2019 Fiscal Year Research-status Report
rDNAエピゲノムを調節する新たな栄養素同定とそれによるリボソーム制御の解析
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17K07798
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Research Institution | Takasaki University of Health and Welfare |
Principal Investigator |
田中 祐司 高崎健康福祉大学, 薬学部, 講師 (90453422)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | リボソームRNA転写 / 栄養素 / ニュートリエピゲノム / KDM2A / ヒストン脱メチル化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、まず前年度の解析結果からメトホルミンによるMCF-7の細胞増殖抑制効果を変化させる化合物候補として、コハク酸が同定されていた。解析の結果、メトホルミンによる細胞増殖抑制では、rDNAエピゲノム制御を通じてリボソームRNA(rRNA)転写抑制が誘導され、そこにはKDM2Aによる活性が必要であること、メトホルミン処理によって比較的短時間では、コハク酸量の低下が誘導されること、このコハク酸量低下がKDM2A活性の誘導の一端を担うことが明らかとなった。この研究成果は、メトホルミンの作用発揮に代謝産物量変動が作用する可能性を示唆している。この結果をまとめ論文として発表した(Tanaka et. al., Sci Rep. 2019 Dec 10;9(1):18694)。 次に、前年度までに同定した、KDM2A活性を制御しうる別の栄養成分(候補化合物)についての解析を進めた。前年度までに、候補化合物の一つ、没食子酸とその誘導体が、KDM2A依存的にMCF-7細胞の増殖を抑制する事を見出していたことから、本年度は没食子酸によるKDM2A活性の調節機構を解析した。 その結果、没食子酸処理は、AMPKを活性化でき、AMPK活性を通じてKDM2Aによる、リボソームDNA(rDNA)プロモーター上のH3K36me2脱メチル化やrRNA転写抑制が誘導される事が明らかとなった。つまり、これまでに観察してきたメトホルミンや飢餓処理と同様の働きを没食子酸が誘導できる事を示唆している。一方、他の報告からがん細胞への没食子酸処理では活性酸素種が発生し、抗がん活性に関与するという報告があることから、KDM2A制御への関連を調べたところ、没食子酸によるKDM2A活性の誘導は抗酸化剤処理で抑制された。つまり、没食子酸によるKDM2A制御に活性酸素種が関与する可能性が明らかになりつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画のうち、およそ120種類の栄養関連化合物を含むライブラリーから、MCF-7細胞の増殖を変化させるもの、この変化がKDM2A依存的に誘導されるもの、メトホルミンによるMCF-7細胞増殖減少を変化させるものをスクリーニングし、その結果、計20種類の栄養関連化合物に上記いずれかの活性がある事が分かった。そして、これらの化合物のうち、少なくとも4種類(コハク酸、αKG、没食子酸、没食子酸プロピル)については、KDM2A依存的な活性であるrDNAプロモ―ターのH3K36me2脱メチル化、rRNA転写抑制誘導を変えうることが分かった。 そこで、没食子酸によるKDM2A制御機構の解析を進めたところ、没食子酸は特定の処理濃度でAMPKの活性化を誘導でき、そのAMPK活性がKDM2A依存的なrDNAプロモ―ターのH3K36me2脱メチル化、rRNA転写抑制誘導に必要であった。よってこの没食子酸処理は、飢餓やメトホルミンに類似した機能を発揮できる可能性が示唆される。次に、他の報告でがん細胞への没食子酸処理では活性酸素種が発生し、抗がん活性に関与するという報告があることから、KDM2A制御への関連を調べた。その結果、MCF-7細胞への没食子酸処理では、活性酸素種が発生することを確認した。また、没食子酸処理で誘導されるKDM2A活性は、グルタチオンやNアセチルシステインといった抗酸化剤の併用処理で抑制されることが分かった。この結果は、没食子酸処理で生じる活性酸素種の発生がrDNAエピゲノムの調節にかかわる事、KDM2Aのヒストン脱メチル化活性制御に活性酸素種が影響する事を示唆している。 ここで予定していた研究期間が終了してしまったため、以上の結果をまとめるために研究期間の延長を行い没食子酸によるKDM2A解析機構を明らかにすることとした。
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Strategy for Future Research Activity |
基本的に前述の没食子酸によるKDM2Aの調節機構を明らかにする研究を進展させるが、得られた結果の判断により実験を柔軟に変更する。論文発表の準備と詳細データの取得を主に行う。また、MCF-7細胞への没食子酸処理により、KDM2A依存的に増殖が抑制されることは明らかになったが、がん以外の細胞への影響を測定する事が、抗がん剤への応用に有用と考えており、この点の解析を非乳がん細胞モデルであるMCF-10細胞を用いて解析することを検討している。 一方、研究計画中に化合物を、rRNA転写量・タンパク質合成能を指標にしたスクリーニングの解析系を構築する計画であったが、現時点で十分な感度が得られる実験系を構築できていない。結局、細胞増殖による解析から候補を絞り、一つずつrRNA転写やrDNAエピゲノムへの影響を解析する手段をとることとなった。研究テーマの目的は達成できるものの、時間がかかるので研究計画期間の間は改善していきたい。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由として、候補栄養素によるタンパク質合成能の検討(新合成タンパク質合成能測定)を行う事を予定していたが、スクリーニング系の構築で十分な感度を得られなかったため、スクリーニング系の構築を中断することとした為、キットなどの購入費用が残った為である。 研究上は、ライブラリー化合物のうち増殖抑制に寄与するものは合計で20種類程度同定できたので、個々に解析試薬などを購入して解析を進めていくこととした。現在までに、候補化合物の一つである没食子酸によるKDM2Aの制御機構を解析してきたが、当初の研究計画にない新しい解析(活性酸素種の測定や解析や、非乳がん細胞であるMCF10A細胞での解析)が必要となった。次年度使用額はこれらの解析とその論文投稿等費用に充てることを計画している。
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Research Products
(5 results)