2019 Fiscal Year Research-status Report
Evaluation of the contribution of Submarine Groundwater Discharge (SGD) to biological production of coastal fisheries resources by using stable isotope ratio recorded in the algae and the shell
Project/Area Number |
17K07889
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Research Institution | Fukui Prefectural University |
Principal Investigator |
富永 修 福井県立大学, 海洋生物資源学部, 教授 (90264689)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 炭素安定同位体比 / 酸素安定同位体比 / アサリ貝殻断片 / アオサ / 炭酸塩 / DIC / ジオミル |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はアサリ貝殻の切片中の炭素および酸素安定同位体比を用いて近過去から現在に至る地下水環境の時間的変化の把握を試みた。 2019年9月5日から10月24日の期間、事前に飢餓状態で約1か月間飼育した三重県産アサリを6個体ずつ小型のコンテナに入れて、小浜湾内の双児島(Ft)、西津(Nz)、甲ヶ崎(Kg)、仏谷(Ht)、堅海(Kt)の5地点で飼育培養した。貝殻断片に記録される成長線を確認しながら切削を行うために、貝殻サンプルを乾燥したのち切断し、エポキシ樹脂に包埋・細切し切片サンプルを作成した。切片サンプルを総合地球学研究所のマイクロミルを用いて縁辺部側(現在サンプル)と内側(近過去サンプル)に分けて切削し、δ13CSHELLおよびδ18OSHELLを測定した。分析にはガスベンチ安定同位体質量分析器を用い、微量サンプル分析のための実験系を開発した。切削した標本のδ13CSHELLから推定した淡水性地下水の寄与率は、西津を除き環境水から算出した寄与率とよく一致した。2ソースベイズ混合モデルによる推定値とも符合しており、小浜湾内に流入する地下水の寄与をδ13C値によって推定できることが示唆された。しかし、δ18OSHELLから推定した寄与率は環境水と貝殻の間に10%以上の差がみられた。今後、季節変化を考慮したエンドメンバーや環境水情報の蓄積、切削精度を向上させることで、近過去から現在に至る地下水環境の時間変化を把握することが可能になると考えられた。 気仙沼で採集されたアサリ貝殻の年齢を推定し切削範囲の期間を推定したところ、測定に用いたアサリ個体は生後8カ月であった。貝殻分析結果から春季に地下水寄与率が低下し、夏に上昇することが推測された。この結果は、気仙沼での地下水環境調査の季節変化と符合していた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
この3年間で本研究の主目的である海底湧水のシグナルを天然海域の2枚貝および海藻(アオサ)から検出し、地下水寄与率を推定する方法を確立できた。特に、貝殻中の炭素安定同位体比および酸素安定同位体比をトレーサとして、海水、河川水、地下水のDICおよび酸素の濃度および安定同位体比を用いた3ソースのベイズミキシングモデルを適用した新規の方法は、沿岸域の地下水寄与率を推定するうえで非常に有効であることが検証された。これまで、生物から地下水シグナルを検出する手法がなかったことから、本手法の開発は大きな成果であった。 一方、当初の計画では開発した本手法を湧水環境の異なる5~6か所で検証する予定であった。しかし、調査時期が台風や勢力が大きい低気圧と重なり、現場調査を十分にこなすことができなかった。これまで日本海の海底湧水環境の異なる2カ所で厳密な検証ができたが、精度向上のためにも最低1か所を追加調査する必要がある。特に栄養塩濃度が高い高緯度域の海域において新規手法を適用することが重要である。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度はこれまで開発した炭素および酸素安定同位体比をトレーサーとした地下水シグナル検出方法と3ソースベイズミキシングモデルによる寄与率推定方法を用いて、昨年度までに天候等で実施できなかった北海道日本海で海藻と地下水環境の近過去の復元を行う。また、東日本大震災後の藻場の回復と海底湧水環境の関連性を検討するために本研究の成果を適用することを計画している。具体的には、固着性二枚貝(マガキ)の貝殻断面から震災後の地下水環境の時間変化を復元させて、藻場再生に対する地下水環境の効果を評価する。 本研究で残されているもう一つの課題として、微量サンプルに対する炭酸塩の炭素安定同位体の分析手法を開発する。2019年度の分析時に、これらの課題を整理して問題点を精査した。本年度は、貝殻断片の掘削方法の改善と分析に使用するバイアルの選択でこれらの問題を解決することを計画している。具体的には、微量な粉末サンプルの収集方法と濃度が低いことが想定されるサンプルの濃縮方法を検討する。
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Causes of Carryover |
本研究の主目的である海底湧水のシグナルを天然海域の2枚貝貝殻および海藻(アオサ)から検出し、地下水寄与率を推定する方法を確立できた。当初の計画では開発した本手法を湧水環境の異なる5~6か所で検証する予定であった。しかし、調査時期が台風や低気圧と重なり、現場調査を十分にこなすことができなかった。これまで日本海の海底湧水環境の異なる2カ所で厳密な検証ができたが、精度向上のためにも最低1か所を追加調査する必要がある。現在、最も高緯度の北海道日本海側での海底湧水環境調査を計画しており、そのための旅費と消耗品費、分析に関わる費用が必要である。また、昨年度日本水産学会で計画していたシンポジウム(本研究の成果を発表する予定)が新型コロナウイルス問題で延期になり、令和3年度の水産学会(令和3年3月)に行われることになっている。そのための旅費および研究成果の論文作成のための予算として利用する。
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