2017 Fiscal Year Research-status Report
Mutualistic networks among dwarf shrubs of the family Ericaceae, pollinators, and seed dispersers in an alpine region
Project/Area Number |
17K07849
|
Research Institution | Nagano University |
Principal Investigator |
高橋 一秋 長野大学, 環境ツーリズム学部, 准教授 (10401184)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | ツキノワグマ / マルハナバチ / ガンコウラン / クロマメノキ / 地球温暖化 |
Outline of Annual Research Achievements |
浅間山(標高2,568m)に自生するツツジ科小低木4樹種(ガンコウラン、クロマメノキ、シラタマノキ、コケモモ)の果実を利用する哺乳類・鳥類とその垂直分布を把握した。4年間で計38台の自動撮影カメラを設置した結果、8種514個体の哺乳類と13種125個体の鳥類が撮影された。森林限界(標高1,670m)から最も高い標高で確認された地点までの標高差は、カモシカの700mが最も大きく、次いでキツネ・ツグミの500m、ニホンジカ・ハシブトガラスの400m、ツキノワグマの200m、イノシシ・ノウサギの100m、テンの50m、タヌキ・アカハラ・キジバト・シジュウカラ・シロハラの0mの順であった。そのうち、果実利用が確認された哺乳類は6種58個体、鳥類は2種8個体であった。その個体数はツキノワグマ24個体で最も多く、次いでニホンジカ13個体、ノウサギ13個体、ハシブトガラス7個体、カモシカ4個体、イノシシ2個体、キツネ2個体、ツグミ1個体の順であった。ガンコウランの果実は全ての動物種が利用していたが、クロマメノキの果実はツキノワグマ・ニホンジカ・ノウサギのみ、シラタマノキの果実はキツネのみであった。 仮説「4樹種のうちガンコウランの果実が最も種子(コスト)が小さく、最も栄養価(ベネフィット)が高いため、クマはガンコウランの果実を選ぶ」を検証するために、浅間山で採取した果実・種子の短径・長径、湿重量・乾重量を計測し、その栄養成分(粗たんぱく質・粗脂肪・粗繊維・粗灰分・可溶無窒素物・総アスコルビン酸・糖度・ポリフェノール)を分析した。単位コスト当たりのベネフィット(果肉の湿重量/種子の湿重量)は、4樹種の中でガンコウランが最も低い値を示した。栄養成分については、粗たんぱく質・可溶無窒素物・総アスコルビン酸・糖度の4項目でガンコウランの果実が最も低い値を示した。仮説を支持する結果は得られなかった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は浅間山(軽井沢町)をフィールドに、ツツジ科・小低木(主にガンコウランとクロマメノキ)と、その繁殖に関わる花粉媒介者(主にマルハナバチ)と種子散布者(主にツキノワグマ)の3者をめぐる相利共生ネットワークの全貌を解明すると同時に、気温上昇が高山帯の相利共生ネットワークに与える影響を推測し、将来を予測することを目的とする。 (a)「ガンコウラン・クロマメノキの生育状況の把握」研究では、標高の異なる11つの地点に調査ポイントを1つずつ設置し、4樹種(ガンコウラン、クロマメノキ、シラタマノキ、コケモモ)の生育状況と気温・照度を長期的に把握するためのモニタリング調査を開始できた。各調査ポイントに出現した4樹種の開花・結実時期の特徴を把握できた。しかし、より詳細な調査を行う調査プロット(20m×50m)の設置は来年度に持ち越すことになった。(b)「マルハナバチを中心とする花粉媒介者の特定」研究では、4樹種の花に訪れたマルハナバチを捕虫網で捕獲し、種類の特定ができた。花粉分析を予定していたが、花粉団子を足につけている個体が少なく、実施できなかった。(c)「ツキノワグマを中心とする種子散布者の特定」研究では、自動撮影カメラを各調査ポイントに設置し、哺乳類と鳥類による果実利用を把握するモニタリング調査を開始できた。踏査による哺乳類の糞の採取と、人工とまり木付き種子トラップを用いた鳥類の糞の採取を実施できた。(d)「ツキノワグマによる種子散布の有効性の把握」研究では、種子に含まれる酸素安定同位体比を分析し、動物が種子を運んだ標高差を推定するために、小型種子(1mm)に適した新たな手法を検討し、分析用の種子を採取できた。果実の栄養分析を実施し、クマの選好性を把握できた。(e)「相利共生ネットワークの全貌把握」研究と(f)「変容シナリオの構築」研究では、調査を通じて有効な情報が得られた。
|
Strategy for Future Research Activity |
(a)「ガンコウラン・クロマメノキの生育状況の把握」研究では、平成29年度に得られた調査データ(4樹種〔ガンコウラン、クロマメノキ、シラタマノキ、コケモモ〕の各標高における分布状況など)を参考にし、平成30年度は標高の異なる6つの地点に調査プロット(20m×50m)を設置するとともに、4樹種の生育状況、開花・結実、花粉媒介・種子散布、種子の発芽による実生更新の状況を把握するためのモニタリング調査を開始する。(b)「マルハナバチを中心とする花粉媒介者の特定」研究では、花の構造(花粉や蜜)の分析、マルハナバチの足についている花粉団子の分析、花の袋掛け実験による結実率の把握などを実施し、有効な花粉媒介者を特定する手法を確立する。(c)「ツキノワグマを中心とする種子散布者の特定」研究では、高山帯の気象(特に、強風)に耐えられる人工とまり木付き種子トラップを開発し、調査の効率や精度を向上させる。(d)「ツキノワグマによる種子散布の有効性の把握」研究では、種子に含まれる酸素安定同位体比の分析手法を確立し、平成29年度に採取した種子の分析を開始する。また、自動撮影カメラ、クマに装着したGPS首輪、種子の体内滞留時間のデータを組み合せて水平方向の種子散布距離を推定する方法を確立するために、まずは、クマを捕獲し、GPS首輪の装着を試みる。(e)「相利共生ネットワークの全貌把握」研究と(f)「変容シナリオの構築」研究では、(a)~(d)の調査から得られたデータをもとに、統合と検討を開始する。
|
Causes of Carryover |
理由)論文複写の費用が予想より安価で済んだため、支出ができなかったことが理由である。 使用計画)論文複写の費用と参考図書の購入費として使用する予定である。
|
Research Products
(3 results)