2018 Fiscal Year Research-status Report
動物地理区境界線「三宅線」を分布境界とする昆虫相形成過程の解明
Project/Area Number |
17K07528
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
矢後 勝也 東京大学, 総合研究博物館, 助教 (70571230)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 動物地理区 / 分布境界線 / チョウ類 / 生物地理 / 旧北区 / 東洋区 / 分子系統地理 / 自然史 |
Outline of Annual Research Achievements |
旧北区―東洋区間を隔てる動物地理区境界線の一つ「三宅線」を分布境界とした昆虫、特にチョウ類とガ類について、形態による分類学的再検討および複数の遺伝子を用いた分子系統解析や集団遺伝学的解析を行い、「三宅線」を挟んで南北に異なる昆虫相の遺伝的構造と形成過程を明らかにするとともに、各分類群で少しずつ異なる分化と多様化の成立要因を解明する。また、分岐年代を伴う生物地理学的情報に地史や気候変動の情報を重ねて過去を復元することで、系統分類学や生物地理学だけでなく、古地理学や古気象学に寄与し、さらには保全生物学への貢献も目指すことを目的とした。 平成30年度は、DNA抽出実験やサンプルの飼育機材・消耗品に費用がかさんだ一方、国内でのサンプル収集の調査計画が悪天候のためにほぼすべて阻まれた。海外調査では予定していた中国広東省のカウンターパートの都合により隣国のベトナムに赴き、わずかながら成果を得ることができた。研究成果として、シジミチョウ科ツシマウラボシシジミ、フジミドリシジミ、クロツバメシジミなどの分子系統地理や集団遺伝学的解析の結果を日本進化学会、日本昆虫学会、日本鱗翅学会の大会等にて積極的に発表した。また、最新の分布情報を集約する上での文献調査の過程で得られた情報も取りまとめ、本年のチョウ類関係の総括を出版した。昨年度の本研究の調査で得られた副産物も一部用いてアンカー・ハイブリッド濃縮法により約400 lociをシーケンスしてセセリチョウ科全体の分子系統解析を行い、これまでにない新たな系統関係を国際誌にて公表した。科学系出版社の書籍でも成果の一部を出版した他、研究代表者(矢後)が所属する東京大学総合研究博物館の紀要でも研究成果を報告した。研究代表者が企画または一部協力した展示などでも研究内容の一部を解説、図示し、展示図録に収録するなど、本研究成果を広く公開発信した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
国内のサンプル収集については、現地の協力者等によりある程度達成することができているものの、昨年の天候不順による調査不足のために南西諸島産のサンプルが網羅的に収集できているとは言い難い状況である。海外産に関しては、台湾、中国、ベトナムなど、現地の共同研究者の協力下により、かなりの部分が揃っているものの、一部でまだ入手できていない地域のサンプルがあったり、サンプル数が不足していたりするなど、十分に達成できていない状況もある。 分子系統解析や形態学的研究に関しては、特に分子系統解析のシーケンスまで至っていないサンプルが少なくなく、当初の予定ほど進められなかった。その一方で、研究成果の学会発表や投稿、出版などについては、一部で成果が得られた内容から精力的に進めてきた。研究代表者が所属する博物館主催または共催の特別展や企画展でも、成果の一部を積極的に展示、公開してきた。 また、国内では沖縄本島固有とされていたフタオチョウが、最近、奄美大島で複数頭発見された。採択当初は想定していなかった種であるが、これらのサンプルが入手でき、比較のための海外産のサンプルも集まってきたことから、本研究内容に加えても面白いと考え、現在、この奄美大島産の由来を含めて本種の分子系統解析も進めている。 このように分子系統解析等のためのサンプル入手やシーケンスでやや停滞状況がみられたものの、それ以外での研究の進み具合や成果の出版、公開等はおよそ順調であった。次年度は遅れているサンプル確保や研究結果を中心に力を入れて、本研究の最終成果報告書として取りまとめたいと考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
最終年度である次年度は、引き続き研究協力者との連携・協力を仰ぐとともに、昨年度実施できなかった「三宅線」より南方の調査を実行して、カバーしきれなかった重要な研究材料の収集等に重点を置く。特に中国および台湾の研究協力者との研究材料の収集や研究打ち合わせを精力的に行う。また、これまであまり進んでいない分類群の分子系統解析を進めて、精度の高い解析結果を導くためのデータを蓄積する。最終的に全解析結果を統合して、研究に用いた全分類群の遺伝的分化と分布の形成過程を復元し、過去の地史や気候変動等の情報と対応させ、「三宅線」を分布境界またはこの境界線で分化した昆虫相の進化の実像を探る。また、形態分類の再検討の結果と分子系統解析による遺伝的類縁関係を反映した新たな分類体系の再構築も行う。 これまで得られたデータまとめて学会発表を行うとともに、論文執筆、出版を進める。一方で、本研究の一部を研究代表者が所属する博物館のホームページ内にあるウェブミュージアム上に研究成果をアップする他、前々年度・前年度に引き続いて代表者が所属する博物館で開催予定の企画展等において研究成果の一部を展示・発表するなど、本成果を社会に広く公開発信する。
|
Causes of Carryover |
(理由) 今年度における本研究では、国内でのサンプル収集調査が天候不順によりほぼ遂行できなかった。国外では中国での調査費用を計上していたが、中国のカウンターパートである華南農業大学の王敏教授との都合が合わず、この分の旅費の支払いが生じなかった。また、分子系統解析に関する実験が当初の予定ほど進まず、雇用を予定していた謝金分の予算が使用されなかった。一方、当初の予想以上に飼育機材・消耗品に時間や費用がかかり、学会発表等も積極的に行ったため、こちらに余剰分の費用を割り当てた。以上のような理由から、差し引きで次年度使用額が生じることとなった。 (使用計画) 今年度の結果を検討しながら、サンプル収集完了のための国内外の調査を行う。また、当初の予定以上に分子系統解析を迅速かつ大量に進める。そのため、系統解析にかかる消耗費分を繰越金から割り当てて、多少増額すると同時に、実験助手の経費を大きく増額計上する。学会発表、論文執筆、出版も進めるが、論文出版では投稿料、カラーチャージ、オープンアクセス料、別刷代金などの費用が予想される。このことから成果発表のための費用も増額する。さらに研究代表者が所属する東京大学総合研究博物館では、次年度に昆虫関係の企画展の開催が決まったことから、本展示にて研究成果を発表するための経費も繰越金の一部を計上する。これらの成果を統合して最終的な研究成果報告としてまとめる。
|
Research Products
(27 results)
-
-
-
-
-
-
-
[Journal Article] Catalogue of the Insect Collection of Prof. Chujiro Sasaki and Associated Researchers, The University Museum, The University of Tokyo. Part I (Lepidoptera: Rhopalocera)2019
Author(s)
Yago, M., Katsuyama, R., Ito, H., Tanio, T., Hoshizaki, S., Shimada, T. and Ishikawa, Y.
-
Journal Title
The University Museum, The University of Tokyo, Material Reports
Volume: (119)
Pages: 1-274
-
-
-
-
-
[Journal Article] Anchored phylogenomics illuminates the skipper butterfly tree of life (Lepidoptera, Papilionoidea, Hesperiidae).2018
Author(s)
Toussaint, E. F. A., Breinholt, J. W., Cason, C. E., Warren, A. D., Brower, A. V. Z., Yago, M., Espeland, M., Pierce, N. E., Lohman, D. J. and Kawahara, A. Y.
-
Journal Title
BMC Evolutionary Biology
Volume: 18
Pages: 101
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-