2017 Fiscal Year Research-status Report
耐雪性スギ系統に見られる特異的な年輪構造が根元曲がり抵抗性に及ぼす影響の解明
Project/Area Number |
17K07850
|
Research Institution | Yamagata Prefectural Forest Research & Instruction Center |
Principal Investigator |
宮下 智弘 山形県森林研究研修センター, 森林資源利用部, 研究員 (80370849)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高田 克彦 秋田県立大学, 木材高度加工研究所, 教授 (50264099)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | スギ / 根元曲がり / 雪害 / ミクロフィブリル傾角 / 抵抗性育種 |
Outline of Annual Research Achievements |
雪圧害の一つであるスギの根元曲がりは系統により被害程度が異なるが、このような差がなぜ生じるのか充分に明らかにされていない。根元曲がりは樹冠への着雪による幹の傾きと融雪後の不完全な回復によって形成されるが、特に幹の傾く量は根元曲がり形成量への影響が大きい。幹の傾く量はヤング率などの木材性質の影響が大きいと考えられ、中でも雪圧の影響を強く受ける幼齢期のそれは重要と考えられる。そこで本研究では、木材性質が根元曲がり抵抗性に与える影響を検討した。 伊藤・佐藤(1980)と宮下(2009)の報告をもとに、両報告で抵抗性が高いと評価された6系統を抵抗性集団、抵抗性が低いと評価された3系統を非抵抗性集団として供試した。また、人為的な選抜の影響を受けていない天然スギ等の3系統も非抵抗性集団として供試した。これら12系統について各系統内でサイズが平均的な3個体(一部系統は5個体)から成長錐コアを採取した。髄から約20年輪までは2年輪毎に、それ以降は5年輪毎に晩材を解繊し、仮道管長軸方向と壁孔口の傾きをミクロフィブリル傾角(MFA)として測定した。 コアサンプリングした12系統のうち10系統を測定した結果、抵抗性集団と非抵抗性集団のMFAは異なる傾向が観察され、抵抗性集団のMFAは全ての年輪において低い値を示した。特に髄から約5年輪までの間のMFAは集団間に有意差が認められた。既存の研究からMFAが低いとヤング率は高くなる傾向が認められており、木材強度は根元曲がり抵抗性に影響するという本研究の仮説は支持される結果を得た。過去の報告から根元曲がりの指標となる傾幹幅の評価値を系統毎に引用し、今回得られたMFAとの相関係数を検討すると、特に幼齢期のMFAで高い値が得られた。これらのことから、雪圧の影響を受ける幼齢期の木材強度が根元曲がり抵抗性に影響を与える可能性が示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度の当初計画では、調査対象個体の選定と林分調査の実施、および10系統についてMFAと仮道管長、年輪毎に早材・晩材密度の測定に着手する計画となっている。研究を実施するにあたり過去の文献調査を詳細に行ったところ、MFAと根元曲がり抵抗性の関連を示唆する事例があり、様々な木材形質の中でもMFAは特に重要な形質であることが考えられた。このため、本研究で測定しようとしている複数の木材形質のうち、MFAは優先して測定するべき形質であると判断した。そこで、調査対象個体の選定や林分調査等は当初計画通り実施した後、今年度は計画の一部を見直してMFAの測定を前倒して注力した。その結果、10系統についてはMFAの測定を終了することができ、新規性の高い知見を得ることができた。この成果は3月に行われた日本森林学会において発表するとともに、現在はこれら知見を取りまとめて論文投稿の準備を進めている。一方、仮道管長や早材・晩材密度、応力波伝播速度などの測定については当初計画通り着手したものの、主たるデータ測定は次年度以降に実施する計画である。 以上のことから、MFAの測定については当初計画以上に進展し、他の形質については計画通りの進捗状況であることから、おおむね順調に進展していると判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでも述べてきたように平成29年度はMFAの測定を重点的に進めたが、今後は木材強度の指標として仮道管長、早材・晩材の容積密度、応力波伝播速度など他の木材形質の測定を進める。MFA、仮道管長、容積密度については抵抗性および非抵抗性集団の経年変化も比較できるように、仮道管長は幼齢期で約2年輪ごと、その後は5年輪ごとの測定を実施している。容積密度の測定は早材・晩材毎に可能な限り全ての年輪について実施している。応力波伝播速度はヤング率を簡易的に推定できる形質であるが、これにより抵抗性を簡易推定できないか検討する。 なお、現在までに12系統38個体からのコアサンプルを採取して各種の木材形質を測定している。今後これらのコアサンプルをもとに上述の木材性質を詳細に調べていくが、本研究の仮説検証のためには、系統数をさらに増やすことが重要である。しかしながら、MFA等の測定は一つのコアサンプルから多くの年輪を調査対象としているため測定に時間を要する。そこで、この12系統については当初計画通り年輪毎に詳細な測定を継続するが、測定の過程で抵抗性に影響を与える木材形質や年代等が明らかになり次第、それら重要な形質・年代等を絞って効率的にデータを蓄積していく。このような効率的な方法によって、抵抗性集団と非抵抗性集団を各10系統程度、計20系統程度の木材形質を測定し、抵抗性との関連を明らかにする。 これらの測定結果をもとに、優良系統を合理的に選抜するために必要な情報、すなわち養老相関や遺伝率等の遺伝パラメータの推定を実施する。さらに応力波伝播速度によって非抵抗性個体を簡易的に選別できないか検討する。
|
Causes of Carryover |
DNA分析を外部委託することによって当初予定していた必要経費よりも安価に実施することができた。一方、平成29年度は研究計画を一部変更してMFAの測定に注力したため、容積密度および仮道管長の主たる測定は平成30年度に実施する計画とした。以上の理由から、29年度の余剰金額は次年度使用額として計上し、容積密度や仮道管長を測定するための必要な資材の経費や、それらのサンプルを得るための出張旅費として使用する。
|
Research Products
(1 results)