2017 Fiscal Year Research-status Report
多様性を有するRNAキナーゼの進化情報解析とその情報に基づいた酵素機能の改変
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17K07517
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
金井 昭夫 慶應義塾大学, 環境情報学部(藤沢), 教授 (60260329)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | RNAキナーゼ / Clp1 / 進化情報 / 生命情報科学 / 実験検証 / マルチドメインタンパク質 / 基質特異性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は情報科学を駆使したRNAキナーゼ(Clp1)のシステマティックな進化学的解析と、その進化情報に基づいたClp1の変異実験という、大きな2本の基軸より遂行される。ここで、Clp1は主にヒトでtRNA前駆体のプロセシングに関わるリン酸化酵素として同定されている。本研究における情報解析では、該当分子の進化を系統樹やネットワーク解析を行うことで検討すると共に、種分化におけるドメインの獲得過程を、マルチプルアライメント解析などを通してアミノ酸レベルで明らかにする。2017年度の研究実績は以下の通りである。まず、Clp1のアミノ酸配列と相同なタンパク質複数種をQueryとして用いて相同性探索を行ったところ、生物の3大ドメインを構成する約1500種で計2890配列のClp1関連タンパク質を推定することができた。この中にはClp1と相同だが、rRNA前駆体のプロセシングに関わることが報告されているNol9やGrc3なども含まれていた。さらに、これまでその存在が知られていなかったバクテリアに由来した該当タンパク質を明らかにできた。バクテリアのClp1遺伝子は系統樹上で特定の門や種に限定されず、そのドメイン構造の比較から、アーキアのそれが、水平伝搬した結果であることが予想された。また、予期しないことであったが、Clp1のポリヌクレオチドキナーゼドメインを含む、様々なマルチドメイン含有型タンパク質が真核生物種に100種以上存在することを明らかにできた。一方で、実験的な解析のために、超好熱性アーキアPyrococcus furious (Pf)に由来するPf-Clp1を用いた試験管内のRNA鎖リン酸化反応系を構築した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1) UniProtタンパク質データベース(2017年11月時点で約9926万配列)に対して現在までに同定されているClp1のアミノ酸配列と相同なタンパク質を複数種Queryとして用いて、相同性探索を行ったところ約1500種で計2890配列のClp1関連タンパク質を推定した。この中にはClp1と相同だが、rRNA前駆体のプロセシングに関わることが報告されているNol9やGrc3なども含まれていた。また、完全長のゲノムが報告されている代表的な生物種でClp1遺伝子の存在を検討したところ、真核生物では100%、アーキアで61%の種が該当遺伝子を有していることが明らかになった。さらに、バクテリアにおいてもClp1と相同な遺伝子が8.3%存在していた。バクテリアのClp1遺伝子は系統樹上で特定の門や種に限定されず、そのドメイン構造の比較から、アーキアのそれが、水平伝搬した結果であることが予想された。
(2) 酵母菌や植物で見出されたtRNAリガーゼ (Trl1)は3つの酵素(ポリヌクレオチドキナーゼ、環状型リン酸の開裂酵素 (CPDase)及びRNAリガーゼ)に対応したドメインを有している。ここで、ポリヌクレオチドキナーゼに対応するドメインはClp1のそれと相同である。今回の網羅的な相同性探索の結果として、Clp1のポリヌクレオチドキナーゼドメインを含む、様々なマルチドメイン含有型タンパク質が真核生物種に100種以上存在することを明らかにした。この中には未同定のドメインを複数有するような1,000-2,000アミノ酸長に及ぶ大型のタンパク質があった。
(3) 情報解析で同定したClp1相同タンパク質の、生化学的な活性の検証を実現するために、まず、超好熱性アーキアPyrococcus furious (Pf)に由来するPf-Clp1を用いた試験管内のRNA鎖リン酸化反応系を構築した。
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Strategy for Future Research Activity |
(1) 2017年度に見出したClp1相同タンパク質の系統樹上での位置をそのドメイン構造の有無と共にまとめ上げ、学術論文の投稿を行う。
(2) 申請当初は、ヒトClp1分子が有するRNA鎖特異性に関して、RNA鎖でも、DNA鎖でもリン酸化することが報告されているアーキアClp1分子との比較、キメラ酵素の活性解析により検討する予定であったが、バクテリアでのClp1相同タンパク質を見出すに至り、バクテリアでの該当分子の特異性解析を優先し、主にこの情報を得て、Clp1タンパク質ファミリーの進化と多様性、その基質特異性に迫りたい。
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