2018 Fiscal Year Research-status Report
刈り出ししない刈り払い「筋残し刈り」を用いた省力的天然更新作業の開発
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17K07831
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
國崎 貴嗣 岩手大学, 農学部, 准教授 (00292178)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 筋残し刈り / 天然更新作業体系 / 高木性樹種 / 森林科学 |
Outline of Annual Research Achievements |
筋残し刈り完了後に放置された林齢20年生の天然更新林分における樹種組成と林分構造を調査した。前林分がアカマツ高齢天然生林だった皆伐跡地に成立した再生植生に対し,林齢5年生から10年生時にアカマツを目的樹種として筋刈りを実施した(筋刈り部分の隣接部には筋残し部分が存在する)。この筋刈り区と対照区(無処理区)を林齢20年生時に比較すると,斜面上部の筋刈り区ではアカマツが上層(樹高4m以上の層)で6千本/haと顕著に優占したものの,斜面上部の対照区や斜面下部の両区では上層を占める高木性樹種が2千本/ha前後と少なかった。このことから,目的樹種を複数にするとともに,成長が旺盛な斜面下部では筋残し刈りに加え,残したい高木に対して坪刈りを実施することも必要と考えられる。 また,前林分がコナラ等の広葉樹高齢天然生林だった残伐地(母樹を50本/ha前後残した伐採地)に成立した再生植生に対し,林齢1年生から6-8年生時まで筋残し刈りを毎年実施した。林齢6,8,9年生林分に侵入した高木性広葉樹には鳥散布型種子を有する樹種が多かった。一方,母樹を多く残したクリとコナラの侵入木密度は対照的で,クリ幹はいずれの林分でも250本/ha以上生立していたものの,コナラ幹は33本/ha以下と極めて少なかった。この両種の母樹本数は同一であるため,コナラでは散布制限または定着制限が生じていると考えられる。 さらに,前林分がアカマツ高齢天然生林だった残伐地に筋残し刈りを林齢3年生時から毎年実施した。この調査地を林齢3年生時と5年生時で比較したところ,高木幹数はそれぞれ36千本/ha,34千本/haと同程度であった。このことから,筋残し刈りにより高木性樹種の生存率を高く維持できる可能性が考えられる。ただ,刈り払い筋からのつる植物の繁茂が著しい箇所もあり,毎年のつる切りが必要と考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度末に論文を執筆する予定だった研究項目1(筋残し刈り完了後に放置された林分の調査による初期保育作業体系の設計)について,平成30年度中に論文2報を執筆した。このため,研究項目1については年度当初にやや遅れていた状態を解消し,年度末ではおおむね順調に進展している。 研究項目2(筋残し刈り実施後の幼齢林分の動態解明)については,前林分がコナラ等の広葉樹高齢天然生林だった残伐地のうち,林齢7年生林分に初期保育(処理としてのつる切り)を実施するとともに,つる切り区と対照区の林分調査を実施した。また,林齢9,10年生林分も予定通り再測した。このため,研究項目2は順調に進展している。 研究項目3(筋残し刈りが初期遷移に及ぼす影響の解明)については,前林分がアカマツ高齢天然生林だった残伐地における林齢5年生時の調査で,2平方m調査枠をさらに30個増やして計60個とした。これにより,母樹からの距離が遠い斜面中部において高木幹数が少なく,小高木・低木との競合が激しいため,残し筋への坪刈りが必要であることを定量的に把握できた。これは初期保育作業体系の設計に関する重要な知見であり,研究項目3は順調に進展している。 物品購入や資料収集にかかる出張については計画通りに実施した。ただし,当初学会発表する予定であった130回日本森林学会大会(新潟市)の開催日程が勤務する大学の卒業式(学位記授与式や前日の準備日)と重複するため,止むを得ず発表申込を断念した。 以上を総合すると,平成30年度にはおおむね順調に研究が進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
研究項目1(筋残し刈り完了後に放置された林分の調査による初期保育作業体系の設計)について,前林分がコナラ等の広葉樹高齢天然生林だった残伐地のうち,林齢10,11年生広葉樹林を引き続き再測し,コナラの幹数が少ない理由を解明するとともに,目的樹種を確保するための初期保育作業体系を明らかにする。 研究項目2(筋残し刈り実施後の幼齢林分の動態解明)については,前林分がコナラ等の広葉樹高齢天然生林だった残伐地のうち,林齢8年生広葉樹林を引き続き再測するとともに,新規に林齢5,6,7年生広葉樹林も調査し,局所的な樹種組成の違いや各樹種の生存率の違い,つる植物の繁茂状況を明らかにする。 研究項目3(筋残し刈りが初期遷移に及ぼす影響の解明)については,前林分がアカマツ高齢天然生林だった残伐地(林齢6年生広葉樹林)を対象に,その斜面上,中,下部に坪刈り区と対照区を設置し,坪刈りの有無が樹種組成や高木の樹高成長に及ぼす影響を調査する。 上記の調査のために,研究実施計画どおりに消耗品を購入する。また,平成29年度からの3年間の研究実施状況を精査するため,3年間に収集した全てのデータについて図表を作成し,統計解析をおこなう。これを踏まえて,学会発表(131回日本森林学会大会)にかかる出張を実施する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額775円が生じたのは,平成30年度に必要な支出をすべておこなった時点で残額775円と少額であり,追加で購入できる調査用消耗品が限定されると考えたためである。加えて,令和元年度に配分される見込みの物品費10万円と合わせ,調査消耗品を購入する方が,研究計画遂行上,効果的と考えたためである。 令和元年度の助成金26万775円(間接経費6万円含む)については,物品費10万円,旅費10万円,間接経費6万円を目安に使用する。旅費10万円については131回日本森林学会大会(名古屋市)参加に充てる予定である。
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