2019 Fiscal Year Research-status Report
X線・中性子小角散乱による植物性食品タンパク質構造解析の新展開
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17K07816
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
佐藤 信浩 京都大学, 複合原子力科学研究所, 助教 (10303918)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | SAXS / 大豆タンパク質 / グリシニン / β-コングリシニン / 熱変性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、X線小角散乱法(SAXS)や中性子小角散乱法(SANS)を用いて、小麦や大豆など植物性食品タンパク質の凝集体やゲルのナノ構造解析を行い、分子の集合状態や凝集体の内部構造を解明することを目的としている。 令和元年度は、大豆タンパク質β-コングリシニンおよびグリシニンについて、リン酸カリウム緩衝剤および塩化ナトリウムの添加条件の相違にもとづく水溶液中での分子会合状態の変化と熱変性に伴う構造変化の温度依存性をSAXSを用いて調べた。その結果、β-コングリシニンおよびグリシニンともに、純水中においては解離状態にある単量体サブユニットが、35mM pH7.5のリン酸カリウム緩衝溶液中では環状の3量体を形成しさらにそれらが重なり合った6量体構造を形成することが確認された。さらに、塩化ナトリウムを加えるとβ-コングリシニンについてのみ重なり合った2量体が解離し、単独の環状3量体構造へと変化することがわかった。 一方、両タンパク質のリン酸カリウム緩衝溶液を一定温度に加熱しSAXS測定を行うことによって構造変化の温度依存性を調べたところ、塩化ナトリウムを添加していないときには60℃付近から熱変性が始まり80℃以上で3量体環状構造が完全に消失することが明らかになるとともに、塩化ナトリウムを添加することにより熱変性の生じる温度は上昇し、グリシニンについては90℃付近まで3量体環状構造が維持されることがわかった。このことから、塩化ナトリウムの存在が3量体環状構造を安定化させ、より高温まで熱変性を抑制する効果があることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成29年度および30年度は、SAXSを用いて、小麦タンパク質および大豆タンパク質の水溶液や水和凝集体に対して塩化ナトリウムが誘起するナノ構造変化を明らかにするとともに、小麦タンパク質水和凝集体に対して塩化ナトリウム以外の塩がもたらす構造変化の相違について解明しレオロジー特性の変化と関連付けることができた。一方、コントラスト変調SANS測定に関しては、必要となる小麦タンパク質グリアジンの重水素化物の試料量が十分に得られず、重水による小麦の水耕栽培の最適化に時間を要したため、当初の予定通りSANS測定を行うことができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画として、小麦タンパク質グリアジンとグルテニンの複合体からなるグルテンの構造を解明するためコントラスト変調SANS測定を行うことを目的としていたが、上述の通り、重水素化試料の量を必要量確保することができなかった。現在、重水による小麦の水耕栽培の最適化実験を行っており、十分な量の重水素化グリアジンを得たのち、コントラスト変調SANS測定を行い、グルテン中のグリアジンの凝集構造を解明する予定である。 一方、大豆タンパク質についても、大腸菌発現系によるリコンビナントタンパク質を用いた重水素化グリシニンまたはβ-コングリシニンを合成し、これを利用したコントラスト変調SANS測定によりグリシニンーβ-コングリシニンが形成する会合体の構造解析を実施する予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染対策のために予定していた学会の開催が中止された。そのため、支出を予定した旅費相当額を使用しないこととなり、次年度にしようすることとした。 当該理由による期間延長申請が承認されたため、2020年度において消耗品の購入に使用する予定である。
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