2017 Fiscal Year Research-status Report
セルロース系分子の溶解性の分子シミュレーションによる定量化と溶解機構の解明
Project/Area Number |
17K07873
|
Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
上田 一義 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 教授 (40223458)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 溶媒和自由エネルギー / セルロース / セルロース誘導体 / 分子動力学シミュレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、セルロースおよびセルロース誘導体の、水や有機溶媒への溶解性を分子シミュレーションにより定量化する方法の確立を目的としたもので、溶解の機構を分子レベルで明らかにすることにより、溶解の制御の基礎知見を得ようとするものである。セルロースは分子構造中に水酸基を多く持つにも関わらず水への溶解性が低いが、その理由については多くの定性的説明がなされているものの定量的な考察はない。セルロースはエネルギー源・原料としての期待が高いが、難溶解性であることが利用に向けての最大の問題点である。セルロースとその誘導体の溶解性を定量的に明らかにすることは、セルロース科学の基礎知見として重要であるのみならず、新規のセルロース溶剤の開発にも寄与する。平成29年度は、セルロースのオリゴマー、及びセルロース誘導体のオリゴマーを用いてermod法を基礎とした自由エネルギー計算による溶解性の定量化方法の確立と、分子レベルでの溶媒和構造の検討による溶解機構の解明を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度は、セルロースのオリゴマー、及びセルロース誘導体のオリゴマーを用いてermod法を基礎とした自由エネルギー計算による溶解性の定量化方法の確立と、分子レベルでの溶媒和構造の検討による溶解機構の解明を行った。これまでの研究で、既にセルロースオリゴマーとして2量体について分子シミュレーションの予備実験を行っており、その結果に基づいてermod計算により、溶媒和自由エネルギー(△μ)を求めることに成功していた。 しかし、分子が溶媒に溶解するかどうかは、この溶媒和自由エネルギーのみからでは判定できない。溶解は、最初に固体状にあるセルロースを、一度分子鎖を一本づつ、ばらばらの状態とし(解離自由エネルギー:△Gs)、その後、分子鎖を溶媒中に溶媒和させて、溶解自由エネルギー:△μ(solution)を求めるプロセスが必要である。平成29年度は、その解離の自由エネルギーを評価する方法について検討し、これらをセルロースのオリゴマーに適用して、セルロース溶解性の定量的評価法として確立した。さらに、これらの方法を適用することにより、セルロースオリゴマーの4、6、8,10量体について溶解自由エネルギーを求めた。その結果、計算では6量体以上の長さになるとセルロースオリゴマーは水に溶解できないことが自由エネルギー計算の結果から推測された。実験では、セルロースオリゴマーは6~8量体付近から水に不溶となることが言われており、実験と計算との一致は良い。さらに、残基数によって、受ける水和の強さが異なることの原因を調べるため、水素結合数の解析を行った。その結果、残基数が多いオリゴマーほど末端ヒドロキシ基の影響が弱くなることと、水分子との水素結合数が減少することで水分子との間の相互作用が弱くなっていることが明らかになった。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、セルロースのオリゴマーを用いて、セルロース溶解性の定量的評価法を確立することが出来た。さらに、これらの方法を適用することにより、セルロースオリゴマーの4、6、8,10量体について溶解自由エネルギーを求めることが出来た。 しかし、ここまでの検討で溶解自由エネルギーの評価により溶解性の定量的評価が可能になっても、なぜ、このオリゴマーの長さで、溶解から不溶に変化するのか、そのメカニズムについては明らかにはならない。それを明らかにするためには溶媒和のミクロな構造から生じる原子レベルの相互作用の情報に基づく機構の解明が必要である。そこで、平成30年度は以下の検討を行う。自由エネルギーは△F=△H-T△Sの関係式から、温度変化を行うと溶解のエンタルピーとエントロピーの項を別個に求めることが出来る。そこで、0度付近から100度付近までいくつかの温度で、溶解自由エネルギーを求め、セルロースの溶解におけるエンタルピーとエントロピーの寄与を明らかにする。このような情報はこれまで精度よく求められたことはなく、今後のセルロース化学の基盤情報として貴重な情報を与えるものと考える。また、セルロースの水和の原子レベルでの機構の研究では、研究協力者である、米国・Bradley大学のSchnupf准教授の協力も仰ぐ予定である。研究協力者は、セルロース鎖の回りに溶媒和している水分子の微細な配向を配向角分布を求めることで、その溶媒和状態がエントロピー的であるか、エンタルピー的であるかを判定する方法の確立を進めている。我々の研究も順調に進展していることから、今年度は溶媒和機構の詳細について議論できる状況になると思われ、訪米して協働研究の推進を図る予定である。
|
Causes of Carryover |
計算用コンピューターと解析用コンピューターの予算を確保していたが、今年度は計画の第一年目であり、計算に注力したため、解析用パソコンは当初2台を購入予定のところ、1台の購入に留めた。また、計算用コンピューターも機能対費用が向上し残余の予算を確保することができた。一方、計画は進展しており、本年度は第1年度に保留した、解析用パソコンの購入を行いたい。さらに、本年度は外国旅費として、結果の詳細な検討のため、米国の共同研究者を訪問することを計画しているが、それとともに、得られた結果について米国化学会での学会発表も別途行いたく、それらを含めた、予算として使用することを計画している。
|
Research Products
(11 results)