2018 Fiscal Year Research-status Report
海洋における難分解性溶存有機物の動態を左右する微生物系統群の解明
Project/Area Number |
17K07896
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Research Institution | National Institute for Minamata Disease |
Principal Investigator |
多田 雄哉 国立水俣病総合研究センター, その他部局等, 研究員・ポスドク (40582276)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 海洋微生物 / 海洋微細藻類 / 溶存態有機物 |
Outline of Annual Research Achievements |
H30年度は、前年度に作成した微細藻類抽出物質の内、珪藻2種(T. pseudonana、T. oceanica)、ハプト藻 (Emiliania huxleyi)、シアノバクテリア(Synechococcus sp.)抽出物質のペプチド態及び遊離態アミノ酸組成分析を行った。この結果、ペプチド態のアミノ酸組成比は4種の微細藻類間で類似していることが明らかとなった。一方、遊離態アミノ酸組成比は、4種の微細藻類間で異なることが明らかとなった。 これらの抽出物質の内、外洋性の微細藻類であるハプト藻 (E. huxleyi)及び珪藻 (T. oceanica)由来の抽出物質を用いて、有機物添加培養実験(マイクロコスム実験)を実施し、微生物群集構造及び代謝遺伝子解析用の核酸試料、FDOM解析試料を取得した。培養実験は、鹿児島県長島町で取得した海水を実験室に持ち帰り実施し、培養時間は3日間とした。また、コントロール区として、何も添加しない処理区を置いた。微生物群集構造解析の結果から、両微細藻類の抽出物質添加画ではFirmicutesとBacteroidetes系統群の割合が増加していたことが明らかとなった。また、FDOMの解析結果から、タンパク質様物質 (B及びT)の蛍光値が培養後に減少していたことから、これらの物質は微生物の分解を受けた可能性が考えられた。腐植様物質Mの蛍光値は全処理区で減少した。また、腐植様物質Aの蛍光値はコントロール区で増加していたのに対し、ハプト藻抽出物質添加区では減少していた。また、ハプト藻由来の腐植様物質Cは増加する傾向が見られた。これらの結果から、外洋性微細藻類が生成する有機物の遊離態アミノ酸組成は異なること、また、これらの有機物に含まれるFDOMの微生物による分解・生成は微細藻類間で異なる可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H30年度は、微細藻類抽出物質のアミノ酸組成解析およびこれらを用いたマイクロコスム実験を実施することができた。アミノ酸組成解析では、珪藻株に関しては外洋性のものと沿岸性のものとで、遊離態アミノ酸組成比が異なることが明らかとなったことから、沿岸域と外洋域での有機物(アミノ酸)の動態が異なる可能性を示すことができた。また、外洋性の微細藻類間でも遊離態アミノ酸組成比が異なることが明らかとなったことから、天然環境において優占する微細藻類種が変化することで、海洋における有機物循環の構造が変化する可能性を示すことができた。微細藻類由来有機物を天然海水に添加するマイクロコスム実験では、微生物遺伝子試料及び蛍光性溶存有機物試料を取得・解析することができた。まだ全ての分析が終了しているわけではないが、微細藻類由来の有機物を海水に添加することで、微生物の群集構造変化に伴って蛍光性溶存有機物の蛍光値が変化することを見出すことができ、これらの結果について2019年5月に実施される日本地球惑星科学連合で発表を行った。沿岸域における微生物-溶存有機物-微細藻類の相互作用研究に関して追加試料を取得する目的で、2018年7月に広島大学附属練習船を用いた海洋観測に参加予定であったが、船のエンジントラブルにより、航海が中止となったため、試料取得はできなかった。 微生物単離株を用いた培養実験に関して、現在、微生物培養実験系を立ち上げており、着々と整備されつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、マイクロコスム実験で取得した試料の微生物群集構造及び蛍光性溶存有機物解析を引き続き実施してゆく。加えて、マイクロコスム実験で取得した核酸試料に対して、微生物代謝遺伝子解析を実施することで、微細藻類由来の有機物に対して、海洋細菌の代謝遺伝子がどのように変化するかを明らかにしてゆく。 微生物培養株を用いた培養実験に関しても、早急に微生物培養の実験系を立ち上げ、今年度中に実施したいと考えている。培養実験で使用する予定の微生物培養株Thalassomonas agarivorans及びNereida ignavaは既に購入済みであり、実験系が立ち上がり次第、速やかに実験を実施できる状況にある。また、これらの結果をまとめて、国際または国内学会での発表を行う。
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Causes of Carryover |
沿岸域における微細藻類-溶存有機物-微生物間の相互作用研究に関して追加試料を取得する目的で、2018年7月に広島大学附属練習船を用いた海洋観測に参加予定であったが、船のエンジントラブルにより中止になったため、研究計画に変更が生じた。
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