2017 Fiscal Year Research-status Report
2種類の刺激で発せられるウグイスの谷渡り鳴きの機能と進化
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17K07582
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Research Institution | National Museum of Nature and Science, Tokyo |
Principal Investigator |
濱尾 章二 独立行政法人国立科学博物館, 動物研究部, グループ長 (60360707)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 行動生態 / 音声コミュニケーション |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、捕食者や同種雌の出現がきっかけとなって始まることがあるという以外に情報のない谷渡り鳴きについて、正確な記述を行った。そのため、何が刺激となって谷渡り鳴きが始まるかを野外観察から定量的に示すとともに、谷渡り鳴き頻度の季節変化を調査した。この調査は新潟県妙高市で4~8月に7回行った。 谷渡り鳴きが起こる例を164回観察した。そのうち5%がタカ類、カラス類など捕食者の出現がきっかけとなって始まった。また、ウグイス雌の出現がきっかけとなった例が4%、ヒトの出現などその他のきっかけによって始まった例が4%あった。しかし、大半の例(87%)では、きっかけは特定できなかった。 調査地は多雪地であり、冬季ウグイスは生息しない。4月に雄が、その後雌が渡来し繁殖が行われる。通常のさえずりは、雌が存在しない繁殖期初期から繁殖期終盤まで活発に行われた。一方、谷渡り鳴きは雌の渡来前にはほとんど行われず、雌の渡来後行われるようになり営巣期間中活発に続いたが、繁殖期終盤にやや活動が低下した。また、雌の存在を確認できたなわばりと確認できなかったなわばりの間で谷渡り鳴きの頻度を比べると、前者で3.3-15.5回/5分、後者で1.0-3.0回/5分であり、時期を問わず雌がいるなわばりで谷渡り鳴きが活発に行われていた。求愛さえずりは、通常のさえずりや谷渡り鳴きとは異なり、雌が渡来・定着する5月下旬に活発であり、その前後では頻度が著しく低かった。 これらのことは、谷渡り鳴きが雌に対する信号として何らかの機能を持つことを示唆するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
谷渡り鳴きは、一般には捕食者がきっかけとなるもので、警戒声ではないかと言われてきた。同種雌の声がきっかけとなるという事例も個人的な観察経験であった。今年度の調査から、捕食者と同種雌のいずれもがきっかけとなって発せられる音声であることを明らかにすることができた。また、季節変化から雌との関わりを強く示唆する結果が得られたことは、この音声の機能を知る上で大きな前進と言える。
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Strategy for Future Research Activity |
ウグイスはやぶの中に潜むため、直接観察により定量的に正確なデータを得るのは困難である。今年度の調査でも、谷渡り鳴きが始まるきっかけの大半は不明であり、また谷渡り鳴きを聞いた雌の行動変化は知ることができなかった。今後谷渡り鳴きの機能を明らかにするためには、考えられる仮説を明らかにし、その一つ一つについて野外実験や飼育下での実験から検証していくことが必要である。それによって、この音声が発せられるきっかけを定量的に正確に明らかにしたり、聞き手(受信者)の候補となる捕食者やウグイス雌の行動変化を明らかにしたりすることができると考えられる。 例えば、谷渡り鳴きはつがいとなる前の雌(潜在的なつがい相手)を誘引する機能を持つという仮説が考えられる。ウグイスはつがいの絆が希薄な一夫多妻の婚姻形態を持つ。雌のみが造巣、抱卵、育雛を行い、雄は子の養育を全く手伝わず一夫多妻となる。巣が捕食に遭う頻度が極めて高く、雌は捕食後雄のなわばりを変えて再営巣する。そのため、繁殖期を通じて再配偶を求める雌が雄のなわばりを訪れ、雄は次々と雌と交尾することができる可能性がある。このプロセスにおいて、雌はより高い質の雄やより安全ななわばりを選択すると考えられる。谷渡り鳴きによって雌がいるなわばりであることを公告することは、多くの雌が訪れ、営巣しているよいなわばり、よい雄であることを周囲の雌に知らせることになる可能性がある。これを検証するために、野外で谷渡り鳴きを再生して、雌の訪問が増えるかどうかを調べることを計画している。
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Causes of Carryover |
観察技術、調査技術を持つ者が得られず、謝金の支出がなかった。翌年度は、調査技術を持つ者を確保したので、その謝金にあてる。
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