2017 Fiscal Year Research-status Report
メスの交尾可能回数の種間変異がオスの繁殖戦略に与える進化的影響
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17K07577
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Research Institution | Nagasaki Institute of Applied Science |
Principal Investigator |
繁宮 悠介 長崎総合科学大学, 総合情報学部, 准教授 (00399213)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 交尾行動 / 求愛 / 配偶者選択 / 性的共食い / 交尾器破壊 / ゴミグモ / 振動信号 |
Outline of Annual Research Achievements |
ゴミグモの亜成体を採集し野外飼育装置にて成熟させ、成熟後は室内で給餌し実験した。交尾の際、本種ではメスが腹部を小刻みに震わせ、オスは求愛を始めるまでの時間が長いほか、交尾によりメスの交尾器が破壊されることは無いため複数回交尾が起こった。オスによる選択は、匂いによる選択をY字管で行わせ、網に対する選択は、2つの網から2本の糸を引っ張ってきて棒の先端に付着させ選ばせた。まだ13例だが、網に対する選択の結果は、既交尾メスの網と未交尾メスの網を(4:9)の比率で選んだ。 ミナミノシマゴミグモの交尾においては、交接前にオスがメスの第一歩脚を長くたたき、その途中でどちらかが引き返したり落下したりするなど、複雑な流れが観察された。1ペアにおいて、オスが触肢をメスの生殖孔に押しつける行動は2回で終わる例が最も多く、その半数でメスの交尾器が破壊された。破壊されたメスにもオスは触肢を押しつけようとするが、引き返すことも多く、複数回交尾はできない。春世代の実験においては、オスが捕食される例は、未交尾メスとの交尾で5%(4例)、垂体が切除されたメスで9%(1例)見られた。オスによる選択の実験では「未交尾メス」「既交尾メス」「亜成体メス」のうちの2者をオスに提示した。網に対する選択は、未:既=6:1、既:亜=1:1、未:亜=5:1であった。匂いに対する選択を滞在時間で比較すると、網に対する選択と似た傾向であった。秋の実験では、(未:既)のみ行ったが、網への選択結果は(4:4)で、匂いでは既交尾メス側に長く引き付けられ、データ数は少ないが、春世代とは異なる傾向であった。 予備実験として、レーザードップラー振動計を用いて求愛時の振動データを取得した。また1匹のメスの網に2匹のオスを導入すると、オス同士で戦うことは無いが、盛んに糸を振動させ、メスは片方もしくは両方のオスと交尾を行うなどの反応を見せた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ゴミグモでは予定を上回る13回の選択行動を観察し、本種に特徴的な交尾行動と、本種では垂体切除が起こらないことを確認できた。また、これまでの採集地より高密度に分布する生息地を見つけ、翌年度からはさらに効率的に研究を実施できるようになった。 ミナミノシマゴミグモは、6月に18回、10月に10回、合計28回の選択行動を観察した。これは計画していた30例には届かなかったが、これは秋世代の成熟時期がばらつき、成熟個体をコンスタントに準備できなかったためで、次年度には採集個体を増やすことで成熟個体を確保して挽回できる。本種の交尾行動については、行動の流れの分析や、求愛発生率、性的共食いの発生率、密着回数、交尾の流れと垂体切除の起きやすさの関係などを分析し、学会発表を行うことができた。選択実験の結果から、春世代と秋世代で選択の傾向が違うという可能性が生じたので、正確な選択傾向を明らかにするために実験計画を立て直し、当初予定していた「春・秋合わせて30~40例」ではなく、「各世代で30例ずつ」を観察することでこの可能性を検証できるようにした。 翌年度以降のための予備実験として、1匹のメスの網に2匹のオスを導入する実験や、レーザードップラー振動計による振動信号の検出試験も行い、それぞれにおいてデータ収集ができることが確かめられた。 これらのことから、本研究はおおむね順調に進展していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
30年度のゴミグモの研究は、新たに見つけた生息地から80個体程度を採集し、20例ほどの選択実験を観察することを目指す。それにより2年で30例を超えるので、本種における最低限の例数を確保できると考えている。去年度は室内飼育に切り替えた後のクモへの給餌に多大な労力を必要としたので、今年度は学生アルバイトを雇うことで、選択実験に加え、レーザードップラー振動計による振動信号のデータ採集と、2オス導入実験も行えるようにする。造網枠も30だったものを40に増やし、1シーズンで多くのデータが取れる体制を整えてある。 ミナミノシマゴミグモについては、春世代と秋世代のどちらについても20例ほどの選択実験を観察し、2年で計60例の観察を行うことを目指す。レーザードップラー振動計によるデータ収集と2オス導入実験も行う。 交尾行動およびオスによる選択の実験結果の解析方法は確立できたので、ビデオからのデータ抽出と解析を行う。 31年度は、ゴミグモの実験を追加する可能性はある。また、必要に応じてレーザードップラー振動計によるデータ収集と2オス導入実験の追加を行うほか、ビデオからのデータ抽出と解析、論文執筆、学会発表に重点を置いて活動する。
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Causes of Carryover |
レーザードップラー振動計の購入が年度末だったことに関連して、追加する周辺機器のための金額を翌年度に繰り越した。 行動撮影のためにビデオカメラを購入しようとしたが、予定していた機種が製造中止となり、後継機は発売直後で購入予定価格を上回ったため、今年度での購入をあきらめ翌年度に繰り越した。 人件費について、クモの飼育や実験補助のアルバイト雇用を予定していたが、1年目は実験手順の確立のために研究者本人が全ての作業を行うことが望ましく、また実験の種類が増える2年目にルーチンワークのためのアルバイトを雇うことが有効であると考えられたため、その為の金額を翌年度に繰り越した。
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Research Products
(1 results)