2017 Fiscal Year Research-status Report
刈り出ししない刈り払い「筋残し刈り」を用いた省力的天然更新作業の開発
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17K07831
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
國崎 貴嗣 岩手大学, 農学部, 准教授 (00292178)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 筋残し刈り / 天然更新作業体系 / 高木性樹種 / 森林科学 |
Outline of Annual Research Achievements |
筋残し刈り終了後の初期保育(つる切り,除伐)作業体系を設計するため,筋残し完了後に放置された林齢8,9,20年生の天然更新林分における生活型組成と林分構造を調査した。前林分がアカマツ高齢天然生林だった林齢20年生の天然更新林は,斜面上部でアカマツが最も優占し,広葉樹を含めた高木幹数割合は62%であった。これに対し,斜面下部では小高木や低木が優占し,広葉樹を含めた高木幹数割合は38%と低かった。前林分が広葉樹高齢天然生林だった林齢8,9年生の天然更新林における高木幹数割合はそれぞれ74,64%と高かった。これらのことから,更新適地であれば,皆伐または残伐と天然更新を組み合わせた粗放的な育林方式であっても,高木性樹種が優占可能であることを確認できた。林齢20年生の林分では被圧されたアカマツも散見され,除伐が必要である。これに対し,林齢8,9年生の林分ではつるの巻きついた林木が目立つことから,筋残し完了後だけでなく,それ以前からつる切りを実施しておくことが重要と考えられる。 前林分が広葉樹高齢天然生林だった林齢6年生の天然更新林を調査したところ,高木幹数割合は50%であり,先に調査した林齢8,9,20年生林分よりも割合がやや低かった。そして,この6年生林分でも林木へのつるの巻きつきが目立ったことから,刈り払い筋を歩道代わりに移動しながら,剪定ばさみでつるを地上高1m以下で切除した。加えて,主要な高木種であるクリを被圧するクマイチゴの幹も地上高1m以下で切除した。 前林分がアカマツ高齢天然生林だった林齢3年生の天然更新林分における生活型組成と林分構造を調査した。高木幹数割合は33%と先に調査した林齢6,8,9,20年生林分よりも低いものの,樹高0.3m以上の高木幹はha当たり4万本と多く,今後の筋残しやつる切りにより,高木幹数割合を高められる可能性を確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究項目1(筋残し刈り完了後に放置された林分の調査による初期保育作業体系の設計)については,予定した調査のうち,樹幹解析を実施しなかった。林分構造を調査した結果,胸高直径と樹高の関係が林分間で分離せず,同様の成長をしており,各林分の林齢の違いから平均樹高成長量を説明できるためである。樹幹解析以外の調査については予定通り実施しており,おおむね順調に進展している。 研究項目2(筋残し刈り実施後の幼齢林分の動態解明)については,予定通り,初年度の林分調査をおこなうとともに,つる切り処理をした残し筋と対照の残し筋を設定した。予定通り順調に進展している。 研究項目3(筋残し刈りが初期遷移に及ぼす影響の解明)については,林齢2,3,4年生の林分ではなく,林齢1年生のササ優占型林床の林分と,林齢3年生の木本優占型林床の林分の計2林分で林分調査した。現在,林齢2年生のササ優占型林床の林分において,次年度から筋残し刈りが実施されるため,この林分の調査を翌年度(の筋残し刈り実施後)に先送りした。そのため,計画的先送りとは言え,わずかに遅れている。 物品購入や資料・情報収集にかかる出張については計画通りに実施した。また,データ解析および論文執筆については二報分を遂行した(現在,審査中)。 以上を総合すると,平成29年度には,おおむね順調に研究が進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
研究項目1(筋残し刈り完了後に放置された林分の調査による初期保育作業体系の設計)については,平成29年度までに調査したデータを取りまとめ,論文を一報執筆する。 研究項目2(筋残し刈り実施後の幼齢林分の動態解明)については,平成29年度に設定した3つ(林齢7,9,10年生林分)の調査区を再測するとともに,つるやクマイチゴの再生・新規加入状況を調査する。加えて,つるやクマイチゴ等の切除にかかる切除頻度や作業時間を記録する。これらは研究実施計画と同じ調査項目である。 研究項目3(筋残し刈りが初期遷移に及ぼす影響の解明)については,平成30年度に先送りした林齢3年生林分の調査を新規に実施するとともに,平成29年度に設定した2つ(林齢2,5年生林分)の調査区を再測する。これらは研究実施計画とおおむね同じ調査項目である。 上記の調査のため,研究実施計画どおりに消耗品を購入するとともに,資料・情報収集にかかる出張を実施する。また,平成29,30年度の2年間の中間評価として,平成30年10月頃までに収集したデータについて図表を作成し,統計解析した上でレポートを作成する。
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Causes of Carryover |
平成30年度に使用する予定の研究費が生じたのは,研究項目3(筋残し刈りが初期遷移に及ぼす影響の解明)にかかり,平成29年度に林齢2年生であったササ優占型林床の林分の調査を翌年度(の筋残し刈り実施後)に先送りし,この調査に要する消耗品代が未使用になったたためである。 平成30年度の助成金32万4,123円(間接経費6万円含む)については,物品費16万円,旅費10万円,間接経費6万円を目安に使用する。物品費16万円については,今年度に先送りした新規調査区設定と調査,および研究実施計画で予定している設定済みの調査区の再測に必要な消耗品の購入に充てる。旅費10万円については,東北森林科学会大会(秋田市)参加に2万5千円,日本森林学会大会(新潟市)参加に7万5千円を充てる。
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