通りに、ボルボックス系列・異型配偶ユードリナにおいて、SYBR Greenを用いたリアルタイムPCRによる雌雄配偶子特異的遺伝子の発現定量解析を行った。その結果、窒素飢餓によって雌性配偶子特異的遺伝子の発現が促進されることを見出したが、雌性配偶子形成に対する性フェロモンの影響に関しては、さらなる検証が必要である。 一方、当研究課題が着目するもう一つの「異性間コミュニケーション」を担う分子「配偶子接着因子FUS1」については、2017年度までに異型配偶ユードリナにおけるオルソログ遺伝子の単離し、原著論文にて報告済みである(Hamaji, Kawai-Toyooka et al. 2018 Commun. Biol.)。2018年度は、ユードリナFUS1遺伝子のリアルタイムPCRによる発現定量解析を行なったものの、現状では発現量が極めて低いことが判明したため、より高い発現が安定して誘導される条件の探索が必要である。 以上、確実に研究成果は得られているものの、実験系の改善に想定以上の期間を要しているため、「やや遅れている」が妥当である。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度も引き続き、ボルボックス系列の雌雄二極化の初期段階にある異型配偶ユードリナを主な研究材料とする。まず、これまでの当研究課題の成果によって雄由来の調整培地内への存在が示された精子束誘導活性を有する性フェロモンの分子同定を行う。具体的には、雄株を高密度で培養して精子束を形成させ、その培養上清から遠心・フィルター濾過によって細胞片を取り除いた後、同液中のタンパク質を限外濾過フィルターを用いて回収する。得られたタンパク質濃縮液を用いて性フェロモン活性(精子束誘導能)を検証し、ユードリナ全ゲノムデーターベースを参照した質量分析解析を行うことで、この性フェロモンを分子同定する。さらに同配列をもとに、既知およびゲノムデータベース上のボルボックス系列の性フェロモンやフェロフォリン(性フェロモンに相同性を持つ細胞外基質タンパク質)との系統解析や一次構造比較解析を行うことで、ボルボックス系列における性フェロモン獲得メカニズムを推察する。 同時に、ユードリナ雌雄配偶子特異的遺伝子のリアルタイムPCRによる発現定量解析を行う。特に雌に対する、雄由来の性フェロモンの影響を重点的に解析し、異型配偶段階での配偶子誘導における「異性間コミュニケーション」の存在の有無を検証する。 雌特異的遺伝子である配偶子接着因子オルソログFUS1については、上記発現定量解析にて安定した遺伝子発現が検出できる条件が明確になり次第、抗ユードリナFUS1抗体を用いたタンパク質発現および細胞内局在解析を行う。
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Causes of Carryover |
「現在までの進捗状況」で述べたように、性フェロモンによる配偶子誘導系の改善に想定以上の期間を要したため、当初の研究計画では2018年度に予定していたユードリナ性フェロモンの分子同定を2019年度に遂行する。具体的には、ユードリナ雄株由来の調整培地中のタンパク質のうち精子束誘導能を持つ画分についての質量分析解析を外部委託にて行う。 また、リアルタイムPCRを用いた遺伝子発現解析についても、2018年度から引き続き実施するため、同解析に必要な試薬購入のための予算が必要である。
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Research Products
(9 results)
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[Journal Article] Exploring the Limits and Causes of Plastid Genome Expansion in Volvocine Green Algae2018
Author(s)
Gaouda Hager, Hamaji Takashi, Yamamoto Kayoko, Kawai-Toyooka Hiroko, Suzuki Masahiro, Noguchi Hideki, Minakuchi Yohei, Toyoda Atsushi, Fujiyama Asao, Nozaki Hisayoshi, Smith David Roy
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Journal Title
Genome Biology and Evolution
Volume: 10
Pages: 2248~2254
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research
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