2017 Fiscal Year Research-status Report
腸管のオレオイルエタノールアミドによる食欲抑制機構と生活習慣病予防に関する研究
Project/Area Number |
17K07809
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
五十嵐 美樹 国立研究開発法人理化学研究所, 統合生命医科学研究センター, 研究員 (70340172)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | オレオイルエタノールアミド / オレイン酸 / 摂食行動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、腸管で食事由来のオレイン酸から生合成される食欲抑制物質といわれるOEAに注目し、その生成経路や作用機序を解明するとともに、生活習慣病予防への有用性を確認することを目的としている。平成29年度に得られた結果について以下に述べる。
1.OEAシグナルが抑制された腸管の栄養素感知能力と摂食行動:高脂肪食あるいは通常食を短期間摂取させて腸管のOEAシグナルを抑制したマウスの十二指腸に栄養素を直接投与した後の1時間の摂食量を観察した。通常食を与えた対照群では、脂質または糖質の投与に反応して摂食量の低下が観察された。一方で、高脂肪食を与えたマウスでは、脂質投与に対する摂取量低下は通常食の場合と変わらず観察されたが、糖質投与後の摂食量の低下は観察されなくなった。この結果は、高脂肪食摂取により腸管の糖質に対する感知能力が低下したことを示唆する。 2.腸管のOEAシグナルと摂食行動における食事オレイン酸の重要性:食事由来のオレイン酸が腸管のOEAの前駆体であることが知られている。そこで、低オレイン酸食をマウスに15週間摂食させたところ、オレイン酸含有食に比べて腸管のOEAの低下が観察された。飼育中の体重変化が両群間で観察されなかったものの、低オレイン酸食群において自由摂食時の摂食量の増加が観察された。この結果から腸管のOEAレベルの低下と摂食量に関係があると考えられた。さらに、ヒト結腸癌由来培養細胞株Caco-2を用いた細胞実験を行い、Caco-2においても培地中のオレイン酸を前駆体として細胞内のOEAが生合成されていることを明らかにすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度は、準備状況の都合上実施した実験が当初の実験計画と比べ前後したが、全体としては順調に進んでいる。特に、培養細胞を用いてOEAの生合成経路を解明することを目的とした研究に関しては、同時に進行している他の研究課題で得られた結果と合わせて論文投稿準備中である。また、当初平成29年度に実行予定としていた胆汁酸に関する動物実験に関しては、胆汁酸のLCMSでの分析系の確立および特別食の準備までは完了しており、平成30年度に開始する予定である。以上のとおり、おおむね計画通りに研究が進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は、腸管のインスリンシグナルの欠損や胆汁酸がOEAシグナルと摂食行動に与える影響を解析するため、細胞実験及び動物実験を実施する予定である。 細胞実験に関しては、すでにCaco-2を用いてインスリンレセプター欠損株の作成を開始しており、候補株が10株ほど作成できている。動物実験に関しては、インスリンレセプター欠損マウスを用いる動物実験を行う予定であるが、所属研究機関の変更に伴い使用したいマウスの購入や繁殖が順調に行えない可能性がある。その場合、平成30年度と平成31年度にかけて実行するものとし、野生型を用いた胆汁酸に関する動物実験を先に行うこととする。また、オレイン酸の摂取の低下で摂食量が増加するという大変興味深い結果を得ることに成功したため、上記に加えて詳細な摂食行動の観察やそのメカニズムの解明も行っていく予定である。
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Causes of Carryover |
準備状況の都合上実施した実験が当初の実験計画と比べ前後したため次年度使用額が生じ、H30年度分の予算と合わせてH30年度に実施を予定している動物実験と細胞実験に使用する。
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