2017 Fiscal Year Research-status Report
多種同調産卵はミドリイシ属サンゴの雑種種分化を引き起こすのか?
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17K07545
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Research Institution | Okinawa National College of Technology |
Principal Investigator |
磯村 尚子 沖縄工業高等専門学校, 生物資源工学科, 准教授 (90376989)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
深見 裕伸 宮崎大学, 農学部, 准教授 (50402756)
守田 昌哉 琉球大学, 熱帯生物圏研究センター, 准教授 (80535302)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 地域における多種同調産卵頻度の違い / 種内同調産卵のばらつき |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は、1)生態学的アプローチ:多種同調産卵する場所と低頻度な場所での雑種形成の調査、2)分子系統学的アプローチ:十分なレベルでの遺伝的な系統推定による雑種性の検討、の2点を予定していた。1)については、今まで調査が比較的少なかった瀬底島において、研究協力者による野外での多種同調性観察を行なった。その結果、事前にタグ付けし予想産卵期間に毎晩観察をしていたトゲスギミドリイシ12群体とサボテンミドリイシ5群体に関して、両種では産卵に最大7日間のずれがみられた。また、トゲスギミドリイシが先発、サボテンミドリイシが後発で産卵していたが、両種1群体ずつではあるが、他種多数群体が産卵する時期に産卵するものもみられた。さらに、種間だけではなく、トゲスギミドリイシでは種内でも最大8日間の産卵日のずれがみられた。このことから、瀬底島では対象2種において種間の同調性は著しく低く、また種内の産卵にもばらつきがあることが示された。 2)については、前年度までに阿嘉島より採取していた対象2種およびオヤユビミドリイシの複数サンプルを対象に、ミトコンドリア調節領域、Pax_Cイントロン領域(核DNA由来)について系統解析を行った。また、先行研究にて用いられているエクソン2領域(5427およびPMCA)についてのハプロタイプネットワーク解析、さらに、Rad-seqにて得たSNPを用いたクラスター解析も行った。系統解析では、これらの結果から、対象2種および同所的に生息するオヤユビミドリイシは遺伝的に浸透していることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度は、1)生態学的アプローチ:多種同調産卵する場所と低頻度な場所での雑種形成の調査、2)分子系統学的アプローチ:十分なレベルでの遺伝的な系統推定による雑種性の検討、の2点を予定していた。1)については、2つの対象地域(阿嘉島:多種同調産卵がほぼ毎年みられる、瀬底島:多種同調産卵する頻度が低い)のうち、今まで調査が不十分であった瀬底島について、本課題から連携協力者となった目崎拓真氏の助力により、野外産卵調査に着手することができた。その結果、瀬底島は阿嘉島と比較して多種同調産卵の頻度が低いことを確認できただけではなく、トゲスギミドリイシにおいては種内の同調性も低いことが示された。本年度観察対象にした群体はタグ付けされており、次年度以降もその同行を追うことが可能である。今後産卵に関する知見が蓄積されていくことが期待できる。 2)については、3月に開催された日本生態学会での発表を目標とし、前年度から蓄積されていた阿嘉島群体に関する遺伝子データを基に、遺伝子浸透を明らかにするために必要な「系統解析」「ハプロタイプネットワーク解析」および「クラスター解析」を共同研究者の協力を得て行うことができた。その結果、上記の中で一番進化速度が遅いミトコンドリア領域においても、トゲスギミドリイシとサボテンミドリイシの各クラスターに異なる種が含まれていることが示された。また、ハプロタイプネットワークから、対象2種とオヤユビミドリイシは種を超えて同じハプロタイプを持っていることがわかった。今後、データ数を若干増やす必要があるものの、多種同調産卵する地域における遺伝子浸透を明らかにすることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度以降は、1)生態学的アプローチについては、基本的に平成29 年度と同様の調査を継続して行なう。瀬底島では、前年度にタグ付けした群体を継続調査することで同郡体における産卵時期の年変動が明らかにできると考えている。一方、阿嘉島については、今まで利用していた阿嘉島臨海研究所が事実上閉鎖となり、現在新しく解説された「サンゴゆんたく館」との協力体制を構築中である。 2)分子系統学的アプローチについては、阿嘉島に関してはサンプル数を増やして「系統解析」「ハプロタイプネットワーク解析」および「クラスター解析」を引き続き行い、各解析の完成を目指す。さらに、SNPデータおよびマイクロサテライトによるフラグメント解析により得られるデータを用いて、Isolation with Migration (Ima; Hey & Nielsen 2007) により遺伝的浸透の程度を、NewHybrids (Anderson & Thompson 2002) により交雑の識別を行なう。瀬底島に関しては、引き続きサンプルの採取を行い、まずは「系統解析」「ハプロタイプネットワーク解析」および「クラスター解析」について、一定の結果を得ることを目指す。 3)繁殖学的アプローチについては、2)で新たに雑種体が検出できた場合には、阿嘉島臨海研究所と瀬底実験所において、組織学的手法や産卵観察による雑種体の妊性の確認とIsomura et al.(2013)に従った雑種体同士および親種との交配実験を行なう。
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Causes of Carryover |
当初次世代シークエンサー用試薬(イルミナ社)を購入予定であったが、外国からの取り寄せになるため2月中旬発注の時点で3月末の納品に間に合わないとの連絡があった。 そのため、当該試薬に充てていた金額を次年度に繰り越し、平成30年度に購入することにした。
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Research Products
(5 results)