2017 Fiscal Year Research-status Report
アブシジン酸と湿潤高温処理における中茎の伸長促進-水稲直播栽培への応用展開-
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17K07619
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Research Institution | Akita Prefectural University |
Principal Investigator |
渡邊 肇 秋田県立大学, 生物資源科学部, 教授 (10292351)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 直播栽培 / 作物学 / イネ / 植物ホルモン / アブシジン酸 / 出芽 |
Outline of Annual Research Achievements |
アブシジン酸(ABA)と湿潤高温(HTT)処理におけるイネの中茎伸長性について本年度では,以下の3点について検討した.① 異動による研究環境の整備:申請者は,平成29年度に,所属機関を異動したため,第1に,研究に必要なスペースの確保,備品,機器類,試薬品類等の入手や機器類を設置するための電気配線等のインフラを急遽,整備した.② ABAとHTT処理における中茎伸長作用の生理機構:遺伝子の発現解析に必要なサンプリング時期を「あきたこまち」と「ササニシキ」を供試して,中茎長の経時変化を検討した.両品種とも,対照区では,播種4日後に伸長が停止し,ABA処理区では,播種2日後では,中茎の伸長がみられなかったが,播種6日後の伸長が最も顕著で,播種8日後には一定値を示した.HTT処理では,ABA処理とは,成長曲線の様相が異なり,播種2日後から中茎が伸長し,播種4日後に伸長が顕著であった.また,HTT処理の中茎長は播種8日後には,一定値で推移した.これらより,ABAとHTT処理による中茎伸長の様相には時間的な違いがみられ,また,中茎伸長に関与する遺伝子の発現解析には,サンプリング時期を変える必要があると考えられる.③ ABA,HTT処理における直播水稲の生育:ABA処理した種子は,発芽程度や生育にばらつきがみられた.このばらつきは,「あきたこまち」の方が「ササニキシキ」よりも若干大きかった.今後,ABAの処理法をさらに検討する必要がある.HTT処理では,土中からの出芽がみられ,また,出芽揃いも比較的良好であった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
所属機関の異動に伴って,課題の遂行に必要なスペースの確保,備品,機器類,試薬品類等の入手や機器類を設置するための電気配線等のインフラがほぼ整備されたため,次年度以降への準備を整えることができた.また,これまでの実験では,幼植物の育成中にカビが発生することがあり,調査やサンプリングに支障をきたすことがあったが,今年度では,種子消毒剤と使用濃度を変更することにより,培養中のカビの発生を抑えることができた.カビの発生抑制は,実験の効率化を促進し,得られる結果の精度を高めることができ,本年度の大きな成果の一つと考えられる.当初,ABA処理,HTT処理の中茎伸長作用のサンプリング時期について,多数回のサンプリング時期を計画していたが,両処理による中茎長の経時変化を作物生理学的に解析することにより,サンプリング回数を1回(多くとも2回)にすることが可能で,実験の効率化や達成時期の加速化を進めることができ,本課題の推進が可能と考えられる.また,ABAとHTT処理により,中茎長の経時変化の様相が異なる結果が得られたので,中茎伸長に対する,ABAとHTT処理では,異なるメカニズムの存在が示唆されたことも本年度の成果の一つである. なお,ABAのイネ中茎伸長促進作用の遺伝子解析はもとより,HTT処理による中茎伸長作用のメカニズムに関しては,既往の研究例が極めて少なく,未知の部分が多い状況である.また, ABA処理における直播水稲の生育に関しては,ABAの生育促進作用に関する研究例が極めて少なく,既存の研究例も僅少であることから,単年度では十分な結果が得られないことは,申請時から予想していたため,次年度以降にさらに検討を続ける予定である.
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Strategy for Future Research Activity |
① ABAとHTT処理におけるイネ中茎伸長作用の機構解明:本年度で得られた,カビの発生を抑える幼植物の育成方法を用い,ABAとHTT処理における,遺伝子の発現解析を半定量的RT-PCRなどにより行う.幼植物の生育に関する遺伝子(細胞の伸長や分裂に関与する遺伝子など)の発現解析を行う.解析対象の遺伝子は,多重遺伝子ファミリーを形成することが本年度の調査により明らかとなったので,遺伝子ファミリーを構成する個々の遺伝子について,発現解析を行う.特異な発現を示した遺伝子に関しては,定量的RT-PCRによる発現解析を試みる.実験の際の注意点であるが,無処理区の中茎長が僅少なので,効率的なサンプリング方法やRNAの抽出法を,RNAの純度も考慮に入れながら検討する.② 湿潤高温(HHT)処理での中茎伸長におけるABAとの関連性:本年度の中茎伸長性の経時変化から,ABAとHTT処理の伸長量の様相が異なることが明らかとなったので,サンプリング回数を2回(それぞれの処理の中茎長の急伸長期)にして,発現解析の結果の相違点を検討する.また,ABAとHTT処理の関連性をみる場合に有効と考えられる方法が必要であれば(次世代シークエンサーによる解析や様々な遺伝子の発現に関する網羅解析など),それらの手法も視野に入れて実験を遂行する.③ ABAとHTT処理における直播水稲の生育:ABA処理法を種子浸漬の段階から,再検討すると同時に,酸素発生剤,他資材の使用も視野に入れて,処理の安定性を検討する.HTT処理では,出芽に関与する環境条件(土壌型,播種深度,土壌水分など)が,出芽や初期生育に及ぼす影響を検討する.また,本課題で得られた成果を,国内外の学会で発表したり,当該分野の専門家との意見交換を通して,研究推進の加速化をめざす.
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Causes of Carryover |
平成29年度では,当初,遺伝子発現解析用のPCR解析システム一式を計上していたが,現所属である秋田県立大学では,遺伝子解析機器類が十分に整備されていたため,本年度では,まず,所属機関の機器類を使用して,本機器の購入を延期し,そのための費用を節約することとした.また,申請者が現所属機関での着任当初の準備費用として,研究費が充当されたため,試薬品,遺伝子解析キットやガラス器具などの物品に関しても,本科研費での費用を節約することができた.なお,本年度の経費節約により,次年度以降の研究費を有効に活用することが可能と考えられる.従って,PCR解析システム一式の経費や遺伝子発現の解析に使用する遺伝子解析キット,消耗品類等の経費を次年度以降に繰り越すこととなった. 今年度では,繰り越したPCR解析システム一式の他に,物品費(主に,遺伝子解析キット,破砕機,試薬品・ビーカなどの消耗品),旅費(学会発表,研究調査など)など,本申請課題を推進するために使用を予定している.
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