2018 Fiscal Year Research-status Report
メスの交尾可能回数の種間変異がオスの繁殖戦略に与える進化的影響
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17K07577
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Research Institution | Nagasaki Institute of Applied Science |
Principal Investigator |
繁宮 悠介 長崎総合科学大学, 総合情報学部, 准教授 (00399213)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 交尾行動 / 求愛 / 配偶者選択 / 性的共食い / 交尾期破壊 / ゴミグモ / 振動信号 |
Outline of Annual Research Achievements |
1年目に続き、ゴミグモとミナミノシマゴミグモ(以下、ミナミノシマと省略)において、オスによるメスの選択実験を行った。ゴミグモで20例、ミナミノシマの春世代で17例、ミナミノシマの秋世代で23例のデータを得た。2年間の合計データ数は、ゴミグモでは去年のデータを厳しく選別して25例となり、ミナミノシマの春世代で32例、秋世代で31例となった。現時点での傾向としては、ゴミグモではメスの交尾経験の有無や未成熟であることに対してオスの選択は起こらず、ミナミノシマでは未交尾のメスが選ばれるようで、両種のメスの多回交尾の起きやすさと符合する結果である。 レーザードップラー振動計を用いて求愛時の振動を測定した。ゴミグモで10例、ミナミノシマで10例の測定を行った。波形データとともに、その波形が生じる際のクモの動きのビデオ映像が取得できた。メス1個体に対するオス2個体の同時求愛の実験では、ゴミグモで6例、ミナミノシマで6例のビデオ映像が取得できた。両種とも、オス間で闘争や追い出しが起こることは無いが、求愛行動は通常に比べて激しく感じられた。メスは2個体のオスと続けて交尾することがほとんどであった。 オスの繁殖戦術を明らかにするために、ミナミノシマの交尾行動を詳細に分析した。まず交尾時に密着した状態のまま糸上で半回転する現象が、オスとメスのどちらにより引き起こされているのかを、①メスがオスを捕食するため行っている、②オスがメスの垂体を切るために行っている、という2つの仮説を立て検証したがどちらも支持されず、回転時の姿勢から、回転はメスが引き起こしており、交尾を中断するための行動であることが示唆された。次に交尾時の過程を6段階に分け、それぞれの継続時間と、垂体切除の関係を調べたところ、正準判別分析により2者は明確に分けられ、ある段階の継続時間の違いが垂体切除を引き起こすことが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ゴミグモの大規模な個体群を見つけ、1年で観察できる例数が格段に増えたものの、亜成体が次々と成体へと脱皮していく中で、亜成体を使った実験数を増やすことができず、3年目には亜成体を中心に早期に実験を進める必要がある。ゴミグモは個体数が少なく3年目もデータを取る予定であったため、進捗状況としては「おおむね順調に進んでいる」と言える。 ミナミノシマゴミグモでは、去年度に修正したサンプル数の目標値を達成するために、1年目は春秋併せて28例だったものを2年目では40例に増やし、修正した最終目標数である「春世代で30例、秋世代で30例」を達成することができたが、ゴミグモ同様に亜成体を用いた実験の例数が少なく、またより確かな検定結果を得るために、3年目も40例を追加し「春世代で50例、秋世代で50例」を目指すこととする。ミナミノシマでは2年でデータを取り終える予定だったため、進捗状況としては「やや遅れている」と言える。 レーザードップラー振動計による振動信号の測定は行えたが、その振動の周波数や強さの比較までは行えていないため「やや遅れている」と言える。 2オス導入実験については、ビデオ映像を撮れてはいるものの、その分析までは行えていないため「やや遅れている」と言える。 ミナミノシマの交尾行動の分析により、各性の行動の詳細が判明し、交尾の中断や垂体切除に関わる行動が示唆されたので、配偶者選択や切除行動を分析する糸口が見つかったといえる。「概ね順調に進展している」といえる。 総合的な進捗状況は、3年目に行わなければならない事項が、選択実験のデータ採取とその分析、振動及び2オス導入試験の映像解析、および論文執筆であることから、全体の進捗状況は「やや遅れている」と言える。
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Strategy for Future Research Activity |
オスによるメスの選択実験については、ゴミグモで20例のデータを追加して3年間の合計を45例とし、ミナミノシマの春世代で20例、秋世代で20例を追加して、3年間の合計を50例ずつとする。データの取得は4月から9月にかけて行う。データの分析は1年目から行っているので、3年目のデータも手順に沿って集計し、統計解析を行うことができる。 レーザードップラー振動計による振動データと行動の映像データは、選択実験を行いながら例数を追加する。数値化の方法は、様々な動物の「求愛歌」の分析手法を参考にし、種間および種内で比較を行う。選択実験が一時休止となる8月に行う。 2オス導入実験についても選択実験を行う中でデータ数を追加する。映像データの分析は10月に行う。1オス導入時との違いを数値化する方法を考案する必要がある。 論文執筆を11月から開始する。
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Causes of Carryover |
当初の研究計画では、3年目にはデータ不足分を補う予定であったが、研究を進める過程でゴミグモおよびミナミノシマゴミグモともに実験数を増加させることで、より明確な結論を得ることが望ましいと判断した。3年目の予算は少なめに見積もっていたが、3年目の研究の遂行が困難になる可能性があるため、2年目に使用する予算の一部を3年目に残すと共に、2年目に使用するはずだった論文の英文校閲費(1本分)も3年目に残す必要が出た。これらの繰越金と併せた2019年度の助成金は、実験のための消耗品の購入と市内交通費、英文校閲費に使用する計画である。
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Research Products
(4 results)