2019 Fiscal Year Research-status Report
Mutualistic networks among dwarf shrubs of the family Ericaceae, pollinators, and seed dispersers in an alpine region
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17K07849
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Research Institution | Nagano University |
Principal Investigator |
高橋 一秋 長野大学, 環境ツーリズム学部, 教授 (10401184)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ツキノワグマ / 果実利用 / 種子散布距離 / 酸素安定同位体 / ガンコウラン / シラタマノキ / クロマメノキ / 高山帯 |
Outline of Annual Research Achievements |
ツツジ科小低木(ガンコウラン・クロマメノキ・シラタマノキ・コケモモ)の果実を採食し、種子を運搬する哺乳類・鳥類の現状を把握した。調査は浅間山(標高2568m)の高山帯で2017年7月~2019年11月まで行った。標高1400m~2370mの間を標高差50m~100m間隔で区切って、計15か所の調査地点を配置し、7月~11月に自動撮影カメラと種子トラップを2個ずつ設置した。また同期間に、標高差970m×幅100mのトランセクトの中を月に1回踏査し、偶蹄目を除く哺乳類の糞を採集して内容物を分析した。果実の採食行動が確認され、かつ糞から種子が検出された樹種はガンコウランとシラタマノキであった。すなわち、果実食者かつ種子運搬者は、ガンコウランではツキノワグマ・キツネ・ノウサギ・ハシブトガラス、シラタマノキではキツネのみであった。果実の採食行動のみが確認された樹種はガンコウランとクロマメノキであり、ガンコウランではキジバト、クロマメノキではツグミ・ヤマドリが果実食者であった。 また、高山植物であるガンコウランとクロマメノキを対象に、種子の酸素安定同位体比を分析することで、種子がツキノワグマによって高標高へ散布されているかどうかを推定した。 検量線(標高と種子の酸素安定同位体比の関係)はガンコウランでのみ得られた(決定係数0.48)。ガンコウラン種子を含んだクマの糞は20個採集された。各糞からランダムに種子を1個ずつ(計23個)選び出し、酸素安定同位体比を分析した。その値を検量線に当てはめて、その親個体の標高を推定し、垂直方向の散布距離を算出した。その結果、垂直散布距離の中央値は-111mであり、全体として種子は低標高へ散布される傾向が示された。また、高標高へ運ばれた種子(7個)の散布距離の中央値は197m、最大値は621m、低標高へ運ばれた種子(13個)の散布距離の中央値は336m、最大値は662mであり、両者の間に有意差は認められなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は浅間山(軽井沢町)をフィールドに、ツツジ科・小低木(主にガンコウランとクロマメノキ)と、その繁殖に関わる花粉媒介者(主にマルハナバチ)と種子散布者(主にツキノワグマ)の3者をめぐる相利共生ネットワークの全貌を解明すると同時に、気温上昇が高山帯の相利共生ネットワークに与える影響を推測し、将来を予測することを目的とする。 (a)「ガンコウラン・クロマメノキの生育状況の把握」研究では、標高の異なる11の地点に1つずつ設置した長期モニタリング調査ポイントで継続調査が実施できた。(b)「マルハナバチを中心とする花粉媒介者の特定」研究では、クロマメノキ、シラタマノキ、コケモモの花の形態を分析し、マルハナバチとアリ類による他家受粉が起こりやすい形態を有しているのかを特定できた。強制受粉実験を行ってクロマメノキ、シラタマノキ、コケモモの受粉様式(自家受粉、他家受粉)を把握できた。花に訪れたマルハナバチ類の種類は特定できたが、花粉団子を足につけた個体が少なかったため、花粉分析は実施できなかった。(c)「ツキノワグマを中心とする種子散布者の特定」研究では、各調査ポイントに設置した自動撮影カメラを用いてモニタリング調査を実施し、果実を利用する哺乳類と鳥類を把握できた。踏査による哺乳類の糞の採取と、人工とまり木付き種子トラップを用いた鳥類の糞の採取を実施できた。(d)「ツキノワグマによる種子散布の有効性の把握」研究では、クマの糞から検出された種子の酸素安定同位体比を分析し、動物が種子を運んだ標高差を推定できた。(e)「相利共生ネットワークの全貌把握」研究と(f)「変容シナリオの構築」研究では、調査を通じて有効な情報が得られた。 ただし、(b)(c)(d)については、2019年8月に浅間山で起こった小規模噴火に伴う入山規制の影響で予定していた調査ができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
(a)「ガンコウラン・クロマメノキの生育状況の把握」研究では、森林限界付近の標高から4種種の分布がみられなくなる標高までの間に、調査プロット(2m×50m)を標高差100m間隔で設置し、植生調査を実施することで、4樹種(ガンコウラン、クロマメノキ、シラタマノキ、コケモモ)の分布状況、出現頻度、気温上昇が原因とみられる枯れの状況を把握する。(b)「マルハナバチを中心とする花粉媒介者の特定」研究では、マルハナバチ類の足についている花粉団子の分析、花粉媒介に関与するアリ類の特定などを実施し、有効な花粉媒介者を特定する。(c)「ツキノワグマを中心とする種子散布者の特定」研究では、自動撮影カメラを用いたモニタリング調査を継続し、4年間のデータから、果実を利用する哺乳類と鳥類の全体像を把握する。(d)「ツキノワグマによる種子散布の有効性の把握」研究では、哺乳類(ツキノワグマ、キツネ、ノウサギ)と鳥類の糞から検出された種子の酸素安定同位体比から、動物が種子を運んだ標高差を推定する分析方法を用いて、ガンコウランの種子の垂直散布距離を推定する。また、それらの推定値を動物種間で比較することで、垂直種子散布に果たす各動物種の貢献度を把握する。(e)「相利共生ネットワークの全貌把握」研究と(f)「変容シナリオの構築」研究では、(a)~(d)の調査から得られたデータをもとに、相利共生ネットワークの全貌を把握するとともに、気温上昇が進行した場合の変容シナリオを構築する。
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Causes of Carryover |
理由)2020年3月開催の国際学会(7th Frugivores and Seed Dispersal Symposium)で発表する予定であったが、新型コロナウイルスの感染・拡散の恐れがあることと、開催国インドで日本人を対象としたスクリーニング検査が強化されるなか、入国ができない可能性があるため、学会への参加を見送った。また、8月に浅間山で起こった小規模噴火に伴う入山規制の影響で予定していた調査ができなかった。次年度使用額が生じた理由は、以上の2点である。 使用計画)残りの助成金をフィールド調査や学会発表の旅費、論文の英文校閲や投稿料に充てる計画である。
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Research Products
(6 results)