2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K07515
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Research Institution | Fukui Prefectural University |
Principal Investigator |
吉川 伸哉 福井県立大学, 海洋生物資源学部, 准教授 (20405070)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
長里 千香子 北海道大学, 学内共同利用施設等, 助教授 (00374710)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 細胞壁 / 形態形成 / バイオミネラリゼーション / ケイ素輸送 / 形態進化 |
Outline of Annual Research Achievements |
[細胞壁形成に関わる分子機構の解析] パルマ藻Triparma laevisの細胞壁形成に関わる遺伝子を同定するため,ケイ素欠乏条件では細胞壁を作らないまま増殖する特性を利用し,RNA-seq解析を用いて細胞壁を持つ細胞と持たない細胞間の遺伝子発現の違いを比較した.細胞壁を持つ細胞と持たない細胞では,それぞれ207,99個の遺伝子で,有意な発現量の上昇が見られた.細胞壁を持つ細胞で発現量の上昇が見られた遺伝子の中には,ポリアミン合成に関わる遺伝子や脂肪酸の分解に関わる遺伝子がそれぞれ2個ずつ含まれていた.珪藻ではポリアミンがシリカの重合に関与することが報告されており,パルマ藻のシリカ重合も珪藻と同様にポリアミンが関与していることが示唆された.また,T. laevisの細胞壁形成過程の透過型電子顕微鏡(TEM)観察により,T. laevisの細胞は細胞壁を放出した後に,細胞壁を覆っていた膜を細胞内に回収することが報告されている.RNA-seqの結果により細胞壁を形成している細胞は,脂肪酸の分解に関わる酵素の量を増し,膜のリサイクルを促進していることが示唆された. [細胞壁形成過程の形態学的解析] パルマ藻は,シリカの円形のプレート(shield,ventral)と非円形のプレートで覆われている.パルマ藻のプレートは,装飾や形状が中心類珪藻の栄養細胞の被殻や増大胞子の鱗片と類似していることが知られているが,プレートの形成過程は調べられていないため,発生学的観点からの相同性は十分に検証されていない.T. laevisのプレートの形成過程の形態学的解析を行った.熱硫酸法によるシリカの重合過程の観察により,円形のshieldプレートは常に中心珪藻と良く似た環状のパターンセンター(PC)から形成されるが,ventral プレートは環状のPCだけでなく線状のPCからも形成されことが示された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
[細胞壁形成過程の細胞学的解析] 祖先型パルマ藻のスケールパルマ株の細胞壁である鱗片の形成過程を解析し,29年度に明らかにしたパルマ藻Triparma laevisのプレートの形成過程との比較を行っている.スケールパルマ株の鱗片は,T. laevisの円形プレートと同様に環状のパターンセンターから形成されることが示された.この結果はスケールパルマ株の鱗片とパルマ藻のプレートは発生学的観点から相同の構造であることを示唆している. [細胞壁形成に関わる分子機構の解析] T. laevisを用いて細胞壁を持つ細胞と持たない細胞の遺伝子発現の違いから,細胞壁形成に関わることが示唆される複数の遺伝子が検出された.細胞壁を持つ細胞では,207個の遺伝子で発現量の増加が見られる一方で,珪藻の報告では細胞壁形成時に発現量の増加が報告されているケイ素輸送体(silicon transporter, SIT)の発現量に有意な違いは見られなかった.珪藻のSITは,転写調節による発現制御に加えて,転写後の翻訳調節による制御も報告されているため,パルマ藻のSITの予測されるアミノ酸配列に基づきペプチド抗体を作成し,蛍光抗体法によるSITの細胞内局在部位の同定とウエスタンブロット法のよるSITタンパク質の発現量解析に着手した.蛍光抗体法では珪藻と同様に細胞膜へのSITの局在が確認される一方で,ウエスタンブロット法では遺伝子のアミノ酸配列から予想された分子量とは異なる位置にSITのシグナルが検出された.現在はウエスタンブロットで得られた結果を検証するため,SIT組換えタンパク質を抗原とした,抗体作製に向けて大腸菌を用いた組換えSITタンパク質の作成を行っている. これまでの結果は,国際学会で1回,国内の学会で2回発表し,30年度中に国際誌への論文投稿を予定している.
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Strategy for Future Research Activity |
[細胞壁形成過程の細胞学的解析] 祖先型のパルマ藻の鱗片の形成過程を熱硫酸法及び,超薄切片観察法により解析することで,鱗片の形成部位やケイ素重合のパターンを明らかにし,29年度までに明らかにしたTriparma laevisのプレート形成過程と比較することによりパルマ藻の内におけるシリカの細胞壁形成の多様性と普遍性と明らかにする.研究計画立案当初は,新奇スケール株に加えて,新たに培養株が確立されたT. retinervisも同様に形態学的解析を行うことを予定していたが,T. retinervis株はケイ素濃度を調整可能な人工合成海水培地では,増殖速度が遅く,良好な十分に試料が得られないため30年度は新奇スケールパルマ株を中心に解析と比較を進める. [細胞壁形成に関わる分子機構の解析] T. laevisのRNA-seqで得らえた細胞壁形成に関わる遺伝子の機能を解明するため,ケイ素添加後の遺伝子発現量の変化をRNA-seqおよび定量的PCR法を用いて時系列的に解析する.シリカ重合に関わる遺伝子silicaninの相同遺伝子がT. laevisのゲノム中に検出されたことから,パルマ藻の細胞壁形成におけるsilicaninの挙動を定量に解析する.T. laevisの解析で得られた細胞壁形成に関わる遺伝子が,新奇スケールパルマ株のゲノム中にも存在するのかを検証することでパルマ藻内における細胞壁の多様性と普遍性,細胞壁形成に関わる分子機構の進化を考察する.
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Causes of Carryover |
H29年度の予定していた抗体作製をH30年度に実施するため、抗体作製に関わる費用を次年度に繰り越した。
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Research Products
(3 results)