2018 Fiscal Year Research-status Report
アブシジン酸と湿潤高温処理における中茎の伸長促進-水稲直播栽培への応用展開-
Project/Area Number |
17K07619
|
Research Institution | Akita Prefectural University |
Principal Investigator |
渡邊 肇 秋田県立大学, 生物資源科学部, 教授 (10292351)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 作物学 / イネ / 直播栽培 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度,秋田県立大学への異動に伴い,研究環境の整備を行ったが,本年度では,アブシジン酸(ABA)と湿潤高温(HTT)処理の中で,特にABA処理に着目してイネの中茎伸長作用について,細胞伸長に関わる遺伝子である,α-エクスパンシン遺伝子(Os-EXPA)の発現の点から検討した.対照区とABA区における中茎長の推移は,対照区の6日後では0.3±0.04㎝で,その後ほぼ一定値で推移した.一方,ABA区では播種6日後から伸長が開始し,その後著しく伸長し,最終的には2.4±0.04㎝まで伸長した.対照区における中茎長は,日本型水稲の中茎長が10mm未満と僅少であった.中茎の伸長が開始し始める播種6日後のサンプルについてRT-PCRを行った.その結果,ABA区で発現が有意に増加した遺伝子は,Os-EXPA2等の6種類であった.また,Os-EXPA21,Os-EXPA22,Os-EXPA24は発現が減少する傾向にあった.さらに,Os-EXPA10を含む25種類の遺伝子では,発現量に有意差はみられなかった. Os-EXPA1,などABAで発現が増加した遺伝子について,播種6~10日後で発現量の経時変化をみると,ABA区の方が対照区に比べて発現量が多かった.ABA区で個々の遺伝子の発現量をみると,播種6日後が高かったが,播種後日数が進むにつれて,発現量が減少あるいは同程度で推移する傾向にあった.このように,遺伝子発現と中茎伸長の経時変化をみると,エクスパンシン遺伝子の発現量の増加と中茎の伸長には,密接な関係があると考えられる.また,ABA処理で発現が増加した,4種のα-エクスパンシン遺伝子は,遺伝子系統樹の中で近縁の位置にあったことから,エクスパンシン遺伝子の類縁関係と中茎伸長との関係を検討する必要がある.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
所属機関の異動に伴って,課題の遂行に必要なスペースの確保,備品,機器類,試薬品類等の入手や電気配線等のインフラがほぼ整備されたため,次年度以降への準備を整えることができた.昨年度,培養中のカビの発生がみられたため,種子消毒剤と使用濃度を変更したが,カビの発生が抑制され,必要とする個体数が得られるなど,実験を効率的に行うことができ,得られる結果の精度を高めることができた.また,ABAとHTT処理により,中茎長の経時変化を調べたところ,ABAでは播種後6日,HTT処理では播種後4日で,急伸長期が異なるなどの成果が得られたので,今後のサンプリング時期の検討に重要な指標になると考えられる.ABAによる中茎伸長作用では,細胞伸長に関わるエクスパンシン遺伝子が深く関与していることが予備実験で明らかとなった.エクスパンシン様遺伝子は,α-エクスパンシン遺伝子,β-エクスパンシン遺伝子,エクスパンシン様遺伝子といった多重ファミリーを構成しているが,α-エクスパンシン遺伝子について着目し,総計33種類の遺伝子の発現解析を行ったところ,発現量が増加したもの,減少したもの,変化しないものなど多様であることが明らかとなった.なお,HTT処理による中茎伸長作用のメカニズムに関しては,既往の研究例が極めて少なく,未知の部分が多い.また, ABAやHTT処理における直播水稲の生育に関しては,既存の研究例も僅少であることから,短い年度では十分な結果が得られないことは,申請時から予想してした.しかし,数種の予備実験により進捗につながる,興味ある実験結果が得られてきているので,次年度にさらに検討を続ける予定である.
|
Strategy for Future Research Activity |
① ABAとHTT処理におけるイネ中茎伸長作用の作用機構: ABA処理における,遺伝子の発現解析を半定量的RT-PCRなどにより行う.前年度でα-エクスパンシン遺伝子が中茎伸長に関わることがわかったので,β-エクスパンシン遺伝子,エクスパンシン様遺伝子についても同様の発現解析を行う.さらに,HHT処理についても,中茎伸長にエクスパンシン遺伝子が関与している可能性が高いので,ABAと同様に3種のファミリーの遺伝子について発現解析を行う.このなかで,特徴的な発現を示した遺伝子に関しては,定量的RT-PCRによる発現解析を試みる.実験の際の注意点であるが,無処理区の中茎長が僅少なので,効率的なサンプリング方法や高純度のRNAの抽出法を考慮に入れながら検討する.② 湿潤高温(HHT)処理での中茎伸長におけるABAとの関連性:ABAとHHTでエクスパンシン遺伝子の発現様式の相違点を調べ,中茎伸長に対して共に増加する遺伝子について着目して解析を行う.また,湿潤高温処理した幼植物のABA含量を,経時的に測定する.また,ABAとHTT処理の関連性をみる場合,次世代シークエンサーやマイクロアレイによる解析など,様々な遺伝子の発現に関する網羅解析が有効と考えられた場合には,それらの手法も視野に入れて実験を遂行する.③ ABAとHTT処理における直播水稲の生育:ABA処理法を種子予措の段階から,再検討すると同時に,モリブデン,酸素発生剤,その他の植物ホルモン等の資材の使用も視野に入れて,処理の安定性を検討する.HTT処理では,出芽に関与する環境条件(土壌型,播種深度,土壌水分など)が,出芽や初期生育に及ぼす影響を検討する.また,本課題で得られた成果を,国内外の学会で発表したり,当該分野の専門家との意見交換を通して,研究推進の加速化をめざす.
|
Causes of Carryover |
平成30年度では,当初,遺伝子発現解析用のPCR解析システム一式を計上していたが,現所属である,秋田県立大学では,PCR解析システムなどの遺伝子解析機器類が十分に整備されていたため,本年度では,まず,所属機関の機器類を使用して,本機器の購入を延期し,そのための費用を節約した.また,申請者が現所属機関で配分された研究費をほぼ全てこの研究課題に研究費が充当したため,試薬品,遺伝子解析キットやガラス器具などの物品に関しても,本科研費での費用を節約することができた.なお,本年度の経費節約により,次年度の研究費を有効に活用し研究を加速化できると考えられる.このようなことから,PCR解析システム一式の経費や遺伝子発現の解析に使用する遺伝子解析キット,消耗品類等の経費を次年度以降に繰り越すこととなった.今年度では,繰り越したPCR解析システム一式の他に,物品費(主に,遺伝子解析キット,サンプル破砕機,植物ホルモン分析用機器類,試薬品・ビーカなどの消耗品),旅費(学会発表,研究調査など)など,本申請課題を推進するために使用を予定している.
|
Research Products
(4 results)