2018 Fiscal Year Research-status Report
シロアリの交雑がもたらす共生微生物群集の置換の過程と宿主に及ぼす影響の解析
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17K07555
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
北出 理 茨城大学, 理工学研究科(理学野), 教授 (80302321)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
野田 悟子 山梨大学, 大学院総合研究部, 准教授 (80342830)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | シロアリ / 共生 / 原生生物 / 共生微生物群集 |
Outline of Annual Research Achievements |
2 種のシロアリの交雑に伴う原生生物群集の変化過程を観察するため、2018年3月に山口県下関市でカンモンシロアリReticulitermes kanmonensis、5月に茨城県水戸市でヤマトシロアリR. speratusの有翅虫を採集してこれを交雑させた。交雑から80日後、120日後、280日後に原生生物の種と種別個体数を計数した。その結果、交雑コロニーでは80日で腸内の原生生物の種はヤマトシロアリとほぼ同じ組成になるが、この時点では各種の個体数比は特異的であり、これが時間経過とともに通常のヤマトシロアリのコロニーに特徴的な比率に近づいていくことが明らかになった。この変化は複数の交雑実験コロニー間で共通しており、種間の選択過程が混合後に成立する群集構造を強く決定すると考えられた。 また、日本列島の石垣島、西表島、沖永良部島、与論島、沖縄本島、宝島、中之島においてヤマトシロアリ属のコロニーを採集し、共生原生生物組成を調査した。石垣島・西表島ではすでに確認されているヤエヤマシロアリR. yaeyamanusと同じ原生生物が確認された。また、与論島と沖永良部島ではそれぞれオキナワシロアリR. okinawanus(沖縄本島)・アマミシロアリR. amamianus(奄美大島・徳之島)と同じ原生生物種組成が確認された。また、宝島ではアマミシロアリに近い組成、中之島ではアマミシロアリとヤマトシロアリに類似した組成のコロニーが確認された。トカラ列島は北方型・南方型原生生物群集の移行域として多様な群集組成が見られると考えられる。またこの地域で原生生物の種間水平感染が2種間で生じたことが推定された。採集したシロアリと腸内容物からDNA抽出を行い、遺伝的解析の準備を進めた。 さらに、原生生物群集の移植実験を行うため、酸素による原生生物除去の条件検討を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度までに、ヤマトシロアリ属の共生原生生物組成の野外調査と試料の採取を、琉球列島を中心とする13の島嶼で実施した。その結果、これまで詳細が不明であったヤマトシロアリ属の共生原生生物組成とその変異をかなり細かく解明することができた。特に、トカラ列島が北方系と南方系の組成の移行帯として比較的大きな変異をもつことが明らかになった。またトカラ列島では、シロアリでは初めて、過去に生じた宿主の交雑と共生原生生物1種の水平感染が具体的な2種の宿主間で推定されたことは新規な成果である。 同時に、異種シロアリ間の交雑にともなう原生生物組成の調査では、異種の宿主が交雑した後の共生微生物各種の個体数変化の詳細な調査を共生微生物群集で初めて行った。その結果、交雑後に共生微生物種の種組成の変化が収束した後も、共生微生物各種の個体数構成はさらに時間をかけて変化していくこと、この変化の特性はどの実験コロニーでも共通していることなど、共生微生物群集についての新しい知見が得られている。 一方、網羅的遺伝子配列の取得実験の実施は当初予定より少し実施を遅らせ、最終年度に行う事とした。また、原生生物の異種間での再感染に関する実験も、昨年度実験時間が十分にとれなかったこともあり、本実験は最終年度に行うこととした。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は以下の様な方針で研究を進める。 (1) トカラ列島の口之島・悪石島・諏訪之瀬島についてヤマトシロアリ属の採集を行い、原生生物の標本作製、組成調査、宿主腸内容物からのDNA抽出、宿主のDNA抽出を進める。これまで採集した琉球列島を中心とする日本列島の島嶼のヤマトシロアリ属の試料(与那国島、石垣島、西表島、多良間島、宮古諸島、久米島、沖縄本島、沖永良部島、与論島、奄美大島、徳之島、宝島、中之島、屋久島、九州、本州)を用い、MIG-seq法による配列取得と系統推定を行う。同時に腸内容物DNAから増幅したSSUrRNA遺伝子の部分配列の網羅的読み取りを行い、両者を突き合わせる。 (2) 3種のシロアリを用いて3通りの2種間交雑を行い、原生生物組成の変化を比較する実験を行う。材料にはヤマトシロアリR. speratus・カンモンシロアリR. kanmonnensis・オキナワシロアリR. oknawanusを用いる。すでに3種のシロアリの有翅虫を採集ずみであり、交雑コロニーを現在作成中である。今後、血球計算盤を用いて一定期間おきに計数して原生生物の組成変化を確認する。同時に一部の個体については腸内容物のDNAを抽出する。 (3) 酸素により原生生物群集を除去したシロアリ個体を用い、別種の群集の再感染実験を行う。材料としてヤマトシロアリとオキナワシロアリを用い、セルラーゼ活性の測定とコロニー間の敵対性実験を行う。セルラーゼ活性の測定について現在条件検討を行っている。 (4) 実験結果を総合し、日本列島におけるヤマトシロアリ属の原生生物群集の進化と異種間での置換の過程と、置換が宿主に与える影響とを考察する。同時に研究結果の論文化を進める。
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Causes of Carryover |
試料を先に十分集めてからまとめて実験を行う必要があるため、実施に費用がかかる次世代シークエンシングを用いた実験(MIG-seq実験、原生生物群集の網羅的配列取得実験)を最終年度に回したため、次年度使用額が大きくなった。次年度夏までに全てのシロアリと原生生物の試料を準備し、以上の実験を行う。
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Research Products
(9 results)