2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K07515
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Research Institution | Fukui Prefectural University |
Principal Investigator |
吉川 伸哉 福井県立大学, 海洋生物資源学部, 准教授 (20405070)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
長里 千香子 北海道大学, 北方生物圏フィールド科学センター, 准教授 (00374710)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 細胞壁 / 形態形成 / バイオミネラリゼーション / ケイ素輸送 / 形態進化 |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞壁形成過程の形態学的解析 細胞がケイ酸質の鱗片で覆われているスケールパルマ株を用いて,鱗片形成過程の形態学的解析を行った。スケールパルマ株は均質な円形の鱗片で細胞が覆われているが,鱗片の形成過程の観察により鱗片は、環状のパターンセンター(PC)から形成される鱗片と線状のPCから形成される鱗片の2種類が存在することが示された。スケールパルマ株で、2種類の環状と線状の2種類のPCを持つという結果は、29年度に形態学的解析を行ったTriparma laevisの細胞壁に見られる円形プレートの形成過程の観察結果と一致していた。そのため新奇スケールパルマ株の鱗片形過程の解析結果は、29年度のTriparma laevisのプレート形成過程の観察結果から導かれた現在の羽状珪藻のvalve形成時に見られる線状のPCは、羽状珪藻で新に獲得されたものでは無く、パルマ藻と珪藻の共通の祖先の段階で環状と線状の2種類のPCを持っていたという仮説を支持するものである。 殻形成に関与する分子機構の解明 ゲノム解析の結果から、パルマ藻T. laevisのケイ素輸送体(silicon transporter: SIT )は、一般的な珪藻の10回膜貫通型のSITとは異なり、膜貫通領域を20回持つ可能性が示唆されている。cDNAを用いたSIT遺伝子のクローニングにより、SIT遺伝子領域から3種類の転写産物(TlaSIT1-3)が転写されているこが示され、それぞれの転写産物から予測されるSIT1-3タンパク質の分子量は、105 kDa、72 kDa、67kDaであった。T. laevisのSITタンパク質を同定するため、抗SIT抗体を作製し、免疫ブロット解析を行ったところ、250 kDa付近にバンドが検出された。この結果は、SITは細胞内では2量体もしくは3量体として存在していることを示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.細胞壁形成過程の細胞学的解析:パルマ藻T. laevisのプレートの形成過程の観察により、パルマ藻のプレートの形成過程では、中心珪藻のvalveの形成過程の見られる環状のパターンセンター(PC)だけでなく、羽状珪藻のvalve形成時に観察される線状のPCも観察されることが示された。これまでは羽状珪藻のvalveで見られる線状のPCは, 中心珪藻から羽状珪藻が進化するときに獲得されたと考えられていたが,この結果からパルマ藻と珪藻の共通の祖先が既に環状と線状の2種類のPCを持っていたことが示唆された。この成果の一部は、国際雑誌に公表した。 2.細胞壁形成に関わる分子機構の解析 網羅的遺伝子発現解析:パルマ藻T. laevisの細胞壁形成に関わる遺伝子発現の変化を詳細に解析するため、ケイ素添加1,12,24時間後の遺伝子発現をRNA-seqにより解析した。現在はRNA-seqにより得られたデータのバイオインフォマティクス解析を行っている。 ケイ素重合に関与する遺伝子の探索:パルマ藻ゲノムから珪藻のケイ素重合に関与する遺伝子(silicanin)と類似性が高い遺伝子(Tlsil)の部分配列が見いだされたため。Tisilのパルマ藻細胞における機能を解析するため、クローニングを行い、全長1149bp (383AA)からなるTlsil遺伝子の全長を得た。現在は本研究室が有しているパルマ藻6株のゲノム情報とデータベースに含まれる珪藻ゲノム情報を元に、パルマ藻と珪藻間におけるsilicanin遺伝子の系統解析を行うと共に、Tlsil遺伝子の局在解析を行うために、GFP融合Tlsilタンパク質を合成する発現ベクターを構築している。
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Strategy for Future Research Activity |
網羅的遺伝子発現解析:パルマ藻T. laevisにおけるケイ素添加後の経時的な遺伝子発現変動についてGO(gene ontology)解析とKEGGを用いた代謝パスウェイエンリッチメント解析行い、パルマ藻の環境中の及び細胞内のケイ素濃度の変化に適応したシグナル伝達経路とケイ素の細胞壁合成に関わる物質代謝に関わる遺伝子群の同定を行う。 パルマ藻におけるシリカの細胞壁形成に関わる遺伝子の機能解析: ケイ藻の研究によりケイ素輸送(SIT)とケイ素重合(Silicanin)に関わることが示唆さているそれぞれ遺伝子について、パルマ藻細胞での機能を解明するため、抗体を用いた免疫蛍光染色法・免疫電子顕微鏡法及び、GFP融合タンパク質を用いた局在解析、リアルタイムPCR法のよる発現解析を行う。 分子生物学的知見と、これまでに電子顕微鏡を用いた細胞壁形成過程の細胞学的知見を組み合わせることで、パルマ藻におけるシリカの細胞壁形成機構の包括的な理解を目指す。
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Causes of Carryover |
30年度に実施することを予定していた、スケールパルマ株の遺伝子発現解析を31年度に実施するため、30年度の予算の一部を31年度に繰り越した。
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Research Products
(5 results)