2017 Fiscal Year Research-status Report
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17K07675
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Research Institution | National Agriculture and Food Research Organization |
Principal Investigator |
林 敬子 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 中央農業研究センター 病害研究領域, 上級研究員 (40391437)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
石川 亮 神戸大学, 農学研究科, 助教 (70467687)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | いもち病抵抗性 |
Outline of Annual Research Achievements |
野生イネの染色体置換系統(W45とW43の2系統)が保有する抵抗性遺伝子について、病斑特性の解析に必要な予備試験と材料育成を行った。温室での人工接種試験および圃場試験において、W45系統は、イネの全生育期間にわたり一定数の病斑を形成しつつも強い抵抗性を示した。一方、野生イネ染色体領域が日本晴染色体とのヘテロである系統は、野生イネ染色体のホモ系統より病斑形成が不安定となることから、W45系統が保有する抵抗性の強度は当該遺伝子の発現量と相関があると考えられた。ヘテロ系統の不安定さは、イネの播種時期、栄養状態や感染葉の生育ステージ等の植物自体の生育要因に影響を受ける可能性が示唆された。W45系統が保有する抵抗性遺伝子の座乗領域を限定するため、W45と日本晴のF3交配後代系統を用いた連鎖解析を行った。その結果、抵抗性遺伝子が座乗する候補領域は日本晴の物理距離で900kb程度に限定された。 W43系統をもちいて温室での人工接種試験および圃場試験を行った。当該系統はW45由来の抵抗性遺伝子の座乗領域の一部もしくは全体を欠いた系統の可能性が高い。実際、W43系統はイネの全生育時期においてW45系統に比べ抵抗性の効果は弱かった。しかし、W43系統の兄弟系統を詳細な感染実験に供試したところ、抵抗性の強度に系統間差が確認された。W43系統と日本晴の交配後代系統を作成し、遺伝型と抵抗性の強度の関係を確認したところ、W45由来の抵抗性領域を一部保持している、もしくは、他の染色体領域の影響を受けている可能性があった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本課題は、野生イネの染色体置換系統であるW45とW43由来の抵抗性遺伝子が植物に与える効果を病斑レベルで解析するものであり、両抵抗性遺伝子の基本的な特性把握と詳細解析に資する材料育成が初年度の目標である。抵抗性遺伝子の基本的特性は、親系統を用いた温室での人工接種及び、圃場での自然条件での感染実験により、計画通り次年度以降の解析に必要な基本データを取得した。野生イネ由来であっても抵抗性育種に資する遺伝子であることを確認すると共に、抵抗性育種の利用時に重要となる抵抗性の不安定さが遺伝子の発現量に依存し、植物の生育状況に大きく左右される可能性を確認したことは、今後の実験の推進上重要な知見である。 当初計画では、W45およびW43系統と日本晴の交配後代から連鎖解析を行いつつ、今後の解析に利用可能な系統を作成する予定であった。しかしながら、29年度夏の関東地方の天候不順により、交配後代系統の種子が確保できず、連鎖解析が予定ほど進んでいない。W45系統由来の抵抗性遺伝子は、少量の種子でも抵抗性検定を行えたことから、座乗領域の解析の一部を進めることができた。一方、W43系統由来の抵抗性は、親系統であっても温室での人工接種試験での判別が困難なことから、昨年度の夏に採種した少量の種子では解析を進めるのに不十分であり、計画通りに進んでいない。また、W43系統由来の兄弟系統に抵抗性強度のバラツキが見られたことから、詳細な系統作成が必要となった。更に、病斑の詳細な解析を行うには一定量以上の種子が必要であるが、29年度の天候状況下では、W45とW43の交配後代系統共に充分な種子を取得できなかった。W43系統を中心とした解析材料系統の育成の遅れが、進捗状況の評価を上記のように判断した理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
W45系統由来の抵抗性は、W43由来の抵抗性より早く遺伝子の座乗領域を狭められたことで、詳細な病斑特性解析に利用する系統作成が可能となった。30年度は、遺伝子の座乗領域が小さい数系統を選抜し、種子増殖を行う。充分な種子を確保した秋口以降から、順次増殖した種子を用いて解析を行う。病斑の特性解析では、29年度の試験において見いだされた、抵抗性の不安定さの要因(抵抗性遺伝子の発現量と植物の生育状況)に着目しつつ当初計画の手法を用いた解析を進める。 W43系統の抵抗性に関しては、29年度のF3系統のヘテロ領域を排除できていないことが、抵抗性判別を困難にしている一要因と考えた。これはヘテロな抵抗性領域を持つW45系統の病斑解析結果からも支持される。そこで、W43系統の抵抗性に関しては、29年度に取得した交配後代系統のうち代表的な数系統について、野生イネ領域をホモ化した次世代の種子を取得する。これらの系統は、親系統(W43系統)より短く断片化された野生イネの染色体置換系統となる。秋口以降に種子が取得できることから、増殖系統を用いて座乗位置の解析等を行う。解析系統数が減るため、当初の計画ほど抵抗性遺伝子の座乗領域を狭めることはできないが、抵抗性遺伝子のホモ領域を持つ系統の種子を充分量取得することで、W43系統由来の抵抗性の特性解析や、W45系統と組み合わせた特性評価に利用する。
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Causes of Carryover |
系統育成の遅れにより次世代シークエンス解析の外注費用と学会発表の出張費の支出が行われなかったため残額が生じた。次年度使用額 599,562円は、次年度に申請する金額と併せて研究計画遂行のために使用する。
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