2020 Fiscal Year Research-status Report
Evaluation of the contribution of Submarine Groundwater Discharge (SGD) to biological production of coastal fisheries resources by using stable isotope ratio recorded in the algae and the shell
Project/Area Number |
17K07889
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Research Institution | Fukui Prefectural University |
Principal Investigator |
富永 修 福井県立大学, 海洋生物資源学部, 教授 (90264689)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 炭素安定同位体比 / 酸素安定同位体比 / 窒素安定同位体比 / アオサ培養試験 / 硝酸窒素安定同位体比 / DIN / 山形県遊佐町 / 海底地下水湧出 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、県境を越えてのサンプリング調査を実施できなかったが、アオサの同位体分別係数と同位体分別に影響を及ぼすと考えられる、栄養塩濃度と光量への応答を検証した。 材料と方法 同位体分別係数を陸上屋外水槽の培養実験で検討した。屋外の300L水槽を用い、海水かけ流し(流速12.5L/h)で最長22日間海藻を培養した。3段階の栄養塩濃度および光量条件を設定した。栄養塩添加量は尿素30g、硫安70g、過リン酸石灰30gを基本に9時、12時、15時に栄養塩を添加し、基本量の2倍および3倍量添加して栄養塩濃度を変化させた。。培養実験ではアナアオサを一辺2㎝程度の正方形上に切断した後で内部を透明な板で仕切ったプラスチック容器に入れ、1~22日間培養した。定期的に3個体ずつ回収し、各個体の全体を粉末にして試料を作成し、京都大学生態学研究センターでアオサのδ13Cおよびδ15Nを測定した。 結果 陸上屋外水槽での培養実験 栄養塩条件を変化させて実施した実験では、栄養塩添加量が少ないほど同位体比が低下したが、個体間の変動が大きかった(多:-7~-14‰、中::-7~-11‰、少:-3~-15‰)。次に、寒冷紗を用いて光量を変動させた水槽では、光量が多い水槽で同位体比の変動が大きかった (20日目:-12.5‰) 。一方、光量が中および低段階の水槽で飼育した標本は、よく似た変化傾向を示した(20日目光量中:-2.2‰、光量低:-2.7‰)。 栄養塩添加量が少ない水槽では同位体比が低下したが、栄養塩濃度が高いほど同位体分別が行われることと矛盾する。アオサの窒素の取り込みには光環境も大きく影響しており、栄養塩濃度を変動させた実験では水の懸濁が実験結果に影響した可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
理由 この4年間で本研究の主目的である海底湧水のシグナルを天然海域の2枚貝および海藻(アオサ)から検出し、地下水寄与率を推定する方法を確立できた。特に、貝殻中の炭素安定同位体比および酸素安定同位体比をトレーサとして、海水、河川水、地下水のDICおよび酸素の濃度および安定同位体比を用いた3ソースのベイズミキシングモデルを適用した新規の方法は、沿岸域の地下水寄与率を推定するうえで非常に有効であることが検証された。これまで、生物から地下水シグナルを検出する手法がなかったことから、本手法の開発は大きな成果であった。 最終年度に全国の二枚貝貝殻およびアオサヲ収集し、日本沿岸での地下水寄与率推定を推定する予定であったが、新型コロナウイルス対策で県境を越えた調査が制限を受けたことから、野外調査が現在進んでいない。また、本研究では安定同位体比分析に関して、総合地球環境学研究所と京都大学生態学研究センターを利用することになっているが、県境を越えての移動が制限されていることから、分析を予定通り進めることができなかった。 一方、この間、同位体分別に関する実験を追加することができたことから、当初の計画以上の新たな情報を修得し、推定精度を向上させることができる。すでに、実験を終了し、分析のための前処理までを進めているので、感染対策の制限が解除されると実験を再開できる。 遅れている最大の原因は、感染防除のための移動制限であるので、解除され次第分析を終え、論文化する計画である。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度はこれまで開発した炭素および酸素安定同位体比をトレーサーとした地下水シグナル検出方法と3ソースベイズミキシングモデルによる寄与率推定方法を用いて、昨年度までに天候および新型コロナ対策による移動制限等で実施できなかった北海道日本海で海藻と地下水環境の近過去の復元を行う。また、東日本大震災後の藻場の回復と海底湧水環境の関連性を検討するために本研究の成果を適用することを計画している。具体的には、固着性二枚貝(マガキ)の貝殻断面から震災後の地下水環境の時間変化を復元させて、藻場再生に対する地下水環境の効果を評価する。 本研究で残されているもう一つの課題として、微量サンプルに対する炭酸塩の炭素安定同位体の分析手法を開発する。2019年度の分析時に、これらの課題を整理して問題点を精査した。昨年度は総合地球環境学研究所での分析が、移動制限のため実施できなかったが、本年度は、貝殻断片の掘削方法の改善と分析に使用するバイアルの選択でこれらの問題を解決する。具体的には、微量な粉末サンプルの収集方法と濃度が低いことが想定されるサンプルの濃縮方法を試行する。 貝殻分析とアオサの分析たのための前処理はほぼ終了していることから、同位体の分析と論文作成を中心に研究を進める。
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Causes of Carryover |
本研究の主目的である海底湧水のシグナルを天然海域の2枚貝貝殻および海藻(アオサ)から検出し、地下水寄与率を推定する方法を確立できた。当初の計画では開発した本手法を湧水環境の異なる5~6か所で検証する予定であった。しかし、2019年には、調査時期が台風や低気圧と重なり、現場調査を十分にこなすことができなかった。これまで日本海の海底湧水環境の異なる2カ所で厳密な検証ができたが、精度向上のためにも最低1か所を追加調査する必要がある。2020年度では、最も高緯度の北海道日本海側での海底湧水環境調査を計画していあた、そのための旅費と消耗品費、分析に関わる費用を継続して使用るする予定であった。 しかし、2020年度は新型コロナウイルスの対策で県境を越えての移動が厳しく制限され、北海道沿岸での調査と総合地球環境学研究所(京都市)および京都大学生態学研究所での分析を予定通り進めることができなかった。一方、2019年度日本水産学会で計画していたシンポジウム(本研究の成果を発表する予定)は、2020年度の水産学会(令和3年3月)でオンライン開催された。 本年度は、安定同位体比分析のための前処理が終わっている標本の分析と北海道での野外サンプリングを実施する。また、論文投稿準備が終わっているので、論文作成を進める。そのため、旅費および分析消耗品および論文投稿費用として研究費を使用する計画を立てている。
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