2017 Fiscal Year Research-status Report
タラ目魚類の進化史解明:ミトコンドリアゲノミクスによる網羅的アプローチ
Project/Area Number |
17K07531
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
佐藤 崇 京都大学, フィールド科学教育研究センター, 研究員 (60436516)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | タラ目 / 分子系統解析 / ミトコンドリアゲノム / 核遺伝子 / 遺伝子配置 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度である 2017年度は,まず解析用の試料収集に注力した.その結果,本課題の目標としていた試料数の8割以上にあたる10科25属70種を自らの採集や国内外の大学・博物館などの協力を得て収集できた. タラ目魚類の包括的系統解析の第一段階として,目内で最も種数が多く,形態的多様性に富むソコダラ科魚類に焦点を当て,ミトコンドリア (mt) ゲノム全長塩基配列および核遺伝子の配列データ決定,そして予備的な分子系統解析を進めた.その結果,科内を網羅する 10属 15種の mt ゲノム全塩基配列を決定することができた.これまでの研究により,本科魚類の複数種の mt ゲノムには脊椎動物一般のものとは異なる特異な遺伝子配置があることが判明していた.本研究でソコダラ科魚類を網羅的に解析したところ,扱った全種の mt ゲノムにおいてtRNA 遺伝子やタンパク質遺伝子の位置が入れ替わるなど,魚類を含む脊椎動物全体で共有される遺伝子配置とは異なる複数の配置変動の例を発見した.タラ目の他科と外群も含めた 40種ほどの予備系統解析の結果に遺伝子配置情報を合わせると,これらの配置変動は本科魚類内の亜科や属レベルの分化タイミングで生じたものと推定され,特有の遺伝子配置の共有が単系統性を支持するマーカーとなることが示唆された.さらにソコダラ科以外のタラ目魚種にも,別のタイプの変動を発見した. これらの結果から,タラ目魚類には他にもまだ多くの遺伝子配置が見つかる可能性が高まった.ソコダラ科のように,科内で複数タイプの配置変動が生じている例は少なく,今後 mtゲノム遺伝子配置の進化プロセスを解明する上で,非常に良いモデルとなることが期待される.次年度は未解析の科や種の試料・データ収集をより一層進め,本科の mtゲノム構造や様々な形質の進化パターン解明にせまりたい.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題は 3年間の計画で進めており,2017年度から 2018年度前半にかけては解析用試料の収集に力を入れ,早期の採集目標達成を目指していた.現在までのところ,国内外の大学・博物館等の研究者から多くの協力が得られ,また数回に及ぶ自らの採集成果(紀伊水道,土佐湾)によって,タラ目全 13科中の 10科に関しては当初の予定よりも早く解析に必要な目標数の試料を入手することができた.これにより,次年度以降に計画していた各科内レベルの系統解析を前倒しで進めることが可能となった.タラ目全科の網羅とより精密な解析結果を得るために,2018年度も解析用試料の収集は継続する予定である. また計画では,初年度後半から次年度にかけて,遺伝子配置変動が見つかっているソコダラ科から 12属 12種の mtゲノム全長配列データと核遺伝子データを決定する見込みであった.これに関しても,本科からほぼ目標通りの 10属 15種の新規データを決定することができた.それ以外にも,近縁と考えられている科や外群のデータとして 12種を加え,27種のデータ収集を完了した.これらのデータをもちいて,本来 2018年度より進める予定であったソコダラ科内の分子系統解析および遺伝子配置解析を実施し,解析に使用した本科魚種のすべてに配置変動が生じていることを明らかにした.さらに,これまでに報告例のない新規遺伝子配置変動を 3例発見した.以上のことから,本研究課題の現在までの達成度は予定通り順調に進展していると判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
試料採集やデータ収集を集中的に行い,初年度終了時までに予備解析まで進めることができたソコダラ科に関しては,本科と外群に関する未処理の試料から,早急に mtゲノム全長配列データと核遺伝子データをを決定する.これらのデータを加えて補強された全データセットをもちいて,特異な遺伝子配置の科内での出現頻度や特徴を明らかにするべく,遺伝子配置の比較解析をすすめる.さらに科内を網羅した精密な系統解析を行い,本科魚種の分化過程や遺伝子配置の進化パターン,多様な形態形質の進化を考察する.これらの結果については,年内投稿を目標に速やかに論文として公表する作業を進めるとともに,学会等での成果発表を積極的に行う. また今年度は,タラ目内でも特に種数が多く,水産重要魚種を多く含むタラ科・チゴダラ科の解析に着手する予定である.年度前半は,そのための不足分の試料採集を重点的に行う.採集候補地としては,北海道(厚岸湾),静岡(駿河湾),高知(土佐湾)等を予定している.採集した試料からの塩基配列データ収集を精力的にすすめ,年度後半には複数の科内予備的解析を行うことを目標とする.これらと同時平行的に,本研究課題に必要な試料の収集を今年度で完遂させるべく,国内外の研究機関への採集協力依頼を継続して行う.
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Causes of Carryover |
初年度に支給された予算は,ほぼ予定通りに消耗品の購入費用や塩基配列決定のための外注費用として使用された.実験用試薬がキャンペーン価格適用により安価で購入できたこと,国内外の研究機関から想定以上の試料収集協力が得られ採集旅費を抑えられたことにより,年度末の時点で 101,444円の残金が発生した.この金額は,実験試薬購入には不足,他の消耗品購入のためには過剰であったため,次年度の解析費用への繰り越しとした. 2018年度は,試料が不足していると考えられるソコダラ科・タラ科・チゴダラ科の採集のため,これらの採集実績のある北海道や駿河湾などへと赴く予定である.この採集費用と標本の送付に 30万円を使用予定である.本研究のコアとなるのは,多数のタラ目魚類塩基配列決定であり,このためにかなりの消耗品費がかかる.これまでの経験に基づいて,1種あたりの試薬費(約 3万円)およびプラスチック器具類購入費の単価を推定し,その値に配列の決定が必要となる種数(約 30種)を乗じて総消耗品費を算出し,合計で 110万円を使用する計画である.また,学会発表等に必要な費用として 20万円(2回の年会参加を想定),論文発表に伴う英文校閲やカラー原稿の印刷費用として 10万円(2本の論文を想定)を使用する予定である. 以上,2018年度は合計170万円(繰越分含む)の予算で本研究課題を進めていく計画である.
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