2019 Fiscal Year Research-status Report

自発的な胚発生誘導システムを搭載した植物遺伝子組換えベクターの開発

Research Project

Project/Area Number	17K07600
Research Institution	Chiba University
Principal Investigator	井川智子千葉大学, 大学院園芸学研究科, 准教授 (00360488)
Project Period (FY)	2017-04-01 – 2021-03-31
Keywords	脱分化 / 再分化 / 胚発生 / 遺伝子組換え
Outline of Annual Research Achievements	一般に植物で遺伝子組換え体を作出するためには、体細胞へ遺伝子を導入し、組み換え細胞から再び植物体を再生させるプロセスが必要である。しかし多くの植物種ではこれらのプロセスを可能にする適切な条件を設定することが難しい。それゆえ、遺伝子組換えが困難な非モデル植物種を用いた植物科学研究展開の妨げとなっている。本研究では遺伝子導入用ベクターに、自発的に不定胚形成を誘導する遺伝子を座乗させ、目的遺伝子導入と植物体再生を可能にする基盤システムを構築する。構築した基盤システムの機能評価はまずモデル植物の一つであるタバコで行い、その後異なる科に属する複数の植物種でシステムの有効性を評価することを計画している。 2019年度では、これまでにシロイヌナズナよりクローニングした複数の胚発生関連遺伝子のうち、特に2種に焦点を当てて、組合せと発現レベルを変化させた時の外植片からの再分化反応を解析した。この解析を行うために、2種胚発生遺伝子の組合せ・発現レベルを複数パターンで変化させた遺伝子導入ベクターを構築し、タバコのリーフディスクに導入した。これまでの報告で、胚発生遺伝子の発現により、細胞内の植物生長調節物質に対する反応が変化することが示唆されていた。そこで、2019年度では、胚発生遺伝子を導入後のタバコリーフディスクを、オーキシンとサイトカイニンを組み合わせた複数の試験区においても培養を行い、胚発生遺伝子と植物生長調整物質との関連性について解析した。
Current Status of Research Progress	Current Status of Research Progress 3: Progress in research has been slightly delayed. Reason これまで、特にシロイヌナズナを用いた解析結果において、複数の遺伝子（転写因子をコードする）が胚発生に関与することが報告されている。先行研究においては、個別の胚発生遺伝子を組み込んだ遺伝子組換え体植物を作出し、その後誘導系によって胚発生遺伝子を人工的に発現させた上で、体細胞組織上の脱分化・再分化反応を評価していた。これに対し、本研究ではアグロバクテリウムを用いてタバコのリーフディスクにこれらの遺伝子を導入し、タバコリーフディスクの細胞からの脱分化・再分化反応を解析した。その結果、単一の遺伝子を入れたのみでは脱分化・再分化に顕著な効果を示す遺伝子は見いだせなかった。しかしながら、ある胚発生関連遺伝子2種を、ある発現レベルで組み合わせることによって、脱分化反応が引き起こされることが確認された。複数の胚発生遺伝子について、組合せ・発現レベルを様々なパターンに設定して評価したために、遺伝子導入ベクターの構築と評価試験に時間を要してしまったことが、やや遅れてしまった原因となった。
Strategy for Future Research Activity	現在までのところ、シロイヌナズナの胚発生制御遺伝子のうち2種を、ある発現レベルで合成されるようタバコリーフディスクへ導入した場合に、脱分化反応が引き起こされることが分かった。この現象の再現性も確認できている。また、これまでの経緯より、この脱分化細胞から、再び器官形成が起きることが確認されている。今後は、再分化・脱分化を引き起こす細胞生理と遺伝子発現ネットワークについて追究すると同時に、他植物種での反応も調査する。最終的にはこの脱分化・再分化のタイミングを人為的にコントロールできるように、発現の誘導あるいは停止が可能な遺伝子発現カセットを構築して、新規の遺伝子組み換え用ベクターを完成させる。得られる成果については、関連学会で発表する。また、査読付きの国際学術誌での発表を目指し、社会への発信を行う。
Causes of Carryover	研究の進行がやや遅れてしまったために、本年度も継続して解析を行う必要性が生じた。また、研究成果の発表に係る経費（論文の英文校閲費および掲載料など）が含まれるため、次年度使用額が生じた。