2018 Fiscal Year Research-status Report
食品イソチオシアネート化合物による骨格筋の機能的・量的維持に対する有効性解析
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17K07787
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
伊藤 芳明 岩手大学, 農学部, 准教授 (50312517)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | イソチオシアネート / シグナル応答 / 糖代謝 / 骨格筋 / 筋萎縮 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、アブラナ科野菜の食材に含まれるイソチオシアネート化合物の健康有益性の評価研究として、最大の糖消費器官であり、運動などの活動を支える重要器官でもある骨格筋の機能維持に対する効果と作用機序を明らかにすることを目的としている。今年度は、主に骨格筋モデル細胞であるマウスC2C12 細胞を用いて、西洋わさびやクレソン等に含まれるphenethyl isothiocyanate (PEITC)の効果として下記のような結果を得た。 1.PEITC のインスリン様作用評価とその作用発現機序の解析 昨年度までにPEITC刺激による糖取り込み活性に関わる細胞内シグナル分子として、Aktの関与が明らかとなったが、イソチオシアネート化合物の刺激で活性化が認められるNrf2系の活性化が関与するのかが明らかでなかった。Nrf2の活性化がミトコンドリア機能の亢進を誘導するとの報告もあることから、PEITCの作用がミトコンドリアでのエネルギー代謝活性の変化を介したものである可能性を検討したが、阻害剤の検討からその関与は今回の条件では低いとの結論を得た。 2.骨格筋の維持・分解抑制に対するPEITCの有効性評価とその機序の解析 これまでの検討から、PEITC添加によりC2C12細胞でタンパク質分解が抑制される可能性が見出されたが、Aktをはじめとするシグナル分子の関与などのメカニズムは不明であった。阻害剤を用いた検討から、Aktの活性化が糖取り込み活性と同様、タンパク質分解抑制活性にも寄与していることが明らかとなった。また、動物個体での有効性を尾部懸垂モデルを用いて行った結果、PEITC摂取によりNrf2の活性化応答は見られたが、分解抑制効果は十分ではなかった。その要因としては、PEITC投与量が懸垂による分解誘導強度に対応していなかった可能性が考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
PEITCのインスリン様作用評価に関しては主にNrf2系活性の関与の有無について検討し、骨格筋の維持・分解抑制については、シグナル分子の機能解析を中心に実施する計画であった。前者については、一般にPEITCはNrf2系を活性化することでも知られており、さらにAktはNrf2系の活性化に寄与していること、またNrf2系がエネルギー代謝の活性化にも寄与している可能性も報告されている。このことから、PEITCはAktを活性化することでNrf2系の活性に影響を与え、エネルギー代謝の変化を介している可能性が考えられた。そこでAktを阻害したときのNrf2系の活性化に与える影響を検討したところ、Aktの阻害でNrf2系の下流因子の発現に大きな影響がなかった。また、PEITC刺激時のミトコンドリアマーカーの発現変化にも今回の条件では顕著な差は認めなかった。以上から、Nrf2の関与は低いことを明らかにすることができ、計画に準じた結論を得ることができた。一方、後者についてもAktの活性化がタンパク質分解抑制の作用発現に重要であるとの知見を得ることができたことから、期待する結果を得たと言える。また、新たに上流の制御因子としてある種の生体リガンドの受容体の活性化を介している可能性を示唆する結果も得ることができたが、今後詳細に検討していく必要があると考えている。生体での評価では、尾部懸垂ラットを用いて筋萎縮抑制効果の有無について検討したが、懸垂時の筋分解誘導が強いためか、若干抑制する傾向は見られたものの十分ではなかった。PEITCの摂取とのバランスなどを含め、次年度に考慮すべき点などを明らかにすることができた。以上から、こちらの課題についても概ね順調であると評価できると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成31年度、令和元年度における研究方針は次のように考えている。 1.PEITC のインスリン様作用評価とその作用発現機序の解析 概ね予定していた計画は遂行できたと考えているので、本年度については中心課題を筋萎縮抑制機能におき遂行する方針とする。Aktの活性化を誘導するメカニズムについて不明な点が残されているが、その機序は糖代謝促進効果でも筋萎縮抑制効果でも類似である可能性がこれまでの検討から想定される。そのため、まだ途上にある筋萎縮抑制機能解析を中心に解析することで糖利用促進効果についても作用機序の解析に繋がると考えられる。 2.骨格筋の維持・分解抑制に対するPEITCの有効性評価とその機序の解析 細胞レベルでの作用機序の解析については、PEITCで刺激した際にAktの活性化に寄与すると想定されるレセプター系の活性化状況およびその生体リガンドでの筋分解抑制効果を検証していく。さらにタンパク質分解系として、オートファジーやユビキチン系の関与などのメカニズム解析が不十分であることから、その点を詳細に検討する。 一方、生体での有効性評価に関しては、尾部懸垂モデルを用いた不動化による筋萎縮モデルにおいて、より高含有のPEITC混餌食等を摂取させたときの骨格筋萎縮に対する効果を3-メチルヒスチジンなどの分解指標の変化、ユビキチンやオートファジーなどの分解系の動態等の指標を用いて評価していく。さらに懸垂時での抑制効果に加え、再接地後の筋量回復期に及ぼす効果についても検討加えることで、PEITCを摂取することにより筋分解時の炎症等の軽減により回復促進効果が見られないかを評価していく。
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Research Products
(3 results)